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がんの組織の種類によって治療がそれぞれ異なることに注意
縦隔腫瘍――あなたはどこまで知っていますか

監修:坪井正博 東京医科大学病院呼吸器外科准教授
取材・文:林 義人
発行:2008年7月
更新:2013年4月

  
坪井正博さん
東京医科大学病院
呼吸器外科准教授の
坪井正博さん

肺と肺に囲まれた「縦隔」と呼ばれる部位には、さまざまな種類の腫瘍が発生する。それを総称して、縦隔腫瘍と呼ばれる。

多くは良性だが、がん治療の対象となる悪性のものが出現する例もあり甘く見ることはできない。

その腫瘍について、これだけは知っておきたい。

吉田美和のパートナーを奪ったがん

[縦隔とは]
図:縦隔とは

ドリームズ・カム・トゥルーのヴォーカリスト・吉田美和さんの事実上の夫だった映像ディレクターの末田健さんが、2007年9月26日、胸にできた「胚細胞性腫瘍」というがんのために33歳の若さで亡くなった。胸といっても肺ではなく、「縦隔」という場所に発生したがんだった。

東京医科大学病院呼吸器外科准教授の坪井正博さんは、縦隔について、「臓器の名前ではなく、肺と肺に囲まれた部位の名称です」と説明する。

「縦隔は、身体を横から見て気管より前方が前縦隔、気管より後方が後縦隔、気管が左右に分かれる心悸部と呼ばれるあたりが中縦隔、これより上方が上縦隔、下方が下縦隔と区分されています。縦隔の中には、心臓や気管、大動脈、神経、免疫に関係した胸腺、食道など様々な重要な臓器があり、いろいろな種類の腫瘍ができますが、これらを総称して『縦隔腫瘍』と呼びます」

ただし、食道がんや気管がんも縦隔の中にできるが、これらは縦隔腫瘍とは呼ばない。

このように、縦隔腫瘍とは、部位にできたがんの総称なので、同じ縦隔腫瘍といっても、がんの組織の種類は異なっており、その種類によって治療法もそれぞれ異なっている。

若い男性に多い胚細胞性腫瘍

「縦隔腫瘍のうち、どの種類のものが縦隔の中のどこにできるかはだいたい決まっています。そのうち、前縦隔にできやすいがんが末田さんがなった胚細胞性腫瘍です」

胚細胞性腫瘍は、卵子や精子になる細胞から発生する腫瘍で、原発は主に精巣や卵巣などの性腺だが、それ以外の部位から発生することもある。胎児期に原始生殖細胞(胚細胞)が迷い込んでできた腫瘍と考えられ、その一部は「奇形腫」と呼ばれている。胚細胞はもともと胎児となるべき細胞だったので、奇形腫には歯のもとになる組織や髪の毛などが混じっていることがある。性腺から発生する胚細胞性腫瘍はほとんど良性だが、それ以外の場所から発生するものの3分の1は浸潤や遠隔転移をする悪性腫瘍、つまりがんとなる。若い男性に多いがんとして知られる。

「前縦隔にはまた、胸腺があって、胸腺腫と呼ばれる腫瘍や胸腺がんもここにできます。また、上縦隔には甲状腺腫、中縦隔にはリンパ腫、気管支のう胞、心膜のう胞、後縦隔には神経原性腫瘍といった腫瘍がよく見られます。ただし、『この部位にあるからこの腫瘍だ』と特定できるほど絶対的なものではありません。たとえば胚細胞性腫瘍や気管支のう胞などは、『あれっ、こんなところにあるぞ』というケースもしばしばあります。一方、縦隔型甲状腺腫と言って、甲状腺から垂れ下がっていてあたかも縦隔腫瘍に見えるといったものも見られます」

縦隔腫瘍の約半数は、無症状の良性腫瘍で治療の必要はないが、中には重い症状を示したりがんとしての治療が必要な悪性のものもあるので油断はできないという。

[縦隔腫瘍のできやすい部位]
図:縦隔腫瘍のできやすい部位

甲状腺腫、胚細胞性腫瘍、胸腺腫が3大腫瘍

[縦隔腫瘍の種類と頻度]
図:縦隔腫瘍の種類と頻度

胸部外科学会集計(2000年手術症例)

縦隔腫瘍の種類別頻度について示した日本胸部外科学会の手術症例のデータがある。これによると最も多い腫瘍は胸腺腫で4割くらいを占め、胸腺がんが6パーセント、胚細胞性腫瘍が8パーセント、本来治療の必要がないのう胞が15パーセント程度、神経原性腫瘍が13パーセント、リンパ腫が5パーセントとなっている。ただし、これらは切除した腫瘍の種類であり、良性腫瘍と診断されたもの、あるいは経過で変化がない腫瘍は良性と考えられて放置されていることもあるので、縦隔腫瘍の頻度を必ずしも正確に反映しているとは言いがたい。

「悪性縦隔腫瘍の中では、甲状腺腫、胚細胞性腫瘍、胸腺腫は『3大腫瘍』ということができ、がん治療の対象になることがあります。またいちばん頻度の高い胸腺腫のなかでも、浸潤性胸腺腫と呼ばれる腫瘍の一部は播種という形で胸の中に広がったりごく稀に転移したりします。このほかリンパ節腫瘍や神経腫瘍などでも悪性のものが出ることもあります」

無症状の縦隔腫瘍は健康診断による胸部X線検査で偶然発見されることが多いが、一方で症状が現れて原因を調べた結果腫瘍が見つかる例もある。

その症状は主として、腫瘍が隣接する臓器を圧迫、浸潤することによって起こるもので、そばにあるのがどんな臓器かによってさまざまな形で現れる。すなわち気道に隣接していれば咳、血痰、呼吸困難などが起こるし、食道であれば嚥下障害が起こる。胸壁や神経が浸潤されれば胸痛や神経痛が起こり、反回神経という神経がまひしてかすれ声になったり、交感神経のまひにより眼球の陥凹や縮瞳が見られることになる。

また、上大静脈への圧迫や浸潤により顔面や頸部、腕のむくみがもたらされることもある。さらに浸潤性胸線腫では合併症として、重症筋無力症(骨格筋が疲れやすくなったり脱力を来す病気で、眼瞼下垂を来すことが多い)や、赤芽球癆(赤血球のみが減る病気)などの病気が高率に見られる。


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