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がんと診断されたら栄養療法を治療と一緒に開始すると効果的 進行・再発大腸がんでも生存期間の延長が期待できる栄養療法とは

監修●内田信之 原町赤十字病院副院長・第1外科部長
取材・文●黒木 要
発行:2018年4月
更新:2018年4月

  

「がんの診断が下ったときから栄養療法を開始するほうがよい、という感触を持っています」と語る原町赤十字病院副院長の内田さん

「がんが将来的にどのように経過していくか」を予想する目安となる因子を「予後因子」という。ステージ(病期)やがん細胞の悪性度などがよく知られているが、最近、進行・再発した患者によく見られる「悪液質」という因子が注目されている。これが、がん治療をしても奏功しにくいなど、生命予後に関わる重要な因子であることがわかってきた。

また、その改善には栄養療法が有効で、積極的に行うことで生存期間の延長につながるという報告も相次いでいる。2018年2月横浜で開催された日本静脈経栄養学会で栄養療法の有効性について発表した原町赤十字病院(群馬県吾妻郡)副院長の内田信之さんに伺った。

栄養状態評価法(GPS指標)が開発され、悪液質の客観的判定が可能に

がんの進行に伴う体力低下や治療の副作用・合併症の発現などによって、治療が中断・中止になることは、がん患者にとって大きなデメリットとなる。その間にがんが進行するリスクがあるからだ。予定されたがんの治療を継続・完遂するための対策としては、がんサポーティブケアいわゆる支持療法がある。副作用や合併症の症状を緩和・軽減する療法で、吐き気に対する制吐薬、白血球(好中球)減少に対するG-CSF製剤が代表的だ。

このがん支持療法の一環として、低栄養状態に陥った患者、あるいは陥りそうな患者に対する栄養療法はあるにはあったが、どんな栄養療法をすれば治療に耐え得る体力を回復できるか、統一された方法はなく、医療施設ごとに格差があった。とりわけがん「悪液質(あくえきしつ)」から来る低栄養に対する栄養療法は無力で、その進行を阻止するのは難しかった。

悪液質とは、がん種に関わらず、がんの進行に伴い、体重減少、低栄養、消耗衰弱が進んでいく病態だ。通常の痩せは主に脂肪組織が落ちるが、がん悪液質では、加えて四肢を含め全身の筋肉(骨格筋)がげっそりとやせ細るのも特徴的だ。慢性的な亢進が起これば、結果として痩せや低栄養が起こる。がんが栄養を奪う状態にあると比喩してよいかもしれない。

悪液質は初期であれば回復の余地はあるが、一定のラインに達すればラインを超せば低栄養や痩せ、衰弱も不可逆的に進み、回復は困難になるとされている。これまでは明確な判定基準がないこともあり、その影響については不明なことが多かった。

風向きが変わったのは2003年、イギリスの研究者がGPS(Glasgow prognostic score グラスゴー予後スコア)という指標を使って、がん患者の悪液質の程度を生化学検査(血液検査)で客観的に判定し、程度を4つのグループに分類する評価法を考案して以降、一気にがん悪液質の病態解明が進んだ。

GPSを開発したイギリスの研究者が、その程度を測定する指標としたのが、血中のCRP(C-反応性蛋白)という物質と血清アルブミン値だ。前者が炎症反応の亢進具合を、後者が栄養状態を探る手掛かりとなり、それを総合して悪液質の程度を、A「正常」、B「低栄養」、C「前悪液質」、D「悪液質」の4群に分けて評価する。

がん患者の全身状態(PS)、すなわち元気度を評価する方法としては、日常生活に伴う動作をどれほど自力で行えるかを0~4の5段階で分けるパフォーマンス・ステータス(PS)がよく知られている。手術や放射線、化学療法などのがん治療を受けるには0~2であることが望ましい、というように、治療に耐え得る体力の目安として用いられる。

「そのPSによる分類より、優れた予後(治療後の経過)予測マーカーとしてGPSは提唱されました。がん治療が奏功しない、がん治療による副作用が重症化しやすい、といった有害事象の背景には、しばしばがん悪液質が存在しています。その程度を見極めるのは難しかったのですが、GPSによってそれが可能となったのです」と、GPSの意義を原町赤十字病院副院長の内田信之さんは述べる。

日本人向けの栄養評価法も応用開発された

「検査は採血して双方の値を測定するだけです。検査機関に依頼する必要はなく、自施設内で数10分で判明します。驚くほど簡便で、この簡便な検査法と評価法により、治療前や治療中の患者の栄養状態が治療にどのように影響するか、あるいは副作用や合併症の発症率・重症度とどう関わっているか、さらには栄養療法を施行することで生存期間にどう影響するかといった研究ができるようになり、海外での報告が相次いでいます。さらにそれがエビデンス(科学的根拠)として認知されつつあります」(内田副院長)

それらが集積すると、いつどのタイミングでどの患者にどんな栄養療法を行うと効果的か、という分析に基づいたがんの栄養療法が確立する可能性がある。そうなると低栄養でがん治療の継続が危惧される患者に対する支持療法として、がんの栄養療法の意義は飛躍的に高まる。

ただし、GPSは海外の欧米人を主な被検者として考案された悪液質の評価法であるため、体内の脂肪量など身体組成の異なる日本人を対象とした、指標の正常範囲を区切る値をモディファイmodify(一部修正)する評価法が日本人研究者によって新たに考案された。その方法をmGPSという。正常範囲の数値に若干の修正が加えられたものの、悪液質の程度をA~Dの4群に分けて評価することには変わりはない(図1)。

図1 悪液質の程度を評価する日本人向け数値(mGPS)

このmGPSによる評価が、GPS同様に優れた予後予測マーカーであるかどうか、国内の医療機関や研究機関でさまざまながん種において研究が行われている。その延長として、原町赤十字病院では、化学療法を施行中の進行・再発大腸がん患者における栄養療法の可能性を検証。本年(2018年)2月に開催された日本静脈経栄養学会学術集会シンポジウムでその成績を発表した。

悪液質による低栄養状態の程度によって治療効果に差が出るか

その発表の概略を以下紹介する。

2013年1月から4年間で化学療法(1次療法)を開始した大腸がん患者28名をmGPSにより4群に分け、治療が継続できた期間、生存期間を比較した。患者の悪液質の程度とそれに伴う栄養状態の程度によって、治療継続期間や生存期間に差が出るか、出るとすればどれほどの差かを見るためだ(図2)。

図2 進行再発大腸がん患者のmGPS群別の生存期間

対象となった患者の年齢は54~85歳(中央値69.5歳)、男性18名、女性10名。進行がん18名、再発がん10名。大腸がんの部位としては結腸がん18名、直腸がん10名。

その結果、治療の継続期間はA群(正常)では260日、B(低栄養)、C(前悪液質)、D(悪液質)のB~D群は220日で、大差はなかった。全生存期間(OS)の中央値はA群1,090日、B~D群535日と、従来の報告通りA群は極めて良好であった(図3)。

図3 進行再発大腸がん患者のBCD群の1次治療期間と生存期間


また化学療法施行中に、栄養状態が改善してB~D群からA群に移行して2カ月間以上その状態を保った人が5名いた。その移行群5名と、移行できずにB~D群に留まった7名を比較すると、治療継続期間は334日対107日、OSは540日対261日と、B~D群に留まった群に比べA群に移行した群の治療成績が、有意に良好であった。

以上の結果からどういったことが読み取れるか?

内田さんはこのように解説する。

「進行・再発大腸がんにおいて化学療法を開始する時、悪液質でないA群は低栄養状態~悪液質であるB~D群より生存期間が長いことが示唆されています。また治療途中にB~D群からA群に移行した群もB~D群より生存期間は有意に長い傾向があります」

このことから次のような考察が成り立つという。

「進行・再発大腸がんの化学療法を開始する患者さんは予後の観点からすると、治療開始時にA群であることが好ましく、仮に当初はB~D群であっても治療中にA群に移行すると生存期間の延長が期待できます。したがって大腸がんで化学療法を開始する患者さんは、まず栄養状態をmGPSで分類し、それに基づいて栄養療法を計画的に行なう意義は大いにあると思います。その結果栄養状態が良くなれば生存期間の延長も期待できるでしょう」

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