手術、放射線療法、ホルモン療法それぞれのメリット、デメリットは
前立腺がんの手術をすると、術後、尿漏れなどがあって大変だとの話をよく聞きます。手術の他に小線源療法、ホルモン療法があると聞いていますが、どのようなケースが手術で、どのようなケースが小線源療法、ホルモン療法なのでしょうか。またそれぞれのメリット、デメリットも教えてください。
(61歳 男性 神奈川県)
A それぞれの特徴を理解した上での選択を
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん
手術の対象となるのは、転移のない前立腺がんに限られます。転移のない前立腺がんは、病気の拡がり(ステージ)、PSA値、生検の病理組織学的悪性度(グリソンスコア)から低リスク、中リスク、高リスクがんに分類されます。
一般的に60歳台の患者さんの場合の標準治療は、低リスクがんではPSA監視療法、中・高リスクがんでは手術療法または放射線療法(ホルモン療法併用)になります。
ホルモン療法(男性ホルモン除去療法)は前立腺がんを弱らせるものの完治は期待できず、男性の健康度やQOLを低下させることが知られています。具体的には、いわゆるメタボの傾向が強くなり、血管が病むことにより心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まり、寿命を短くしてしまうリスクがあります。
また、性機能が損なわれ、骨も脆くなり、人によっては意欲低下や認知症の傾向が出る場合もあります。このような理由から、転移のないがんに対して、標準治療としてホルモン療法を単独で行うことはありません。
転移のない前立腺がんのうち、高リスクがんの一部を占める局所進行がん(前立腺を越えた浸潤があるか周囲のリンパ節転移のあるがん)を除く、いわゆる限局がんの場合、手術療法でも放射線療法でも10年後に前立腺がんで亡くなる可能性は極めて低いと報告されています。
中・高リスク限局がんの場合、「前立腺がんで亡くならない」ことを目的に治療法を選択するならば、手術療法でも放射線療法(ホルモン療法併用)でも目的は達成できると言えます。
どの治療を選択するかは患者さん個々の判断に委ねられ、以下に記載するそれぞれの治療の特徴を理解した上で選択して頂くことになります。
●手術療法(前立腺全摘除)
全身麻酔をかけて前立腺を摘除します。大部分の限局がん症例で手術療法のみで完治を期待できます。術後は尿が漏れやすくなりますが、漏れの程度は病状や施設や術者の経験や技量によりさまざまですが、一般的に1年程度で大多数の方は生活に支障が出ない程度まで回復すると報告されています。
前立腺が精液の液体成分を作るので、術後射精はできなくなります。勃起機能は低下しますが、勃起神経温存手術により早期回復を期待できます。現在、本邦の多くの施設では手術支援ロボット(ダヴィンチ)を用いた腹腔鏡下前立腺全摘除が行われています。開腹手術と比較して体への負担が軽く、出血量が少なく入院期間が短いことが利点です。
当院のロボット支援手術の場合、入院期間は6~7日、輸血を必要としたケースはこれまでなく、尿漏れは術後3カ月で殆どの患者さんが日常生活に支障がない程度(尿漏れパッド不要または念のため1日1枚使用)に回復しています。
●放射線療法(強度変調放射線治療、小線源療法)
相談者の質問にある小線源療法は放射線療法の1つで、麻酔をかけて前立腺の中に密封小線源を埋め込む手術です。4日程度の入院が必要で、治療の対象となる中・高リスク限局がんでは、通院で外から放射線をかける外照射やホルモン療法を短期間併用する場合が殆どです。
放射線療法で最も多く行われているのは強度変調放射線治療(外照射の1つ)で、中リスクがんでは6カ月間、高リスクがんでは2~3年間ホルモン療法を併用し、入院を必要とせず、1~2カ月弱の間、毎日通院して治療を行います。手術療法と異なり、放射線療法では尿漏れが起きにくいことが利点です。性機能も比較的温存されますが、ホルモン療法により性欲や勃起機能は低下します。
手術療法では、排尿状態や性機能は治療直後で大きく低下し、その後は回復していきます。放射線療法では、治療中は排尿状態や性機能に著しい変化はないものの、治療後に時間をかけて徐々に低下していきます。治療後の排尿状態や性機能に関するQOLを手術療法と放射線療法とで比較した研究によると、治療後5年間は放射線療法のほうが手術療法よりQOLが良好であったものの、5年目以降は手術療法が逆転して良好であったと報告されています。