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これだけは知っておきたい前立腺がんの基礎知識
自分のがんはどんながんか、どんな状態にあるか、正しく把握し、きちんと向き合う

監修:松岡直樹 国立がんセンター中央病院泌尿器科医師
発行:2006年5月
更新:2013年4月

  

がんといわれてショックを受けない人はいません。けれども、そこでベストな治療を受けるために必要なのは、情報と心構えではないかと思います。

この場合の情報には2種類あって、ひとつは治療に関する最新情報、もうひとつは自分のがんがどんながんで、どんな状態にあるかという情報です。

一方、この場合の心構えとは、あなたが自分の人生をどう考え、病気とどう向き合っていくか、ということです。正確な情報をできるだけたくさん集めることも必要ですが、集めた情報を正しく判断し、ベストな治療に結びつけるためには、病気への心構えをしっかりもつことだといえるでしょう。

治療に関する最新情報はのちにくわしくお伝えしますが、では最新情報を確実に生かすためには、自分の病気について最低限、何を知っておけばいいのでしょうか。それを知ったうえで、どんな心構えをもって病気にのぞんだらいいのでしょうか。前立腺がんについて、国立がん研究センター泌尿器科医師の松岡直樹さんにうかがいました。

進行がゆっくりで、選択肢の多いがん

[前立腺の位置と形]
図:前立腺の位置と形

[前立腺がん年齢階級別羅患率の推移]
図:前立腺がん年齢階級別羅患率の推移

前立腺は膀胱にぴったりくっついた直径4センチほどの球状の臓器で、中を尿道が通っています。前立腺がんは前立腺の上皮(臓器表面の皮膚)に発生しますが、一般に(1) 比較的高齢の男性に多く、進行がゆっくりである、(2)PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーによって見つけやすく、進行もチェックできる、(3)放射線治療やホルモン療法が効き、がんとしては比較的治療の手が多い、などの特徴をもつとされています。いずれも概ねそのとおりですが、関連して知っておきたい大事なポイントがいくつかあります。

まず(1) 。高齢の男性に多いのは事実ですが、40代にもしばしば見られ、30代も皆無ではありません。また中には進行の早いがんもあり、とくに若く発症した場合は進行も早くなります。前立腺がんといわれたら、あまり油断せず、すみやかに治療を受けてほしいと思います。

それは(3)の「治療の手が多い」という特徴を生かすためでもあります。早く治療に取り組めば、病気の進行とともに狭まってくる選択肢を、少しでも長い期間、確保することができます。

その一方、(1) (高齢・ゆっくり)と(3)(手が多い)は、患者さんが治療を選択するにあたり、悩みの種ともなるようです。たとえば、70歳で前立腺がんと診断され、がんの性質がそれほど悪くない場合、がんのステージにかかわらず、「経過観察」が最良の選択ということがあります。が、患者さんにすれば、「手があるのに何もしない」のは不安なものです。

逆に、30代でがんの診断を受けた患者さんは、「できるだけ完治を」と望むはずです。けれども、完治を目的とした手術や放射線治療は、性機能障害や排尿障害をもたらす恐れもあります。この場合も、患者さんは治療後の人生を考え、再発の危険と望む機能の維持を秤にかけて、治療を選ばなければなりません。

つまり、前立腺がんはがんの中でも、治療法の選択がわりあいむずかしいがんなのです。

PSAは個人差が大きい点に注意

そこで、前述の「PSAという腫瘍マーカーによって見つけやすく、進行もチェックできる」(特徴(2))についてです。

ベストな治療を選択するとき欠かせないのは、あなたの体がどんな状態にあるかを、できるだけ正確に把握することです。そして、現在、そのための最もよい腫瘍マーカーと考えられているのが、PSAなのです。採血で簡単に調べられるため、最近は集団検診に組み込む企業なども増えています。

[PSAと前立腺がんの関係]

[正常な場合]
図:正常な場合
正常の場合は血液中にPSAが少し流れる
[前立腺がんの場合]
図:前立腺がんの場合
前立腺がんになると血液中に大量のPSAが流れる


[PSAと前立腺がん発見率]
図:PSAと前立腺がん発見率

たしかに、PSAは前立腺がんの早期発見・早期治療に役立っています。が、見方には注意が必要です。一般に「PSAが4以下なら問題なし」といわれており、検診でもこの数字が基準になっていることが多いのですが、第1に、前立腺肥大や炎症など、がん以外の要因でも、数値が上がることがあります。ですから、最初に「PSAが異常値」といわれたときはあわてず、少し時間をおいてもう1度検査することをおすすめします。それでも下がらなかったら、専門病院を訪れてください。

第2に、PSAは個人差が大きく、「4以下=安心」とはいいきれません。たとえば、PSAが高いのにがんではない人、再発がんでPSAが1000を超えているのに元気な人、がんの進行が早いのに数値の低い人なども、決して珍しくありません。進行がんの患者さんのPSA値を見るときも、私たちは数値そのものより、動き方を参考にするほうが多いのです。

では、あなたのPSA値を正確に判断するには、何を基準にすればいいのでしょうか。ひとつはがんの性質、広がり、転移のあるなしなどの情報です。そうした情報を得るヒントとしてもPSAを測るわけですから、一見逆なようですが、要はさまざまな方向からがんについての情報を求め、それを総合して判断するのが大切、ということだと思います。

がんの性質や広がりを見極めるために行う検査は、がんかどうかの確定診断にも行われる生検です。前立腺がんの生検は体の外から前立腺に針を刺し、数箇所から組織をとって顕微鏡検査を行います。入院し、麻酔をして行いますが、国立がん研究センターでは外来で日帰りで行っています。このとき、がんの組織が低分化(細胞の分化が低いもの)であればあるほど、増殖が速く、転移しやすい=悪性度が高いと考えられています。

さらに、超音波やCTなどの検査で、転移病巣があるか、がんがどこまで広がっているかを調べるわけですが、残念ながら前立腺がんは、こうした詳細を正確に知ることがむずかしいがんです。とくに前立腺肥大がある場合、おなか側にあるがんが前立腺の陰になるため、診断はさらにむずかしくなります。結果、PSA値は高く実際にはかなりの進行がんなのに、「前立腺内にとどまる初期がん」という診断がつくことが、案外多いのです。


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