がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.13 がん治療と膣トラブル

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年8月
更新:2017年8月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)動画にて、「治療中でも元気に見えるメイクのコツ」を発信中

女性特有のがんの中で、乳がんや子宮体がんでは女性ホルモンを抑える治療や卵巣にダメージを与える抗がん薬により、早く閉経する場合があります。患者は卵巣や子宮に意識が集中しがちですが、それら臓器の手前にある「膣」も大きく変化することは知られていません。しかし、膣の変化(老化)は「性交疼痛」など様々なトラブルが起こります。ただ、性器の話は友人同士でも語られることがなく、人知れず悩んでいる人が少なくありません。実際の悩みとその対策法や最新の治療法について、アヴェニューウィメンズクリニック(東京都港区)院長で、婦人科医の福山千代子さんを取材します。


山崎 私は45歳で化学療法を受けたのと同時に閉経しました。抗がん薬のほとんどは卵巣機能を低下させると聞きます。若ければ月経は戻りますが、40代以降では9割がた閉経するそうです。また、長期間にわたり女性ホルモンを抑える治療を受ける場合も多い。女性は閉経により、卵巣や子宮が老化することは知っていますが、それに伴い膣も老化するということは意外と知りません。

福山千代子さん 日本産科婦人科学会専門医。アヴェニューウィメンズクリニック院長。金沢医科大学卒業後、東京大学医学部附属病院、茨城県立中央病院で研修後、JCHO東京山手メディカルセンター(旧社会保険中央総合病院)等の勤務を経て、2009年11月より現職。加齢だけでなく、がん治療に伴う膣萎縮によって様々なトラブルが起こるとし、「悩んでいるなら1度ご相談下さい」と積極的な治療を呼びかけている

福山 そうですね。健康な人でも閉経して卵巣から女性ホルモンが分泌されなくなると、卵巣や子宮が小さくなるのと同時に「膣萎縮」や外陰部の萎縮がほぼ100%起こります。さらにがん患者さんに使う抗がん薬は、代謝スピードの速い細胞を攻撃するので、卵巣の細胞も影響を受けやすいため、膣萎縮が起こります。

山崎 私は5年前に婦人科検診で「膣萎縮」と言われました。膣が固くて開かないので子宮体がん検診は省略しました。自覚症状がなく、性交渉もなかったので、こんなに膣が変化しているとは全く気づかず驚きました。膣萎縮とは、どういう状況なのでしょう?

福山 卵巣から女性ホルモンのエストロゲンが分泌されなくなると、膣粘膜の血流が悪くなり栄養が行き渡らなくなります。すると粘膜がターンオーバー(生まれ変わり)できず、コラーゲンを生み出す線維芽細胞(せんいがさいぼう)も激減し、膣粘膜がとても薄くなります。

若い年代の膣粘膜は柔らかく厚みと潤いがあり、ひだ状になっていて、出産できるほど伸縮します。加齢にともない膣粘膜が、薄くツルツルになり、縮み固くなった状態を「膣萎縮」と言います。この状態で性交渉をしようとすると激痛が伴い、無理に挿入しようものなら、膣粘膜がピキっと割れて出血します(図1)。

図1 膣萎縮による変化と様々な不快症状

がん治療による膣萎縮も 治療後の夫婦生活に大きく影響

山崎 誰もが加齢とともに「膣萎縮」は起こるわけですが、がん治療で早く閉経し、その後、夫やパートナーとの性交渉が苦痛で悩んでいる人が多いことは、昔からよく聞きます。痛みを軽減するために、患者会では「潤滑ゼリー」を配っているところもあります。

福山 がんの治療中は夫婦生活を中断される方も多く、やっと治療がひと段落したところで性交渉を再開しようとしたら、痛くてできなかったという方はたくさんいらっしゃいます。膣を治療したわけでもないのに、何が起こったんだろうと、びっくりされてクリニックへ相談に来られるんです。

山崎 日本では性器の話はタブー視されていて、女性の多くが膣も老化することを知らないと思います。がん治療においても、卵巣がダメージを受けたり、ホルモン療法で一時的に妊娠しなくなることは知っていても、膣が萎縮するとは思っていません。夫やパートナーももちろん知りませんから、性交渉を断ることで、夫婦や恋人間に亀裂が入ることもあるようです。

福山 そこが問題です。「膣萎縮」になると性交渉は激痛だけでなく、裂傷(れっしょう)を伴うことも多く、女性にとって恐怖以外の何物でもありません。それが原因で喧嘩になったり、夫に浮気されたと、泣きながら相談に来られる方は多いです。がん治療による膣萎縮で同じように相談に来られる方も少しずつ増えてきました。

山崎 私もそうですが、閉経すると性欲がなくなる女性も多いと思いますが。

福山 性欲はなくても、ご主人やパートナーが可哀想だから。良好な関係を続けたい。あるいは、再婚や年下の恋人ができたから何とか性交渉を再開したいなど、お話を聞くと、それぞれに悩みは深いです。

山崎 男性の理解も重要ですが……。性欲には男女で大きく違うので、難しい話です。

膣内の細菌感染によって 腐敗臭を発することも

山崎 膣萎縮は性交痛だけが問題でしょうか?

福山 そうではありません。まず萎縮は、膣だけでなく外陰部にも起こります。大陰唇(だいいんしん)や小陰唇(しょういんしん)が薄くなり乾燥し、擦れると、痒みや痛みを感じることもあります。自転車のサドルが当たると痛くて長時間自転車に乗れない。縫い目が当たるのでスキニーパンツがはけなくなったなど。乗馬が趣味の患者さんで、裂傷が多数あって治療に来られた方もいました。

山崎 裂傷、ですか。外陰部の違和感だけでもQOL(生活の質)は下がりますね。

福山 もう1つ、膣内が細菌感染を起こし、腐敗臭を発することも多いんです。

山崎 なぜそんなことが起こるのでしょう。

福山 膣内は乳酸によってpH4.4~4.5の酸性に保たれることで、細菌の侵入を防いでいます。具体的には、膣粘膜がターンオーバーするときにグリコーゲンという物質を落とし、それをエサにするラクトバチルス菌や乳酸桿菌(かんきん)といった乳酸菌が住み着くことで酸性に保たれています。ところがターンオーバーがなくなると、エサがなくなり乳酸菌がいなくなってアルカリ性に傾くと、細菌が侵入しやすくなるのです。

山崎 膣の自浄作用が働かなくなるということですね。

福山 はい。膣は肛門と隣り合わせですし、性交でも菌は必ず侵入します。お尻の拭き方など生活習慣で予防もできますが、細菌に感染してしまうと臭いのきつい分泌物が出てきます。もちろん抗生物質で治療ができますが、根本治療にはならず感染を繰り返しやすいですね。

山崎 臭いは精神的なダメージも大きいですね。

福山 さらに高齢になると外陰部や膣のゆるみで尿道口が埋もれてしまい、膣の菌が尿道に入ることで膀胱炎を引き起こすこともしばしばあります。

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