カウンセラーと1対1の対話を通して「ベストの1枚」を選ぶ
「乳房にぴったり合った1枚」で患者さんの心の痛手を癒やす

取材・文:吉田燿子
発行:2009年12月
更新:2013年4月

  

乳房を切除した患者さんに安心感を与える1つのアイテム。それが下着メーカー・ワコールのサポート製品「リマンマ」だ。治療方法や術後の体型の変化などを考慮しながら、体にぴったりとフィットする下着に出合ったある乳がん患者さんの体験を通して、「リマンマ」の魅力を探る。

胸を失った喪失感をリマンマが埋めてくれた

写真:完全個室で治療法や経過、体型に合わせて患者さんと一緒に熟考するカウンセリング

完全個室で治療法や経過、体型に合わせて患者さんと一緒に熟考するカウンセリング。「パッドは体の一部」と語る吉澤英子さん(右)の表情は明るい

乳がん治療による乳房の喪失や変形は、女性の心に大きな痛手をもたらす。下着メーカーのワコールでは35年来、そんな女性をサポートする『リマンマ』という製品開発に注力。機能性とファッション性に優れた、乳房切除後の患者さん向けのパッドや下着などを提供することで、患者さんの切実な悩みに応え、考えてきた。

3年前に乳房全摘を経験し、「パッドなしの生活はもう考えられない」と語る乳がん患者の吉澤英子さんに、リマンマとの出合いを語ってもらった。

松本市在住の吉澤さんが左胸にハリを感じたのは、6、7年前。「乳がんかもしれない」と不安を感じたが、乳房喪失への恐怖から、なかなか病院に行くことができなかった。「胸を失う病気にだけは絶対になりたくないと思っていました。全摘なんて考えられなかったんです」

ある日、台所で仕事をしていると、突然左乳房の皮膚が破れ、体液と一緒に腫瘍が飛び出してきた。紙オムツをあてて応急処置をし、1週間後に上京して大学病院を受診。検査の結果、葉状腫瘍()に早期の乳がんを併発していることがわかった。06年、乳房全摘手術を実施。「以前からやっていた空手が術後も続けられるように」と、生活スタイルを考え、同時再建は選ばなかった。だが、もともと胸が豊かな吉澤さんにとって、左右の胸にアンバランスが生じたことは大きな悩みだった。そこで、某メーカーから乳がん患者用のブラジャーとパッドを購入。2年後には念願の空手の練習も再開した。とはいえ、そういった専用のブラジャーも、きちんと採寸して自分に合うものを購入しようと思えば、東京の店舗まで出かけなければならない。地方に住む乳がん患者は一体どうすればいいのか――。

偶然手にしたある本で、ワコール社長の塚本能交さんを知ったのはそんな折のことだ。「ワコールでは人体計測を重視している。計測した数値から、その方の息づかいが聞こえてくる。その気持ちを考えなくてはいけない」――その言葉に感動した吉澤さんは、ワコール宛てに便箋15枚の手紙を書き、地方の乳がん患者がおかれている現状を切々と訴えた。

そして、吉澤さんは東京のリマンマルームを訪問することになった。リマンマルームは現在、札幌・東京・名古屋・京都・福岡の5カ所に開設されている。ここでは個室でアドバイザーと相談しながら商品を試着し、自分に合ったものを心ゆくまで選ぶことができるのだ。

「術後は体型も変化するので、実際に試着しないと、今の胸や傷の状態にぴったりしたブラジャーは見つかりません。アドバイザーの方と相談しながら、これだけの品数の商品を試着できるのなら、松本から4時間かけて来るだけのメリットはある、と実感しました。胸を失った後、それをどのように補整して洋服を着ればいいのか悩みました。こんなサービスが受けられることをもっと早く知っていたらと思いました」(吉澤さん)

葉状腫瘍=乳腺腫瘍。急速に増大するのが特徴。乳がんは乳腺の腺菅上皮に発生するのに対し、葉状腫瘍は腺組織周辺の間質細胞が腫瘍化する

最後の1人までリマンマを提供し続けたい

写真:東京・浅草橋のリマンマルー

東京・浅草橋のリマンマルーム。そのほかにリマンマルームは札幌・名古屋・京都・福岡にある

ワコールがリマンマの開発に着手したのは1974年。当時、乳房切除患者さんのための専用パッドは輸入品しかなく、患者さんは割高な製品を買わざるをえないのが実情だった。「使いやすく、手ごろな価格の製品を提供し、少しでも以前の生活を取り戻していただくお手伝いがしたい」――リマンマは、創業者で当時社長だった塚本幸一さんのそんな思いから生まれた。

リマンマではブラジャーとパッドの他、各種下着や水着なども取り揃えている。ブラジャーのカップの内側には綿混素材のポケットがついており、パッドの出し入れは自由。リマンマルームでチーフアドバイザーを務める岩本法子さんはこう語る。

「リマンマでは、しっかりとバストを包みこむような安心感と安定性を重視しています。市販のブラジャーよりも脇の幅や肩紐を太くし、パッドの重さを軽減するよう工夫しているのも特徴の1つ。手術方法や体型の変化によってバストの状態やブラジャーのフィット感も変わるので、幅広いサイズを取り揃え、つけ心地を重視したカウンセリングを行っています」

乳房切除後の専用下着を選ぶには、治療方法や経過、体型の変化などさまざまな要素を考慮しなければならない。そのために欠かせないのが、リマンマルームや試着会・相談会でのカウンセリングだ。リマンマでは顧客との1対1の対話により「ベストの1枚」を総合的に判断。

そのホスピタリティ()あふれる雰囲気に、「リマンマルームで過ごす時間が心のケアになっている」と語る患者さんも多い。

リマンマルームなどを訪れる患者さんの数は年間1万人。その生の声は、日々の商品開発に直接生かされている。なかでも近年、顧客からの要望が増えているのが、乳房温存手術に対応した製品だ。その1つである「アジャストボリュームブラ」は、微細なビーズ粒をブラジャーのカップ裏に注入し、ボリュームの必要な部分にフィットさせるというもの。さらに、2009年秋から乳房温存患者さん向けのシリコン・パッドの取り扱いも開始し、幅広い対応が可能となった。

「乳房温存の場合でも術後時間が経過した後に、何らかの不都合を感じていらっしゃる方も少なくありません。ぜひ1度ご相談いただければと思います」(岩本さん)

現在、ワコールは全国7カ所で定期的にリマンマの試着会を開催中。地方での相談会も随時行っている。2009年秋からはウォーキング用ブラの発売も開始。今後はスポーツ用の品揃えも増やしていく計画だ。

「将来、乳がん治療の主流が手術以外の方法になれば、リマンマ製品が不要になる日も来るかもしれない。それでも、最後の1人までサービスを提供し続ける」――そんな信念と共に、リマンマルームでは患者さんに対応している。

ホスピタリティ=おもてなしの心


株式会社ワコール リマンマ
問合せ先:フリーダイヤル 0120-037-056

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