マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第13回 がんも2度目以降なら <呼吸に意識を向ける>
がんサバイバーの日常生活は、多少なりとも再発予防を意識したものとなります。
食事はなるべく緑黄野菜を充実させ、糖質は無理のない範囲で制限しているのではないでしょうか。適宜に運動して、睡眠をしっかりとり、どちらか迷ったときはよりストレスが少ないほうを選び、楽しいこと面白いことはなるべくあきらめない。
そんなふうにがん予防に効果的と認められている免疫力を高める生活を心がけていても、再発や転移が認められることもあります。再発や転移ではなく、まったく新しいがんが見つかることもあります。
そんなとき、やっぱり気落ちします。それなりに気をつけていたつもりなんだけど……って。
そのときは、ただ眼を閉じて、少しの間、たったひと呼吸でいい、自分の吐く息のプロセス、吸う息のプロセスに注意を向けます。
これまでこの連載を読んでこられた人なら、呼吸というものがプロセスだとよくわかっていると思います。今しているこの呼吸のプロセスを、その一瞬その一瞬に体験していることにマインドフルになってみる。
呼吸にマインドフルになる
〝息する〟ことは〝生きる〟と同義語。命の「い」も、生きるの「い」も、息吹くの「い」も、息という意味だそうです。呼吸にマインドフルになることは、生命活動そのものに触れる瞬間瞬間とも言えます。
それなりに気をつけてきたから、これまで元気に過ごせたし、がんも早期の段階で見つけられたのかもしれません。
無理に気分を上げようとしなくていい。そして今できることをちょっとだけやってみる。呼吸にマインドフルになることもそのひとつです。
問題は、呼吸はあまりに当たり前の生命活動であるため、「ただ呼吸に意識を向ける」ということになかなか思い至らないことです。マインドフルネスが心身の健康を保つのに有効であると知っていても、今この瞬間の自分の営みに結びつけて考えることができるまで、しばらく時間が必要かもしれません。
なんだか息苦しさを感じるとか呼吸が浅くなっているとかがきっかけで、マインドフルネスを思い出したのなら、それでいいのですよ。
決めなくちゃいけないことがいろいろあるのを重苦しく感じたり、ネガティブな思考やそれに伴う嫌な気分がきっかけになるかもしれません。気づいたそのときに、その吸う息・吐く息に注意を向ければいいだけです。
呼吸のプロセスに注意を向けるとは、息が鼻腔を通っていく感覚に注意を向けてもいいし、胸郭や腹筋や背筋がどう動いているのかに注意を向けてもいい。私は微妙な筋肉の感覚に注意を向けると楽に集中します。こういうのは人それぞれです。
考えが浮かぶのは、心臓が鼓動するのと同じ
そうしながらもふっと頭をよぎる考えに気づきたい。
「呼吸に集中して考えが浮かんだりしないのがベスト」、とよく勘違いされますが、違います。雑念という言い方が、この勘違いをよく表しています。考えが浮かぶのは、脳という臓器の性質なのです。胃が胃液を分泌するのや心臓が鼓動するのと同じ。
マインドフルネスでは、ほとんど気づかれることもなく自動的に浮かんでは自動的に流れていく思考について気づきが促されます。
「あ、今、こんなふうに考えている」と気づくとは、たとえば「『ちゃんと考えなくちゃ』という考えが浮かんできた」とか「『ちゃんと考えてないんじゃないか』という考えにともなって不全感が瞬間的に起きた」とか。それらの1つひとつについて、価値判断しないで、そのまま受け入れ、また呼吸に注意を戻す。
たった数呼吸、呼吸に意識を向けることで、ざわめきが静まってきます。より正確に言うと、ざわめきとひとくくりにしていたものの1つひとつに注意を払うことで、巻き込まれるのでもなく、自分の内側に起きていることの1つとして落ち着いて受け止めている。
呼吸で今という瞬間を味わって
がんの治療では自ら選択することが求められます。先延ばしにして、うやむやになるものではありません。そこが本当にやっかいです。
何かを選ぶのには体力気力と落ち着きがが求められます。
検査結果や治療計画を聞き、検討し決断し、スケジュールを調整し、様々な準備を整えていきます。
主治医が提案する治療計画を受け入れるにしても、家族と相談し、リスクについて質問する。
1度目のがん治療は、2度目3度目より若いときに受けているわけで、「あの時は若かったなあ」と齢の差を感じるといいます。がんと取り組む気持ちも、今よりずっと高かったように感じるともいいます。
100歳まで生きる時代だと最近よく言われます。年金受給年齢を70歳に引き上げようという動きも報じられています。高齢って、70歳は高齢なのでしょうか?
サッチーこと故・野村紗知代さんが、2001年に所得隠しと脱税で逮捕起訴されたとき、当時70歳だった彼女が「老後のために備えたかった」とその動機を語り、彼女にとって老後はいつからなのだろうと皮肉を感じた記憶があります。
でも、今ならとてもよくわかります。老後とは10年か15年か先の「いつか」のことですもの。
がん治療についても、これからの手順を考えるとやる前から気が重くなりそうです。こういう思考は考えるともなく頭の中を流れていきます。ひと通りの治療が無事終了するのに数カ月かかり、その先も、サバイバーとしての日常を何年も生きて、初めて完治となるのか。あれやこれや考えてしまうと疲れてしまいそうです。
生きているかぎり、私たちの命は生きる気も治る気も満々です。その自分の生命活動の〝実〟に触れるのがマインドフルネスといえます。
今回はあえて写真を用いた指導はしません。
今しているその姿勢のまま、目を閉じるか半眼にして、ひと呼吸でもいい、呼吸に注意を向けて、今という瞬間瞬間を味わってみよう。
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
●こころとからだクリニカセンター
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