『奇跡の夏』原作者、キム・ヘジョンさんインタビュー
希望が奇跡を生む。希望を持たせることが最良のサポート

レポート:編集部
発行:2006年8月
更新:2013年4月

  
キム・ヘジョンさん

キム・ヘジョン
大学在学中、朝鮮日報の「新春文芸」に小説が当選、文壇デビュー。
以降、放送作家として活動しながら、ドキュメンタリーを多く執筆。
「人と人」「韓国の美」「韓国再発見」など多くのテレビドキュメンタリーの制作にも参加。
ヨーロッパ散策記『人生よりも美しい風景はない』など


今、ある1本の映画がこどもをもつ親たちの熱烈な共感を集めている。

『奇跡の夏』――脳腫瘍のこどもとその弟、両親、さらに病床で知り合った友人との交流を中心に生命のたくましさ、はかなさ、そして何より生きることの素晴らしさを描いた韓国映画である。原作者はカナダ在住の放送作家であるキム・ヘジョンさん。映画では韓国内で治療を受ける設定になっているが、じっさいにはキムさんの長男はカナダで理想的と思える治療を受けており、キムさんはその経験をもとに韓国医療の後進性をネット上で24回にわたって提起した。原作となった『悲しみから希望へ』はそれをまとめたものだ。

そのなかの1エピソードを映画化したこの作品は、がんのこどもを持つ親たちにとって、切実このうえない多くの問題を投げかけている。告知の問題、治療の問題、治療にともなう障害の問題、そして何より、がんになったこどもとともにどう生きていくか――。原作者はこれらの問題をどう捉え、さらに、そこから何を訴えようとしているのか。折りしも来日中のキム・ヘジョンさんに聞いてみると、映画では語られていない問題も浮かび上がってきた――。

絵を描いて脳腫瘍が説明された

スチル写真

こどもの人生に突然降りかかった大きな試練……

スチル写真

白血病のウク(左)とハニが森の中に伝説の男を探しに。不思議な体験をする

編集部 映画を拝見して病気と闘いながら、ご家族がたくましく変わっていく姿に感動しました。日本でもご長男のソルフィ君と同じ病気で苦しんでいるこどもたちがたくさんいます。ソルフィ君の脳腫瘍はどんなものだったのか。まず基本的なところから教えてください。

キム・へジョン(以下キム) 私たちは2002年2月にカナダに移住し、その年の12月にソルフィの様子がおかしくなり始めました。脳腫瘍と正確な診断が下されたのは翌01年の1月でした。腫瘍は発見されたときにはすでにピンポン玉ほどに成長していました。もっとも、成長スピードは遅くその点では良性でした。しかし、位置的には脳下垂体のすぐ裏側で、しかも左右の視神経が交差した部位にあるため、手術をすると、そのどれもが傷ついてしまう危険性が高く、その点ではきわめて悪性の腫瘍でした。

編集部 治療はどんなものだったのですか。

キム 位置的に手術が難しいため、最初は抗がん剤治療が行われました。まず特殊な針のような器具を腫瘍に差込み、腫瘍内部の液体をくみ出します。そしてその針を利用して腫瘍に抗がん剤を注入するのです。日本の医療ではどう判断するかわかりませんが、カナダの医師たちは、手術は危険が大きいと判断したのです。しかしこの治療でも腫瘍は一向に縮小せず、結局、手術を行い、さらに放射線治療を受けることになりました。その結果、映画にもあるように、ソルフィは視力を失っています。

希望こそが奇跡を起こす

スチル写真

仲のいい兄弟が思わぬ危機をどうくぐり抜けていくか

スチル写真

映画のクライマックスとなった、人気コメディアン オクトンジャが病室を訪れるシーン

編集部 そうですね。ソルフィ君の場合もそうですが、小児がんの場合には、治療にともなって障害が起こる問題もありますね。その前にお聞きしたいのは、日本でも小児がんのこどもへの告知の仕方が論議を呼んでいます。キムさんの場合には、病気や治療法について、ソルフィ君にどのように説明されたのでしょうか。

キム カナダではこどもに対しても病気や治療についての説明は、家族ではなく、専門的な知識を持っている医療スタッフが行います。ソルフィの場合には、当時はまだ医療についての専門的な話を理解する英語力がなかったため、脳の絵を描いて図解する方法で、ことこまかに病気や治療、治療によって生じる障害などについての説明が行われました。そばで見ていた私は、ここまでこどもに話すのは残酷ではないかと、こどもの耳を塞いでやりたい衝動に駆られたものです。しかし、ソルフィは医師たちから説明を受けたことで、現実を直視することができたようです。もちろん彼にも葛藤はあったに違いありません。しかし最初にしっかりと話を聞いていたからこそ、状況を受け入れ、勇気を持って治療に臨むことができたのでしょう。
また担当の医師の説明も素晴らしいものでした。厳しい話をした後で、必ず、でも、治れば君はまた学校に戻れる、治療によってこんな障害が出るかもしれないけれど、この機能は変わらないと必ず希望を持たせてくれるのです。私はソルフィへの説明で担当の医師がいったことが今も忘れられません。その医師は、希望こそが奇跡を起こすといってくれたのです。
逆にお聞きしたいのですが、日本ではこうした場合、こどもへの説明はどのように行われているのですか。

編集部 難しい問題ですね。ソルフィ君の場合のようにこどもにもはっきりと説明すべきだという声も高まっています。しかし現実にはなかなかそうはいっていません。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!