読み方のポイントと、簡単にかつ正しくわかる「推奨できる治療法」
『肺癌診療ガイドライン』をわかりやすく読み解く
国立がん研究センター中央病院院長の
土屋了介さん
日本人の死亡原因の第1位はがん。なかでも肺がんが死亡数のトップを占める。
2003年の統計では年間死亡者数は約5万7000人に上っている。死亡者数が多いのは、完治が難しい“難治がん”だからで、それだけになおさら、自分の症状に応じた最善の治療法をいかに選択するかが重要であり、判断の目安として参考にしたいのが『診療ガイドライン』だ。
最新版である『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2005年版』をわかりやすく解説しポイントをまとめた。
データをもとに推奨グレードを分類
1 | システマティックレビュー/メタアナリシス |
2 | 1つ以上のランダム化比較試験による |
3 | 非ランダム化比較試験による |
4 | 分析疫学的研究(コホー研究や症例対照研究)による |
5 | 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)による |
6 | 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見 |
診療ガイドラインとは、病気の進み具合などに応じて、一般に勧められる検査や治療法を示した指針だ。医者と患者が話し合って適切な判断を下せるように、診療に際しての有用な情報が体系的にまとめられている。
03年、厚生労働省の医療技術評価総合研究事業研究班によって「EBMの手法による肺癌の診療ガイドライン策定に関する研究」がまとめられ、同年、日本肺癌学会から『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版』として刊行された。
EBMとはEvidence Based Medicineの略で、「科学的根拠(エビデンス)にもとづく医療」などと訳される。従来、日本では、国内で行われた大規模臨床試験のデータが少なく、エビデンスのある研究データの収集が難しいこともあり、個々の医者の経験に頼った診療が幅を利かせ、世界の標準治療とはかけ離れた治療が行われてきた、との批判がある。このような背景から、EBMにもとづく標準的な治療法を網羅した「ガイドライン」作成の気運が高まり、03年版の刊行に至った。
その後も新しいエビデンスが示されるようになり、05年にガイドラインの改訂が行われ、05年版が現段階での最新版となっている。
「ガイドライン」の作成過程では、診療上の問題点を系統的に抽出。それぞれについて世界中のデータを調べる文献検索を行い、文献の妥当性について各領域の第一人者によって検討が行われ、エビデンスレベルを決定。目の前にいる患者への適応を判断し、行うべき診療内容の勧告を「推奨」という形で表現している。
推奨グレードは次のように分類されている
[A]―行うよう強く勧められる
[B]―行うよう勧められる
[C]―行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
[D]―行わないよう勧められる
このうち、標準治療と呼ばれるのはグレードAに該当するもの。ちなみに標準治療とは、最も治療効果が高く、多くの患者に有効と認められるスタンダードな治療を指す。
最善の治療を選ぶためのサイドブック
「ガイドライン」の読み方について、国立がん研究センター中央病院院長の土屋了介さんは次のように語る。
「グレードAの治療、すなわち標準治療を推奨しているのがガイドラインです。よく誤解されるのですが、標準治療とは必ずしも最新の治療ではありません。最新の治療というのは実験的な治療であり、標準治療を乗り越える治療はないかと探っている途中の段階のもの。結果的に、標準治療より劣っている場合もあり得ます。したがって最新治療が最善ではなく、最善治療とは標準治療を指すのであり、その最善治療をどのように目の前の患者さんに当てはめるかを判断するために、ガイドラインがあります」
90パーセント以上の患者に適応されるのが標準治療だが、患者のすべてに標準治療が当てはまるわけではない。患者自身の体力とか年齢、ほかの病気を持っているかどうかなど、さまざまな条件の違いがある。そのような個々の患者の条件に合わせて治療を選択するとき、グレードAでなく、BやCの選択が迫られることになる可能性もある。このとき、医者と患者の間に立って、手助けしてくれるのがガイドラインだ。
また、EBMとは必ずしもエビデンスだけで構成されるのではないともいわれている。エビデンスに加えて、患者の希望や好み(価値観)、医者の専門性や経験・熟練などがバランスよく統合され、よりよい意思決定のもとに行われる医療こそがEBMであり、「根拠のある医療」だというのだ。
だからガイドラインには、患者の価値観や、個々の医者の専門性にも配慮して、グレードAの標準治療だけでなく、それほど強く勧められないもの、あるいは勧められる根拠が明確ではないものも掲載されている。
土屋さんも「ガイドラインはあくまで補助手段であり、参考書です。ガイドラインを教科書と勘違いして、その通りにやろうとすると間違いが起こります。これはセカンドオピニオンにしても同じですが、一番重要なのは目の前にいる主治医の先生との相談ですから、両者の関係を強化するために、補助するために、ガイドラインを活用してほしいと思います」
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