肺がんへの応用が進む 体にやさしいCTガイド下ラジオ波凝固療法
がんに針を刺し、ラジオ波で焼ききる。手術を必要とせず体への負担が小さい
大阪市立大学医学部
放射線科講師の
松岡利幸さん
ラジオ波でがんを死滅させるラジオ波凝固療法は、手術しないでできる肝がんの治療法として注目されている。
このラジオ波凝固療法の、肺がんへの応用を進めているのが、大阪市立大学医学部放射線科講師の松岡利幸さんだ。
手術が困難な患者さんに対して行ったところ、「68パーセントは再発しない」という結果が出た。
今後の肺がんの新しい治療法として期待されている。
肺への応用は2000年に始まった
ラジオ波凝固療法の装置
肺がんに対するラジオ波凝固療法は、国内では2000年6月に初めて大阪市立大学放射線科で行われた。
ラジオ波凝固療法とは、がんに針を刺し、針に電磁波の1種であるラジオ波を流し、高熱(60~100度)でがんを死滅させる方法だ。手術せずに治療できるメリットがある。
肝がんでは、以前からこのラジオ波凝固療法が行われ、1990年代後半には、身体への負担が小さく、治療成績がかなりよいことがわかっていた。
そこで、同大学の松岡利幸さんは、1998年ごろ、この治療法を肺に応用できないかと考えた、という。
「肺は空気の組織なので、魔法瓶のようにあまり熱が伝わりません。だから、治療をしたところだけ温度が上がることになります。治療効果があり、しかも周囲の肺もほとんどダメージを受けないだろう、と考えました。調べてみると、海外では1995年ごろから動物実験が行われていました。臨床例は2000年に入って、報告されるようになりました」
肺に対するラジオ波凝固療法も、肝臓に対するものと基本的に同じものだ。
ただ、肝臓の場合は、ほとんどが超音波の画像を見ながら行われ、それが難しい場合に限ってCTが使われるのに対し、肺では通常CTが用いられる。肺を満たす空気がじゃまをするため、超音波でははっきりと見えないからだ。CTなら、小さいがんまでもがはっきり見える。
この5年間に、同大学では約100カ所のがんを治療した。十分に焼くことができた場合には、80パーセントが再発しないことがわかった、という。
では、どんな人がこの治療法の適応になるのだろうか。
出典:『IVR』vol.17/No.4 (OCT.2002)日本IVR学会発行
手術の困難な人が対象
肺へのラジオ波凝固療法は新しい治療法だけに、まだ「外科手術に取って代わる」といえるまでの成績は出ていない。
そこで対象となるのは、肺の機能が悪いなど、何らかの理由で手術が困難な人に限られる。
また、肺以外にがんがある場合、そのがんが、薬などによってコントロールできていることが条件となる。
「それは、“肺だけを治療をしても患者さんの寿命が延びるとはいえない”という理由からです。たとえば、元のがんも大きくなっている場合、肺だけを治療するということはしません」
肺にしかがんがない場合でも、腎臓や肝臓などの状態があまりにも悪い人、心臓のペースメーカーや血を固まりにくくする薬を使っている人などは危険が大きいので治療しない。
また、針を刺す治療なので、万が一のことを考えて、がんの付近に太い血管が通っている場合も行わない。
がんの大きさは、30ミリが一応の目安になる。過去には、放射線治療を併用しながら、最大65ミリのがんをうまく治療できた経験が、松岡さんにはある。
だが、35ミリを超えると、とたんに再発しやすくなる。大きなものは、何回か針を刺して、ずらしながら焼くものの、どうしても隙間ができ、焼けきらない部分ができてしまうからだ。
「もっと大きなものを治療してほしいという声があります。最近、大きなサイズの針が発売されたので、それでやってみようかと考えています」
同じカテゴリーの最新記事
- 空咳、息切れ、発熱に注意! 肺がん治療「間質性肺炎」は早期発見が大事
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌が関係!
- 高齢者や合併症のある患者、手術を希望しない患者にも有効 体幹部定位放射線治療(SBRT)が肺がん術後再発への新たな選択肢に
- 免疫チェックポイント阻害薬と体幹部定位放射線治療(SBRT)併用への期待 アブスコパル効果により免疫放射線療法の効果が高まる⁉
- 群馬県で投与第1号の肺がん患者 肺がん情報を集め、主治医にオプジーボ治療を懇願する
- 体力が落ちてからでは遅い! 肺がんとわかったときから始める食事療法と栄養管理
- 進行・再発がんでケトン食療法が有効か!? 肺がんⅣ(IV)期の介入研究で期待以上の治療成績が得られた
- 初となる治療薬登場の可能性 肺がんに対するがん悪液質対策
- 過不足のない肺切除を実現!注目の「VAL-MAP」法