患者のためのがんの薬事典
エストラサイト(一般名:エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物)
再燃前立腺がんの有力な選択肢、抗がん剤と女性ホルモンを結合させた治療薬
日本で承認され、実際に使用されている前立腺がんの治療薬は、それほど多くありません。その中で、日本での販売開始から4半世紀にわたって使われてきたのがエストラサイト(一般名エストラムスチンリン酸エステルナトリウム)です。
エストラサイトは、前立腺の組織に存在するエストラムスチン結合蛋白(EMBP)により前立腺組織に集まり、腫瘍の増殖を防ぐと同時に、抗アンドロゲン作用も示すことで高い有効性を生み出します。
がん細胞の増殖を抑える働きをする
前立腺がんの治療に用いられているエストラサイトは、1960年代にスウェーデン・レオ社で開発された抗がん剤です。日本では1983年に承認され、それから4半世紀にわたって前立腺がんの内分泌化学療法に使われてきました。
もともとは女性ホルモンのエストラジオールとがん細胞の増殖を妨げるアルキル化剤(抗がん剤)のナイトロジェンマスタードを化学的に結合させ、乳がんの治療薬として開発された薬でしたが1970年代にラット(実験動物のネズミ)の前立腺に特異的に集積することが発見されたことをきっかけに前立腺がんの治療薬として開発されました。
カプセル剤で、基本的に1日2回、経口投与されます。
飲んだ後は、体内の消化管で脱リン酸化を受けてエストラムスチンになり、前立腺がんに対する抗腫瘍効果を発揮します。
さらにエストラムスチンは加水分解により、女性ホルモンのエストラジオールに変換されます。
前立腺がんは男性ホルモンにより悪化することが分かっていますので、この変換されたエストラジオールの作用により、男性ホルモンの働きを抑え、前立腺がんに効果を示します。
がんの再燃時に使用されることも多い
前立腺がんの一般的な内科的治療は、男性ホルモンを強力に抑える方法です。
これには、男性ホルモンを低下させることを目的としたLH-RHアゴニストと男性ホルモンの作用をブロックするアンドロゲン受容体遮断薬が使用されます。
この治療に効果がなかったり、1度は効果があったが、がんが再燃した場合(再燃前立腺がん)は、治療に難渋する場合が多いのですが、このような状態の選択肢としてエストラサイトを選ぶ病院が多いようです。
最初からエストラサイトが使用されない最大の理由としては、悪心・嘔吐や食欲不振、血栓症などの副作用が挙げられます。
血栓症は、実際に起きるケースは数少ないのですが、血管の中に血液のかたまりができて細い血管を詰まらせ、肺血栓や脳血栓、脳梗塞などを起こします。
さらに、女性ホルモンが含まれていることから、男性であっても乳房が膨らんできたり、張って痛くなったりする症状が出る場合があります。 このようなことから、服用の際には、局所痛・圧痛、皮膚の赤い湿疹、胸痛や圧迫感、息切れ、全身のむくみ、呼吸困難を伴う顔面・舌・声門・のどの腫脹、から咳、食欲不振、疲労感・倦怠感――などの自覚症状に注意する必要があります。
また、副作用ではないのですが、牛乳や乳製品、小松菜、丸干しといったカルシウムを多く含む食材やカルシウム製剤と一緒に服用すると薬の吸収が悪くなり、効果が弱くなってしまうため注意が必要です。
合併症を悪化させるケースもある
エストラサイトは、手術の前後に用いられることも少なくありません。進行した前立腺がんや転移したものにも高い有効性が認められます。
また、腫瘍による骨の痛みの軽減にも用いられるケースもあります。
ただし合併している病気によっては、その病状を悪化させる恐れもありますので注意が必要です。
具体的には、血栓性静脈炎、脳血栓、肺塞栓、狭心症、心筋梗塞、重い肝臓病、重い血液障害、消化性潰瘍などが、その対象となります。肝臓病や腎臓病、心臓病、糖尿病、てんかん、血液障害などの症状がある場合も注意が必要です。
また、副作用や効果をチェックする定期的な検査も欠かせません。
今後は臨床試験による効果の検証が必要
エストラサイトの3カ月投与試験成績における総合評価は、未治療群における有効率は89パーセント、既治療群における有効率は38パーセントと高い実績を誇っています。
さらに最近、タキサン系抗がん剤のタキソテール(一般名ドセタキセル)が前立腺がんに使えるようになりました。
アメリカでは、このタキソテールとエストラサイトを併用することで、生存期間が2カ月延びたという報告があり、注目されています。また、日本でも再燃前立腺がんに対してよい成績が得られることが期待されています。
今後は、日本人の再燃前立腺がんなどに対する治療薬の適正使用を検証することが求められるところです。
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