患者のためのがんの薬事典
ラスリテック(一般名:ラスブリカーゼ)
がんの化学療法が原因で起こる高尿酸血症治療薬が登場
大量の尿酸が血中に存在する高尿酸血症は、がんの化学療法が原因で起こる症候群の1つです。
この病気は適切な治療を行わないと急性腎不全に至ったり、最悪の場合は致死的な経過をたどることもあります。しかし、昨年10月、このがん化学療法に伴う高尿酸血症の治療薬としてラスリテックが日本でも承認されました。とくに、良好な予後が期待できる小児血液がんの治療現場から切望されていた薬剤の登場です。
腎臓にダメージを与える高尿酸血症
高尿酸血症とは、化学療法を行った後、腫瘍細胞が死んだ結果として、血中に核酸、カリウム、リン酸などの物質が大量に放出されて引き起こされる腫瘍崩壊症候群と呼ばれる病態の1つです。
とくに急性白血病や悪性リンパ腫などの血液がんで起こることが多い症状です。
がん化学療法に伴う高尿酸血症では大量の尿酸が血中に存在するため、速やかに治療されない場合、尿酸が腎臓内に蓄積し、腎不全を引き起こすなど腎臓にダメージを与えます。腎機能の悪化により、たとえがんは治ったとしても、その後透析が必要な生活を余儀なくされたり、場合によっては死に至ることもある危険な病態です。
尿酸を直接分解、排出する新しい作用と仕組みの薬
高尿酸血症は、抗がん剤の初回投与後12~24時間以内に発現することが多いといわれています。これまでは、化学療法開始2~3日前から経口の高尿酸血症治療薬を服用したり、輸液により水分を体内に入れて尿量を増やす、炭酸水素ナトリウムやクエン酸カリウムを投与して尿をアルカリ性に保つ、などの対策がとられていました。
しかし、経口で服用する高尿酸血症治療薬は、化学療法の副作用でみられる嘔気・嘔吐がある人には服用しにくく、また経口摂取できない患者さんは服用できないという問題がありました。加えて、効果が現れるのが遅く、服用後2~3日経たないと尿酸値が下がらないという欠点もありました。
一方、ラスリテックは、点滴で体内に薬を入れるため、経口摂取できない患者さんにも投与することができます。また、新しい作用の仕組みを持つラスリテックは尿酸を直接分解し、水に溶けやすいアラントインという物質に変換することで腎臓から容易に尿中に排出させるため、効果発現が早く、腎臓の負担も軽減します。
成人と小児に行った臨床試験では、どちらも使用後4時間で効果が表われているという結果が得られています。
また、有効率も成人では25例中24例(96パーセント)、小児では14例中14例(100パーセント)の患者さんに有効性が確認されています。
高尿酸血症を含む腫瘍崩壊症候群は、化学療法の後に突然起こることが多く、ボールが坂を転がるように、急速に病態が悪化していくといわれています。症候群が起きてから対応することは難しく、予防的に対応していくことが大切です。
これまでは2~3日前から高尿酸血症治療薬を服用する必要がありましたが、ラスリテックは化学療法開始4~24時間前からの投与で十分効果が発揮されます。
再投与はアレルギー症状が出る可能性があり、注意が必要
ラスリテックの主成分は、ラスブリカーゼというたんぱく質の一種です。1度使用すると体内に抗体が作られてしまう可能性があるため、再投与した場合、アナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー症状が出る可能性があります。そのため、再投与は推奨されていません。
ただし、必ず起きることではありません。実際、海外の臨床試験では再投与の報告が数例ありますが、データが少ないので、安全性が担保されていないということです。
また、日本人では少ないですが、血液の中の赤血球の一部の酵素が不足している、G6PD欠乏症の患者さんはラスリテックの使用により、溶血が起きる可能性があることも報告されています。
抗がん剤治療に対する「大きな安心」を手に入れた
ラスリテックは、仏の製薬会社サノフィ・アベンティスが創薬・開発した製剤です。日本は09年10月に承認されていますが、海外では8年前から使用されています。現在は、50カ国以上で承認されています。
ラスリテックは、「高尿酸血症」を効能効果とした唯一の薬剤で、とくに腫瘍崩壊症候群を起こしやすい血液がんの患者さんのうち、既に尿酸値が高い人や、高尿酸血症を起こすだろうと予想される人を中心に使われると見込まれています。
実際、使用が想定される患者さんは、非常に少ない人数です。
けれども、ラスリテックは医師、なかでも小児血液がんの治療医から大変切望されていた薬剤です。
完全にがんが治ることを目指す現在の小児がんの治療では、抗がん剤の影響で、患児が一生透析しなければいけないような事態をできるだけ避けるべく心を砕いてきました。
ラスリテックにより、化学療法剤に起因する高尿酸血症をほぼ確実に防ぐことができる――。
これは、小児そして成人の患者さんにとって、抗がん剤治療に対する大きな安心を手に入れたことでもあります。
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