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- 山崎多賀子が聞く『快適に暮らすヒント』
がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」
がんになっても快適に暮らすヒント Vol.6 「いのちの授業」でがん患者が子どもたちに伝えたいこと
国内でも、子どもたちを対象とした「がん教育」への取り組みが始まります。でもそれ以前から、がん患者が子どもたちに行う「いのちの授業」という活動があるのをご存じでしょうか? 私は子育て経験がないので、関心はあるけど……という段階で止まっていました。今回、がん患者を対象に「全国がん患者団体連合会(全がん連)」(*コラム参照)が主催する「第1回がん患者カレッジ」のテーマが、まさに「がん教育」。絶好の機会と思い、取材を兼ね2日間の講座を受講し、都内の小学校で実際の「いのちの授業」を見学させていただきました。
今回は、講座のカリキュラムを作成・実施し、鹿児島を拠点に「いのちの授業」の活動を行う、NPO法人がんサポートかごしまの理事長、三好綾さんに、がん教育と「いのちの授業」が伝えたいことについてうかがいます。
山崎 国による「がん教育」への取り組みが始まる前の2010年から、がんサポートかごしまでは、小学5、6年生や中学生、高校生を対象に「いのちの授業」をされています。「いのちの授業」はその名の通り、がんという病気のことだけでなく、命の大切さを伝える授業ですね。どういう想いで活動されているのでしょう。
三好綾さん 27歳で乳がんになったのをきっかけに、鹿児島にてがん患者や支援者の交流を進め、2007年患者会「がんサポートかごしま」を発足。患者支援のイベントやがん患者サロンの設置などを行う。2010年に「いのちの授業」を開始。特定非営利活動法人(NPO)がんサポートかごしま理事長、全国がん患者団体連合会事務局長、鹿児島県がん対策推進協議会委員
三好 一番にあるのは、「命がもったいない」という想いです。虐待やいじめ、自殺……。子どもの悲しい事件が毎日たくさん報道されていますよね。子どもたちが少しでも生きてくれるために、何かできないのかなと、とずっと考えていました。ただ、どうすればいいのかわかりませんでした。
山崎 それを行動へ移したきっかけはなんだったのですか?
三好 直接のきっかけは、大分の小学校の養護教員で、がん患者の山田泉さん(*)が行っている「いのちの授業」を、NHKのドキュメンタリー番組で見たことです。その翌日には、ああいった授業を鹿児島でもできないかなと、患者会のメンバーで話していました。
*月刊「がんサポート」2008年12月号「鎌田實のがんばらない&あきらめない対談」にて山田泉さんとの対談記事が掲載されています
人の縁に支えられながら試行錯誤を重ね
綿密な準備のもとに臨む授業スタイルが出来上がった
山崎 私も山田泉さんの映画を観ましたが、ご自身のがんの体験を通して、荒れたり悩みを抱えている生徒たちに、命の大切さを伝えていましたね。
三好 はい。山田泉さんはすでに亡くなられていて、直接お話を聞くことは叶いませんでしたが、とにかくやろうと。そのときたまたま新聞で「がんのことをもっと知ろう」という、国立がん研究センターの統計学の医師たちが作った冊子の紹介記事を読んだんです。直接電話をして、「いのちの授業をやりたいので教材にさせてください」と頼んだら、興味をもってくれて協力してくださり、最終的に鹿児島県の教育庁の協力をとりつけることができました。本当にラッキーというか、人の縁に助けられました。
山崎 まだ「がん教育」という言葉もない時代に、奇跡のような話ですね。山田泉さんが、導いてくれたのかしら。ただ、授業のモデルケースはないわけですよね。
三好 はい。やり方がわからないので、学校の先生に授業のアドバイスを受け、最初は2人1組になって一方的に話をするだけでした。回数を重ねる中、子どもたちに何を伝えたいのか、どうやったら伝わるのかを何度も何度も話し合い、いまのスタイルが出来上がりました。
山崎 授業内容だけでなく、細かい実施計画を立て、先生方との事前打ち合わせや、がん患者さんに聞きたいことなどの事前アンケート、座席表……と想像以上に綿密な準備をされ授業を構成している。授業が終わったあともアンケート以外にお手紙をもらい、返事を書くまでフォローするなど、大変な労力をかけられていることに、正直、驚きました。
三好 クラスの中には、いろいろな環境の子どもたちがいます。実際に親御さんががんだったり、がんで亡くなっていたり、自分自身が小児がんである場合もあります。それ以外にも、いじめられていて死にたいと思っている子や、親御さんと子どもとの関係も様々です。そういうことを前提に、誰一人傷つけないでメッセージが伝わるようにするには、どれだけ準備をしても足りないくらいです。
山崎 子どもたちにはどのようなことを伝えたいのですか?
三好 がんについては、「がんは怖いと思っているかもしれないけれど、経験した人でもこんなふうに活動できるようになったよ。楽しく暮らしているよ」というのを知ってもらうことが1つ。そして、「がんで亡くなる人もいるのも確かだよ。でも、亡くなっていくことが悪でも、負けでもなくて、人はいずれ必ず亡くなるんだから、それまでをどう生きるかが大事なんだよ」ということを伝えたいです。
「子どもが主役」の授業だから
誰一人傷つけない、真実ではない一般論は避ける
山崎 今回の授業でも、「三好さんは、がん患者さんです」と自己紹介したときに、子どもたちが一斉に「え~?」と意外そうな反応でしたね。がん患者のイメージと違っていたのでしょう。そして27歳で乳がんになって、とても怖かったこと。でも小さい息子がいて、生きていたいと思ったこと。「でもいまはこんなことをしています」と、そのときどきの正直な気持ちを、1人ひとりの目を見ながら話していた。三好さんを見て、「がんて、思っていたほど怖くはないのかもしれない」と、少しずつ見方が変わっていったのではないでしょうか。
さらに、三好さんたちのメンバーで、がんで亡くなった「かみづるさん」の写真による「いのちの授業」。ここにも、がんの話だけでなく、「あなたはあなたのままでいい」「生きているだけで金メダル」という、子どもたちへのメッセージがありました。
三好 子どももいっぱい悩んでいて、自殺したいと思ったり、自信がなかったりする子はたくさんいます。そんな子どもたちに、このままでいいんだと自分の個性を好きになってもらったり、生きている素晴らしさや、自分も他人の命も大切だということを知ってもらいたい。そして、ちょっと変わりたいなと思ったり、明日から頑張ろうと思ったりして、楽しく生きてくれたらいいなって思います。
山崎 講座を受けて、子どもたちにわかるように説明する言葉の難しさもさることながら、それ以上に、いのちの授業を実施するために、話す内容がとても慎重でなければいけないことがわかりました。
三好 一番忘れてはいけないのは、「子どもが主役」ということなんです。大人なら聞き流せたり、感動で涙する個人的な美談も、そうでない環境にいる子が聞くと傷ついて、その後の人生に影響することがあります。そこまで想いを馳せる配慮がなくてはいけないと思います。
例えば、がんになると何かを失ってしまうという前提で話してしまうと、子どもは、「がんになるといろいろなものを失ってしまうんだ」と思い、「がん患者は可哀想」という価値観をもってしまう。でも実際にはそうとは限らない。必ずしも真実ではないことを子どもに一般論で語ってはいけないと思うのです。
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