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TS-1、シスプラチン、パクリタキセルの併用で生存期間が15カ月に 進行・再発胃がんへのTS-1を含む3剤併用療法が標準治療を超える成果

監修●岩瀬弘明 国立病院機構名古屋医療センター内視鏡診療部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2010年2月
更新:2019年8月

  
岩瀬弘明さん
名古屋医療センター
内視鏡診療部長の
岩瀬弘明さん

2010年改訂版が出る胃がんの治療ガイドラインでは、進行・再発胃がんの標準治療として、TS-1+シスプラチンが推奨される予定だ。臨床試験におけるこの治療法の成績は、奏効率54パーセント、50パーセント生存期間13カ月だった。これを上回る治療成績を残したのが、TS-1+シスプラチン+パクリタキセルの3剤併用療法である。この臨床試験データは、2008年にアメリカの権威ある学会「米国臨床腫瘍学会」で発表され、世界の注目を集めている。


30年前から取り組んできた胃がんの抗がん剤治療

胃がんの治療は、手術できる段階であれば手術が中心。すでに進行していて手術できない胃がんや、手術後に再発した胃がんに対しては、抗がん剤による化学療法が行われてきた。しかし、「かつての化学療法ではなかなか十分な効果が得られなかった」と名古屋医療センター内視鏡診療部長の岩瀬弘明さんは言う。実際、『胃癌治療ガイドライン第2版』(04年改訂)では、手術不能胃がんに対する化学療法には標準治療はない、となっている。

しかし、同ガイドラインの第3版(10年改訂予定)には、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)とシスプラチン(商品名ランダ、ブリプラチン)の併用療法が、標準治療として掲載される予定。ここに到達するまでの歴史を、簡単に振り返ってもらった。

「この病院では、30年も前から、5-FU(一般名フルオロウラシル)の経口剤を胃がん化学療法のキードラッグとして使ってきました。飲み薬は効かないと言われていた時代でしたが、5-FUは毎日少しずつ投与したほうが効果的なので、経口剤にこだわったのです」

82年には、5-FUを改良した経口剤のUFT(一般名テガフール・ウラシル)とマイトマイシン(一般名マイトマイシンC)の併用で、奏効率約25パーセント、生存期間中央値6カ月という結果を出している。

ところが、その後、5-FU注射剤を単剤で用いるのがよいとのデータが出され、経口剤はあまり使われなくなる。経口剤が復活するのは、UFTの効果を高めたTS-1が99年に登場してからだった。単剤で奏効率が約40パーセントと高く、注目を集めたのだ。

翌00年に、岩瀬さんは〈TS-1+シスプラチン〉の2剤併用療法の第1相試験の成績を、日本癌治療学会で報告している。この併用療法による多施設共同第2相試験の結果は、奏効率50パーセント、生存期間中央値11.5カ月。この成果は、05年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された。

その後、〈TS-1+シスプラチン〉とTS-1単独を比較する大規模な第3相試験(SPIRITS試験)が日本全国の病院で行われた。その結果〈TS-1+シスプラチン〉は、奏効率54パーセント、生存期間中央値13.0カ月という成績を残し、TS-1単独より優れていることが証明された。

これをエビデンス(根拠)として、改訂版の『胃癌治療ガイドライン』では、この2剤併用療法が、手術不能胃がんの標準治療として掲載される予定なのだ。

3剤併用で更に優れた治療成績が出ている

従来の治療に比べ、〈TS-1+シスプラチン〉の2剤併用は優れていたが、岩瀬さんは満足することができなかった。

「奏効率から考えても、半分の人には効かなかったということですからね。生存期間も、もう少し延長できないかと考え、3剤併用療法を発案し、その研究に取り組んできました」

選ばれた抗がん剤は、TS-1、シスプラチン、パクリタキセル(商品名タキソール)の3剤。まずは投与量や投与時期を決めるための第1相試験を行い、その結果を06年のASCOで報告した。

そして、この治療法で多施設共同の第2相臨床試験が行われた。その結果は、奏効率62.8パーセント、生存期間中央値15.0カ月であった。奏効率、生存期間ともに、SPIRITS試験における〈TS-1+シスプラチン〉の成績を上回ったのだ。この3剤併用療法の結果は、08年のASCOで発表された。

[3剤の投与量と投与時期]
図:3剤の投与量と投与時期

[3剤併用療法での全生存率]
図:3剤併用療法での全生存率

「手術不能の進行胃がんの患者さんの生存期間は、何も治療しなければ、だいたい4~5カ月程度。それを平均して15カ月まで延ばせたというのは、それなりに価値があると思います。ただ、副作用が強かったので、どうすれば安全に治療できるかの研究を進めてきました」

副作用はグレード0(なし)~4で評価されるが、この3剤併用療法を4コース以上行うと、グレード3以上の白血球減少が、5割近い患者さんに起こることがわかった。そこで、投与量の減量休薬基準を設け、それに従って減量や休薬を行い、副作用を抑えながら長期間投与できるようにしたのだ。その方法に関しては、10年のASCOで発表する予定。

比較試験を行い将来の標準治療に

優れた治療成績を残した3剤併用療法だが、その効果を本当に証明するためには、比較試験で標準治療を上回る必要がある。つまり、〈TS-1+シスプラチン〉対〈TS-1+シスプラチン+パクリタキセル〉の比較試験が必要になるわけだ。その結果によっては、3剤併用が標準治療となるかもしれない。 「2剤併用療法が普及するのがこれからですから、比較試験が始まるのはその数年後でしょう。まだ時間はかかりそうです」

3剤併用療法が第2相試験でよい結果を出しているだけに、なるべく早く比較試験が行われることを望みたい。3剤併用は副作用が出やすいため、化学療法に慣れた医師が行うのが望ましいとされている。しかし、減量や休薬の方法がマニュアル化されれば、多くの病院でこの治療を受けられるようになるだろう。


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