排尿・排便障害、リンパ浮腫というつらい後遺症を回避する
子宮がんにおける「リンパ節を温存する手術」
宝塚市立病院診療部長の
伊熊健一郎さん
子宮がんの手術後、排尿・排便障害、リンパ浮腫等の後遺症に苦しむ患者さんは非常に多い。
リンパ節を郭清すると同時に神経が切断されるのが原因だ。
そこで、そのリンパ節郭清を止め、リンパ節を温存する手術を手がけている産婦人科医師がいる。
リンパ節郭清するのと予後も変わらないという。
しかも後遺症に苦しむことがないのである。
術後の後遺症をどう考えるか?
現在、子宮がんの手術では、よほどの早期でない限り、骨盤内のリンパ節を郭清する手術が一般的だ。
その際、リンパ節の周辺の自律神経を切断せざるを得ないこともある。リンパ節と神経は絡み合っているので、神経に影響を与えずにリンパ節だけ取ることは非常に困難だからだ。リンパ節を取ったり、神経を切断したりすることによって、結果的には患者はつらい後遺症を経験することになる。
まず、神経を切断したことによる、排尿障害や排便障害がある。多くの人は尿意がなくなったり、排尿のコントロールがうまくいかなくなったりする。訓練で新たな排尿感覚をつかむ人もいるが、一生、尿道にカテーテルを挿入して排尿しなければならない人もいる。排便障害も深刻だ。ある人は、「手術から2年以上経っても、薬なしで出ることは1度もありません。かつての(排便)感覚は遠い記憶にあるだけ。排尿障害よりもつらいです」と話す。
また、リンパ管を切ることでリンパの流れが滞り、足のリンパ浮腫が起きることがある。足がパンパンにむくみ、痛みを伴う場合もある。滞ったリンパ液には細菌が感染しやすいという心配もある。
これらの重篤な後遺症は、患者の生活を一変させる。「こんなに大変だと思わなかった」と嘆く人は少なくない。 それでも、多くの患者は、再発を防ぎたい一心で、大きな手術を受ける。ある人は、「いのちと引き替えに、きつい後遺症を“背負う”という感じ」と表現し、いのちのためには仕方のないことと、受け入れていた。
そのような現状では、これからご紹介する手術方法は、「リスクがあるのでは?」と受け入れられないかもしれない。
だが、リンパ節をとらなくてもそれがマイナスにならないとしたらどうだろうか。術後の後遺症を避け、手術前とできるだけ同じ生活をしたいと願う人にとっては、1つの選択肢となり得る手術法だ。
希望があれば、リンパ節を残す
宝塚市立病院診療部長兼産婦人科部長の伊熊健一郎さんは約10年前から、できるだけ、リンパ節を残す手術を行っている。
骨盤内のリンパ節郭清によってその後の生存率が上がるかどうかは、明らかになっていないからだ。
伊熊さんは、手術を受ける患者には、リンパ節郭清の後遺症と、リンパ節を残す考え方もあることを説明する。その結果、あくまで患者本人がリンパ節を残したいと希望した場合に限って、リンパ節郭清をしない。
子宮がんでリンパ節郭清が問題になってくるのは、子宮頸がんの場合に1a2期以降、子宮体がんなら1b期以降だ。それまではリンパ節転移の可能性がほとんどないので、一般的にリンパ節郭清は行われない。
伊熊さんは、子宮頸がんの9割を占める扁平上皮がんと、子宮体がんでは、2期未満の人に、準広汎子宮全摘術(この場合は、子宮と腟壁の1部、両卵巣、卵管を切除する手術)を行い、リンパ節は残している。
ちなみに卵巣がんもこれに準じた手術法をとる。
リンパ節とリンパ節郭清
子宮や卵巣からのリンパ液は、骨盤内の太い血管や腹部の大動脈に沿って頭のほうへ流れている。その道筋の所々にソラマメ状の丸いふくらみが数10個ついている。それがリンパ節。
がん細胞などの異物がリンパ液の流れに乗って広がっていく場合は、このリンパ節に引っかかる。するとリンパ節では、新しいリンパ球や抗体を産生し、このような異物を処理する。
リンパ節は太い血管の周囲にあるため、リンパ節郭清術とは、リンパ節を血管から剥がして丹念に切除していく手術となる。子宮や卵巣のがんに対する手術と同時に行うのが普通。
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