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なぜ増えたのか? なぜ治りにくいのか? 肺がんのことがよくわかる
治療のさい、ぜひ知っておきたい肺がんの基礎知識

監修:坪井正博 神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長
取材・文:吉田燿子
発行:2011年11月
更新:2013年4月

  

進行度によって治療法は異なる

がんは大きくなって隣接する組織に食い込んでいき、さらには別の場所に転移するという具合に進行していく。肺がんの進行度は、がんの大きさや位置、転移の有無や場所などによって、基本的に0~4期の病期(ステージ)に分類される。4期が最も進行度が高い。

肺がんの治療法は進行度によって異なる。基本的には、病期が治療法を決める最も重要なポイントだ。たとえば、初期のうちは手術でがんを切除すれば、治ることが多い。放射線で焼き切って治ることもある。しかし、がんが進行するにしたがって、目に見えない大きさのがんがまわりに広がったり、転移したりして、手術や放射線だけではがんを"制圧する"ことができなくなるため、抗がん剤治療に放射線療法や手術を組み合わせて、がんを叩く。このように、がんの進行度によって治療戦略を変える必要があるわけだ。

肺がんのタイプでも治療法が分かれる

[非小細胞がんの病期]

進行度
[ステージ]
0期 がんが上皮内(臓器の表面を覆っている膜)までにとどまっている
1期 A 3cm以下のがんが、片方の肺の中だけにとどまっている
B 3cmを超え、5cm以下のがんが、片方の肺の中だけにとどまっている
3cm以下のがんが臓側胸膜(肺を包んでいる胸膜)に広がっている
2期 A 5cm以下のがんが、がんができた側の気管支の周囲や肺門部(肺の入り口)のリンパ節に転移している
または、5cmを超え7cm以下のがんが、片方の肺の中だけにとどまっており、リンパ節への転移がない
B 5cmを超え7cm以下のがんが、がんができた側の気管支の周囲や肺門部のリンパ節へ転移している または、がんが7cmを超えたり、大きさに関わらず胸壁や横隔膜あるいは同じ肺葉の中の離れたところなどに広がっているが、リンパ節への転移はない
3期 A がんが胸壁や横隔膜、縦隔(周囲の太い血管や食道などの臓器)、同じ肺葉の中の離れたところ、あるいは同じ側の肺の中などに広がっており、がんと同じ側の肺門部のリンパ節にも転移している
または、がんがその大きさ、広がりに関係なく、がんと同じ側の縦隔部や気管分岐部のリンパ節へ転移している、あるいは、がんのある肺葉を越えて同じ側の肺の中へ広がっていたり、縦隔や周囲の太い血管や食道などの臓器などに広がっているが、リンパ節への転移はない
B がんがその大きさ、広がりに関係なく、反対側の肺の縦隔や肺門部のリンパ節あるいは鎖骨上窩リンパ節へ転移している
または、リンパ節転移に関係なく、がんが同じ側の肺の中や周囲の太い血管や食道などの臓器などに広がっていて、同じ側の縦隔部や気管分岐部のリンパ節へ転移している
4期 胸水や心臓周囲に水がたまっていたり、胸膜に転移したり、もとのがんのある場所と反対側の肺だけでなく、肺から離れたほかの臓器やリンパ節にも転移している
出典:日本肺癌学会編集.臨床・病理 肺癌取扱い規約【改訂第7 版】抜粋.肺癌49(6);2009 日本肺癌学会ホームページ(http://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/178.pdf)


★なお、小細胞肺がんは「非小細胞がんの病期」以外にも、次のように分類されることがある

[小細胞がんの病期]

進行度 限局型 がんができた側の肺、縦隔リンパ節、鎖骨上のリンパ節にとどまっている
進展型 ほかの臓器への転移があるなど、がんが限局型の範囲を超えている

肺がんの治療法の大きな特徴は、がん細胞の特徴から小細胞がんか、非小細胞がんかによって2つの体系に分かれることだ。小細胞がんと非小細胞がんでは、進行の仕方にも抗がん剤の効き方にも大きな違いがあり、治療戦略の組み立て方も変える必要がある。

非小細胞がんの場合、1~2期では局所療法である手術がメインの治療法となる。3期以降では抗がん剤治療(化学療法)が中心となるが、後述する特殊なタイプを除いて、非小細胞がんの30パーセント程度しか抗がん剤が効かないといわれている。抗がん剤治療は、個々のケースで期待される効果と治療によるリスクのバランスを考慮して行われている。臨床試験の結果に基づいて、最近では再発予防として1B期以降の手術後に抗がん剤を併用するケースがある。

一方、小細胞がんでは、たとえ1期でも手術と化学療法を併用するのが一般的だ。小細胞がんは進行がきわめて速く、転移しやすい。一方、小細胞がんの70~80パーセントには抗がん剤が効くので、早いうちから抗がん剤を投与することで、全身に散らばっているかもしれない微小がんを叩くのである。

どちらのタイプの肺がんも、転移して全身に広がった場合には、化学療法による全身療法が行われる。

「ただし、最近承認された治療薬の特徴から、非小細胞がんと小細胞がんの違いだけで治療戦略を立てることは難しくなってきました。抗がん剤が非小細胞がんのなかでも、とくにこういうタイプによく効くといったことがわかってきたからです。そこで、『扁平上皮がんか、非扁平上皮がんか』『腺がんか、非腺がんか』『EGFR遺伝子変異()があるか、ないか』という具合に、よりきめ細かい治療法の選択基準が設けられるようになっています」

EGFR遺伝子変異=遺伝子変異のため、がん細胞表面上にEGFR(上皮成長因子受容体)が過剰発現していること

体への負担が少ない新しい治療法の開発

坪井さんは、今の肺がんの治療法のなかでは、「縮小手術」「定位放射線療法」「遺伝子検査による抗がん剤の使い分け」に注目すべきだと言う。

肺がんの手術でよく行われるのが、がんの病巣を肺葉()ごと切り取る「肺葉切除術」。この方法なら、肺の奥のほうにできた5センチ程度のがんであれば、がんのまわりの血管やリンパ管に少し広がったがん細胞も含めて、がんを完全に取りきれる可能性が高い。しかし、2センチ以下の肺がんで、とくに再発の頻度が極めて低い大人しいタイプでは、体への負担が大きくなる可能性がある。

「そこで登場したのが縮小切除という考え方です。これは病巣がある肺葉の一部を切除する方法(区域切除と楔状切除)で、手術直後の肺活量の低下が抑えられるなど体への負担が軽い。一方、臨床試験の結果ではがんが取り切れずに再発する可能性が高くなります。縮小手術を行うかどうかはがんの大きさ、場所、細胞のタイプ(CT画像の写り具合)などをもとに慎重に判断します」

手術と並ぶ肺がんの局所療法が放射線療法だ。放射線療法は、一般には手術よりも体への負担は軽い。ただし、従来の方法では、呼吸でがんの部分が動いてしまい、がんのまわりの正常な肺に必要以上に放射線が当たってしまうため、副作用が避けられない。これを改善する目的で、定位放射線療法の技術が肺がん治療にも応用された。この治療はコンピュータ制御により、呼吸に合わせて複数の方向から放射線を当て、がんを中心にした領域だけに放射線を集中させる。正常な肺へのダメージが少なく、皮膚炎や間質性肺炎などの副作用を最小限にとどめることができる。早期の非小細胞がんであれば、根治も期待できるという。

「とはいえ、現行の定位放射線療法の10~15パーセントには、照射部分のすぐそばにがんが再発するリスクがあります。米国の放射線治療医からは日本の放射線照射量は少ないとの指摘があり、発展途上の側面がある治療法といえます」

[肺がんの病期別の治療法(概略)]
肺がんの病期別の治療法(概略)

肺葉=肺の最も大きな区画。右肺は上・中・下の3枚の葉っぱ、左肺は上・下の2枚の葉っぱに分かれる

分子標的薬が続々と登場

細胞障害性抗がん剤は、がん細胞だけでなく、正常細胞も攻撃するため、血球減少や口内炎、脱毛などの強い副作用を伴うのが難点だ。そこで、がん細胞特有の分子をターゲットとしてがんを効率よく狙い撃ち、正常細胞へのダメージも少ないとされる分子標的薬が新たに開発された。しかし、実際には分子標的薬にも、皮膚障害や薬剤性の間質性肺炎など重い副作用が報告されていることは承知しておかなくてはいけない。肺がんでは02年のイレッサ()を皮切りに、タルセバ()やアバスチン()などの分子標的薬が続々と使われ始めている。

「一部の分子標的薬ではEGFR遺伝子変異のように、がん細胞の遺伝子異常のタイプによって、効き目が歴然と違うこともわかってきました。EGFR遺伝子変異のある患者さんに合った薬を使うことで、4期の非小細胞肺がん、とくに腺がんの生存期間が2倍以上延びたのではないかといわれています。遺伝子検査に基づいて最適な分子標的薬を使い分け、治療効果を高める研究も進んでいます。その結果、肺がんの抗がん剤治療は、少しずつですが確実に治療成績を伸ばしています」

肺がんを克服できるかどうかは早期発見・早期治療、そして新しい治療法の開発にかかっているといえる。しかし、不運にも肺がんが進行してしまった場合でも希望を失うことはない、と坪井さんはエールを送る。

「肺がんの治療法は着実に前進し、長く健やかに生きておられる肺がん患者さんも少しずつ増えてきました。がんになったことを後ろ向きにばかり考えず、人生を見直し、充実させるチャンスを与えられた、と考えてみてはいかがでしょうか」

イレッサ=一般名ゲフィチニブ
タルセバ=一般名エルロチニブ
アバスチン=一般名ベバシズマブ


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