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適切なタイミングで薬剤を切り替えていくことが大切 切除不能進行・再発胃がんの最新薬物療法

監修●室 圭 愛知県がんセンター薬物療法部長/副院長
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年5月
更新:2021年5月

  

「治療中、食欲がない、お腹がはって苦しいなどの気になる症状を、遠慮しないで医師や看護師に伝えてください。症状などから病状を類推し評価して、治療継続なのかそれとも治療を切りかえていくのか、適切なタイミングで判断することが大事なのです」と語る室 圭さん

20年来、変化の見られなかった胃がんの薬物療法(化学療法)が、ここ数年、進化を遂げている。1次治療から3次治療まで標準治療が確立し、新薬が数種類登場。さらに今年(2021年)末には、1次治療に免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボが加わる予定だ。

しかし、免疫チェックポイント阻害薬はキードラッグではあるが、胃がんはそれだけでコントロールできるようながん種ではなく、まだまだ手強いという。

今回、胃がんの最新の薬物療法から治療に対する向き合い方まで、愛知県がんセンター薬物療法部長/副院長の室 圭さんに話を伺った。

1次治療前にHER2遺伝子検査を

日本で新たに胃がんと診断されるのは、男性は前立腺がんについで2位、女性は乳がん、大腸がん、肺がんについで4位(全国がん登録によるデータ2017年)。死亡者は男性約2万8,000人、女性約1万5,000人(人口動態統計による全国がん死亡データ2019年)。

早期発見で切除できれば治癒する可能性が高い一方、今なお手術不能な状態で発見されることも少なくない。

「この20年、がんの薬物療法は急速な進化を遂げましたが、胃がんの臨床試験は失敗の山を築いてきました。そんな状況に風穴を開けたのが2011年の抗HER2抗体薬(分子標的薬)ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)であり、2017年、化学療法後の進行・再発胃がんに承認された免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(一般名ニボルマブ)です。その後も新薬が登場し、現在も進化しています」と愛知県がんセンター薬物療法部長で副院長の室 圭さんは語る。

現在、胃がんの薬物療法は、1次治療から3次治療まで確立されている。

1次治療に入る前に、手術不能・再発で薬物療法を行うことになったら、まずHER2遺伝子変異を調べる。今のところ、胃がんにおける治療薬に結びついたドライバー遺伝子(がんが発生する過程で関与している遺伝子変異)は、HER2遺伝子変異のみだ。HER2陽性の割合は胃がん全体の20%ほどだが、陽性の場合はハーセプチンなどを追加することで治療成績を上げている。

「患者さんも自分がHER2陽性かどうか、ぜひ知っておいて欲しい」と室さんは強調する(図1)。

IHC:免疫組織化学染色法 FISH:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法

薬剤はどこで使うかのタイミングが重要

1次治療は、フッ化ピリミジン系抗がん薬のティーエスワン/TS-1(一般名S-1)、ゼローダ(一般名カペシタビン)、5-FU(一般名フルオロウラシル)とプラチナ系抗がん薬のエルプラット(一般名オキサリプラチン)、シスプラチン(商品名ランダ/ブリプラチンなど)の併用療法。

(ティーエスワン or ゼローダ or 5-FU)+(エルプラット or シスプラチン)という組み合わせで行う。HER2陽性であれば、ハーセプチンが追加される。

2次治療はHER2の有無を問わず、タキソール(一般名パクリタキセル)+サイラムザ(一般名ラムシルマブ)の併用療法を行う。

HER2陽性については、ハーセプチンを継続したり、別の抗HER2薬タイケルブ(一般名ラパチニブ)を追加したり、カドサイラ(一般名トラスツズマブエムタンシン)に置き換えたりするなどさまざまな臨床試験が行われたが、どれも上乗せ効果が示せず、最終的にHER2陽性か否かを問わず、タキソールとサイラムザの併用療法に軍配が上がった。

「ハーセプチンを続けるとHER2タンパクが発現しなくなることがあります。1次治療でハーセプチン投与をした直後なので、HER2タンパクの発現が消失することで抗HER2抗体が効かなくなったと考えられます」と室さん。

ちなみに、サイラムザは血管新生阻害薬。がん細胞は自ら新しい血管を作り出して栄養を確保し増殖していくが、新たな血管を阻害してがん細胞を兵糧攻めにする抗体薬だ。その代表といえばアバスチン(一般名ベバシズマブ)だが、1次治療におけるアバスチンの治験が優位性を示せず、2次治療の治験ではサイラムザが選択され、良好な結果を出した。

「タキソールとの相性もよかったのではないか」と室さん。

MSI-Highの固形がんにキイトルーダ

ここで特筆すべきは、遺伝子検査でMSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)が認められると、2次治療で抗PD-1抗体のキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)を使えることだ。

「化学療法後に増悪した進行・再発の、MSI-Highを有する固形がん」に対してキイトルーダが承認されたのが2018年末。MSI-Highは進行・再発胃がん全体の約5%と少ないが、対象者ならキイトルーダを使えるのは福音である。

2021年6月刊行予定の『胃癌診療ガイドライン第6版』では、MSI-Highの進行胃がんの2次治療として、「キイトルーダ」と「タキソール+サイラムザ併用療法」の両方が並列に推奨されるとのこと。

「どちらがよいかという議論もありますが、MSI-Highは抗がん薬が効きづらい半面、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高く、かつ効果が長く持続する特性があります。ですから、生存延長を第一に考えるケースでは、キイトルーダを先に使っていくのが良いかもしれません」と室さんは述べ、さらに続けた。

「キイトルーダは効くと効果が長いことも利点ですが、免疫チェックポイント阻害薬の後に抗がん薬治療をすると効果が増幅することもわかってきています。つまり、MSI-Highならば、2次治療はキイトルーダから始め、その後タキソール+サイラムザ併用療法を行うという選択肢もあるわけです」

となると、MSI検査を前もって受けておく必要がありそうだ。

「本来なら、1次治療中から並行してMSI検査を進めるといいですね。当院では1次治療前に、HER2検査と同時に行う体制を整えています。ただ、現時点で1次治療前のMSI検査は保険診療でないのが難点ではあります」

3次治療、HER2陽性ならエンハーツ

3次治療の標準治療は、ここ数年、新薬が追加されて現在4剤。オプジーボ、ロンサーフ(一般名トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)、イリノテカン。そしてHER2陽性の場合はエンハーツ(一般名トラスツズマブデルクステカン)だ。

ロンサーフは胃がん治療には2019年に登場した抗がん薬で、がん細胞の核の中のDNAに作用する機序を持つ。「新薬ゆえに即効性を期待しがちですが実際は逆で、横ばいを保って長く続けられるタイプの薬です」と室さん。

HER2陽性ならばエンハーツ。エンハーツは2020年に承認された新規の抗体薬物複合体(ADC抗体)で、ハーセプチンと抗がん薬の成分を併せ持つ薬剤である。

「HER2陽性の場合、3次治療としては圧倒的にエンハーツが良い結果が出ているので、全身状態が許せば迷わずエンハーツを選択します。現在、2次治療での治験も始まりましたが、現時点では3次治療での使用がベストです。ハーセプチンの継続投与は、2次治療の臨床試験では効果が得られませんでした。結果的に2次治療で使われず、間を空けて3次治療で改めてエンハーツが入ったことで効果が増した可能性もあると考えます」

HER2陰性の場合はオプジーボ、ロンサーフ、イリノテカンの3択だが、この中で第Ⅲ相臨床試験において全生存期間(OS)の延長が証明されているのはオプジーボとロンサーフの2剤。さらに奏効率を見るとオプジーボ11%、ロンサーフ4%。

「先に述べたように、免疫チェックポイント阻害薬の後、抗がん薬治療を行うと、抗がん薬の効果が増幅しやすいので、3次治療ではPD-L1の発現にかかわらずオプジーボから始め、その後、ロンサーフもしくはイリノテカンへ移行するのが良いと思います」(表2)

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