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FP黒田尚子のがんとライフプラン 61
「非自発的失業」で、国民健康保険料の減免制度を利用する場合の注意点
がん患者さんと仕事の悩みにはさまざまなものがありますが、がん罹患後、職場の環境や関係が悪化し、患者さんが望まない形で「離職」という選択肢を取るケースがあります。その場合、退職後の公的医療保険をどのように選べばよいかといった相談も少なくありません。
選ぶポイントについては、「会社を辞める前に知っておきたい 退職後の公的医療保険の選び方」でも紹介しましたが、国民健康保険を選んだ場合の国民健康保険料の減額・減免制度について注意すべき点をお伝えしたいと思います。
「非自発的失業者に対する軽減制度」とは?
国民健康保険には、災害・失業・低所得などによって、国民健康保険料(自治体によって保険税とする場合もある)の納付が困難な場合、申請により保険料を減額・減免できる制度が設けられています。
また、2010年3月31日以降、自己の意志に反して離職した方(以下、「非自発的失業」)に対する、国民健康保険料が減額される制度も設けられています。
軽減方法は、保険料の所得割を算定する際に、失業した日の翌日からその翌年度末までの間、対象者の給与所得を30/100として算定されるというもの。要するに、保険料を計算するときの収入を70%オフにしてくれるわけです。さらに、高額療養費などの所得区分判定も、この収入で計算されますので、医療費が高額という患者さんの負担も軽減されます。
適用のための3つの要件
そこで肝心なのが適用を受けるための要件です。自治体によって若干異なりますが、概(おおむ)ね以下の3つとなっています。
①離職日において65歳未満であること
②自己の意志に反する離職であること(自己都合による退職、定年退職は対象外)
③「雇用保険受給資格者証」の交付を受けており、離職理由の番号が「11、12、21、22、23、31、32、33、34 」のいずれかであること(図1)
「雇用保険受給資格者証」(以下、「受給資格者証」)とは、離職後、ハローワークで雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)の受給手続き後に受け取れる受給資格を証明するものです(図2)。
ハローワークでは、「基本手当の認定日に必要となる書類ですので、大切に保管しておいてください」と説明されるはずですが、ここに離職理由の欄があって、その番号が上記のいずれかに該当するかで「非自発的失業」であるかどうかを判断します。
つまり、受給資格者証は、制度の趣旨にあった退職理由かどうか見極めるための書類として欠かせないものであり、保険料軽減の申請時には「必ず、受給資格者証を持ってきてください。なければ申請はできません」と念押しをされます。
受給資格者証がないために減免の適用が受けられない⁉︎
ところが、がん患者さんの中には、離職後すぐに働けないという人もいるはずです。基本手当の受給期間(あくまでも受給ができる期間。実際に給付が受けられる給付日数ではない)は、原則として、 離職した日の翌日から1年間ですが、このような場合、雇用保険の受給期間の延長申請をしておくことで、最長4年間の猶予期間ができます。この間に治療を終え、体力が回復したら、基本手当を受給しながら求職活動を行うことも可能です。
ただし、ここでの問題は、延長申請すると、「非自発的失業者」にかかる国民健康保険料の軽減措置に必要な受給資格者証がもらえないという点です。
実際、手続きに行った自治体で「2年以内に仕事ができるようになってから、ハローワークで基本手当の受給延長の解除と求職の申込をして、受給資格者証をもらえたら、遡(さかのぼ)って減免の扱いとして保険料が還付されます」と説明を受けた患者さんもおられます。
とはいえ、いったんは軽減適用を受けていない額を支払わなければならず、切実に今、国民健康保険料の負担を軽減したい方にとっては、不合理な納得のいかない話です。
自治体によっては、基本手当の受給延長の手続きをした人向けの対応も
そこで、自治体によっては、傷病によって雇用保険の受給期間の延長をしたため、受給資格者証が発行されない方であっても、「離職票」(会社がハローワークに退職の届け出をすることで交付される書類)と「受給期間延長通知書」(受給期間の延長が認められればハローワークからもらえるもの)等の書類で同様の減免が受けられる場合もあります(傷病手当金を受給している場合、「傷病手当金支給申請書」や「傷病手当金支給明細書」等が必要なケースもある)。
このほか、各自治体の条例等による減免制度の対象となる場合もありますので、詳しくは、各自治体の担当窓口で問い合わせてみてください。
今月のワンポイント 今回の問題は、健康保険と雇用保険という異なる制度間において、運用における実態と制度の趣旨に齟齬(そご)が生じてしまった典型的な例と言えます。自治体によって、対応が異なる点も問題ですので、それについては、国に対して統一するよう要請する動きもあるようです。ただし、いずれにせよ、両者の制度についてある程度理解していなければ、解決策を得られることが難しいかもしれません。
実際に、筆者はいくつかの自治体に直接確認をしたのですが、詳しい担当者にたどり着くまでに、こちらの意図を何度も説明しなければなりませんでした。とにかく、制度を賢く利用するためには、諦(あきら)めずに「他の自治体では代替書類もあるそうですが……」などの働きかけをしてみてください。