患者のためのがんの薬事典
スーテント(一般名:スニチニブ)
グリベックが効かなくなった消化管間質腫瘍と、切除できないまたは転移性の腎細胞がんを適応とする分子標的薬
消化管間質腫瘍と腎細胞がんに対する新しい抗がん剤として、ファイザー社は2008年6月13日、「スーテント」を発売した。臨床試験では、「グリベック」が効かなくなった消化管間質腫瘍の患者さんに対して、無増悪期間(がんの増殖を認めない期間)の延長が確認された。一方、切除できない、または転移性の腎細胞がんに対しても、標準治療薬であるインターフェロンと比較して生存期間の延長などが認められ、腎細胞がん治療の第1選択薬として推奨されている。
世界で79番目という遅い承認で2008年6月発売へ
がんの治療薬が日本で承認されるのは、欧米での承認より大幅に遅れることが多いのですが、スーテント(一般名スニチニブ)も例外ではありませんでした。
この新しい分子標的薬の臨床試験は、消化管間質腫瘍(GIST)や腎細胞がんなどを対象にして、2000年に欧米諸国で開始されています。この臨床試験でスーテントの有用性が明らかになり、2006年1月に、アメリカで最初に承認されました。そしてこれを皮切りに、多くの国で承認されていったのです。
日本では、2005年から臨床試験が始まりました。そして、2008年4月に承認され、6月から保険がきくようになりました。適応は、「グリベック(一般名イマチニブ)が効かなくなった消化管間質腫瘍」と、「手術で切除できない腎細胞がん、または転移性の腎細胞がん」です。
がんは、新たな栄養や酸素を得るために、新しく血管をつくったり(血管新生)、がん自身の増殖を促す物質を産生することによって増大していきます。
一方、ここ最近次々と登場している分子標的薬ですが、従来の抗がん剤が、がん細胞だけでなく、正常細胞も攻撃してしまうのに対し、分子標的薬は、がんの増殖や血管新生に関わる分子をターゲットとし、その働きを抑えることで効果を発揮します。
複数の受容体を標的にしてがん細胞の増殖を抑制する
スーテントは、分子標的薬の1つで、がん細胞や血管内皮細胞の表面にある受容体に働きかけ、がん細胞の増殖因子や血管新生を起こさせるシグナル(信号)伝達をブロックすることでがんの増殖を抑制します。
また、1種類の受容体ではなく複数の受容体に働きかける点も、スーテントの主な特徴です。対象となる受容体は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、幹細胞因子受容体(KIT)、fms様チロシンキナーゼ3(FLT3)、コロニー刺激因子1受容体(CSF-1R)、グリア細胞由来神経栄養因子受容体(RET)などです。
これらの受容体に働きかけることで、がん細胞の増殖を抑える「増殖阻害作用」と、血管新生を抑える「血管新生阻害作用」を発揮するのです。
臨床試験で生存期間の延長など優れた成績を確認
臨床試験では、次のような優れた成績を残しています。
●消化管間質腫瘍(GIST)
グリベックによる治療を受け、すでにそれが効かなくなっている患者さんが対象です。従来は、グリベックが効かなくなると、もう治療法がありませんでした。
臨床試験では、スーテントを服用した群と、偽薬(プラセボ)を服用した群の比較試験が行われています。
海外の臨床試験では、無増悪生存期間(がんの増殖を認めない期間)が調べられました。
結果は、スーテント群の中央値(無増悪率が50パーセントになるまでの期間)が27.3週、プラセボ群の中央値が6.4週で、統計学的にも明らかな差が見られ、無増悪生存期間の優位な延長が認められました。現在グリベックを使用している人にとっても、明るいニュースと言えるでしょう。
●腎細胞がん
従来の標準治療であるインターフェロンとの比較試験が行われています。
転移性の腎細胞がんの患者さんを対象に、第1次治療として、スーテントを使用した群と、インターフェロンを使用した群の成績を比較しています。
その結果、奏効率(腫瘍縮小効果)はスーテント群が39パーセント、インターフェロン群が8パーセントで、明らかな差が出ました。
無増悪生存期間の中央値は、スーテント群が11カ月、インターフェロン群が5カ月で、これもはっきりした差となっていました。
この試験成績で日本でも承認されたのですが、臨床試験はその後も進められ、結果が今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で報告されています。それによれば、スーテント群の生存期間の中央値は26.4カ月、これに対し、インターフェロン群は21.8カ月でした。
これは、転移性の腎細胞がんであっても、スーテントを最初に使用すれば、その後2年以上の生存が期待できることを意味しています。腎細胞がんの患者さんに希望を与える結果と言えるでしょう。
副作用対策として一定期間は販売先を特定
スーテントは、消化管間質腫瘍や腎細胞がんに素晴らしい効果を発揮しますが、副作用に対する十分な注意が求められます。
国内臨床試験では、さまざまな種類の副作用が認められたためです。
国内の臨床試験で現れた主な副作用としては、次のようなものがあります。血小板減少(91.4パーセント)、手足症候群(65.4パーセント)、食欲不振(64.2パーセント)、肝機能異常(63.0パーセント)、疲労(50.0パーセント)、リンパ球減少(61.7パーセント)。
これらの副作用による深刻な事態を防ぐために、ファイザー社は発売後、一定症例のデータが集積されるまでの間、処方する医師や施設を限定し、全例登録調査を実施するそうです。それによって、安全性・有効性に関するデータを早期に収集し、適正使用の推進を図っていく方針です。
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