間質性肺疾患の合併に気をつければ、間質性肺炎は防げる
肺がんの分子標的薬はサードラインで使うのが標準的
国立がん研究センター中央病院
特殊病棟部医長の
大江裕一郎さん
イレッサの副作用が社会問題として取り上げられたのは記憶に新しい。けれども、上手に使えば劇的な効果が見られるのも事実だ。
現在、肺がんの分子標的薬はどのように使われているのだろうか。
国立がん研究センター中央病院特殊病棟部医長の大江裕一郎さんに解説いただいた。
イレッサでがんが小さくなり4年以上という人も
肺がんの治療に使われる分子標的薬は、今のところイレッサ(一般名ゲフィチニブ)とタルセバ(一般名エルロチニブ)の2つです。
このうち、イレッサの名前を聞いたことのある方は多いのではないかと思います。2002年、世界に先駆けて日本で承認されたという点でも注目されましたが、不幸なことに、この薬を投与された患者さんのなかに、間質性肺炎という重い肺障害を起こす人が出て、社会問題になり、この点でもニュースに取り上げられました。
そのため、今でも「イレッサを使いましょう」とお話しすると、「大丈夫でしょうか」と心配される患者さんが少なくありません。
が、今では、イレッサを服用しないほうがいい患者さんのタイプもわかっていますし、投与して3~4週間で何らかの効果が認められないときは、その時点で別な治療に切り替えるなどの対策もとられています(国立がん研究センターでは、そのように治療を行っています)。正しく飲んでいただけば、それほどは心配ないのではないかと思います。
のちほどお話ししますが、私の患者さんのなかには、イレッサを飲んでがんが小さくなり、そのまま4年以上元気で過ごしておられる方もいます。患者さんにもよりますが、イレッサは服用直後から、かなり劇的に効果が出ることもあります。
また、もう1つの分子標的薬タルセバも、昨年(07年)12月に発売され、保険で処方できるようになりました。必要以上にこわがらず、医師と密接にコミュニケーションをとりながら、分子標的薬を上手に使っていただきたいと思います。
分子標的薬が使えるのは、非小細胞肺がん
(プラチナ製剤1剤と他の抗がん剤を組み合わせた治療法)
プラチナ製剤 | シスプラチン (商品名ブリプラチンなど) パラプラチン (一般名カルボプラチン) カンプトやトポテシン (一般名塩酸イリノテカン) |
その他の抗がん剤 | タキソール (一般名パクリタキセル) タキソテール (一般名ドセタキセル) ジェムザール (一般名ゲムシタビン) ナベルビン (一般名ビノレルビン) |
まず、分子標的薬に適した患者さんですが、がんのタイプとしては「非小細胞肺がん」と呼ばれる肺がんが対象になります。
「非小細胞肺がん」は、肺がん全体の約85パーセントを占めるがんです。肺がんにはほかに「小細胞肺がん」がありますが、今のところ「小細胞肺がん」に効果のある分子標的薬はなく、肺がんの分子標的薬治療といえば、「非小細胞肺がん」に対して行われることになります。
ただ、「小細胞肺がん」は進行の速いがんですが、一般に放射線や抗がん剤(細胞に対する毒性のある薬)がよく効きます。「小細胞肺がん」の患者さんは、医師とそうした可能性について話し合い、ベストな治療法を選択していただきたいと思います。
次に病期ですが、分子標的薬を、0期~2期の肺がんに対して使うことはありません。分子標的薬(イレッサ、タルセバ)を使うのは今のところ、
◇遠隔転移(離れた別な臓器への転移)のある4期の患者さん
◇胸水などがあり根治的な放射線治療が対象とならない3期の患者さん
◇最初に3期(がんが周辺臓器へ広がっている病期)と診断された治療を受けた患者さんの再発後
◇手術後に再発した場合
になります。
それも、「ファーストライン」(第1次薬物療法)として使うのではなく、「セカンドライン(第2次薬物療法)」、「サードライン(第3次薬物治療)」として使われる場合がほとんどです。
今は「非小細胞肺がん」の3期といっても悲観することはなく、20パーセントの患者さんが抗がん剤と放射線を併用し、手術をせずに治っていますし、治療目的も病状改善(対症療法)ではなく、あくまで完治になってきています。
ですから、4期や再発後の非小細胞肺がんの患者さんに対する薬物治療としては、まず、「第3世代レジメン(治療メニュー)」と呼ばれる抗がん剤を、2剤併用で使います。「ファーストライン」で使われるのは、主にシスプラチン(商品名ブリプラチンまたはランダ)やカルボプラチン(商品名パラプラチン)などの、プラチナ系抗がん剤です。
この治療の効果がなくなったとき、別な抗がん剤が使われますが、「セカンドライン」で使われるのは、主にタキソテール(一般名ドセタキセル)などです。タキソテールは「ファーストライン」でも使えますが、「セカンドライン」でもエビデンス(科学的根拠)がある薬なのです。
そして、この治療にも効果が少なくなり、がんが大きくなったり、再発したりしたとき、「サードライン」として、分子標的薬イレッサやタルセバを使う――。
というのが、今のところ、分子標的薬による、肺がんの標準的な治療といえるでしょう。
同じカテゴリーの最新記事
- 薬物療法は術前か、それとも術後か 切除可能な非小細胞肺がん
- Ⅳ期でも治癒の可能性が3割も! 切除不能非小細胞肺がんの最新治療
- 肺がん治療の最新トピックス 手術から分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬まで
- 遺伝子変異を調べて個別化の最先端を行く肺がん治療 非小細胞肺がんのMET遺伝子変異に新薬登場
- 分子標的薬の使う順番の検討や併用が今後の課題 さらに進化している進行非小細胞肺がんの最新化学療法
- 肺がんⅢ期の化学放射線療法後にイミフィンジが効果 放射線副作用の肺臓炎をいかに抑えるかが重要
- 体重減少・食欲改善の切り札、今年いよいよ国内承認か がん悪液質初の治療薬として期待高まるアナモレリン
- 肺がんに4つ目の免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ」登場! これからの肺がん治療は免疫療法が主役になる
- ゲノム医療がこれからのがん治療の扉を開く 遺伝子検査はがん治療をどう変えるか
- 血管新生阻害薬アバスチンの位置づけと広がる可能性 アバスチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用が未来を拓く