患者のためのがんの薬事典
ブリプラチン/ランダ(一般名:シスプラチン)
適応範囲が広く、多くの抗がん剤治療で中心的役割を担う。高い抗腫瘍効果を持つ反面、強い副作用への対応が課題
国内で適応となるのは、睾丸腫瘍、膀胱がん、腎盂・尿管腫瘍、前立腺がん、卵巣がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん、食道がん、子宮頸がん、神経芽細胞腫、胃がん、小細胞肺がん、骨肉腫、胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫など、非常に広い範囲に及びます。
優れた腫瘍縮小効果を持ち、それぞれの治療において中心的に使われることが多い薬ですが、副作用が強いことでも知られています。
シスプラチンは、1965年に、アメリカのローゼンバーグ博士によって、細菌の増殖を抑える抗菌薬として発見され、その後、抗腫瘍効果が確認されてがん治療に用いられるようになりました。
日本では、1983年にブリストルマイヤーズ社よりブリプラチン(商品名:シスプラチンは一般名)が発売され、84年に日本化薬よりランダ(商品名)が発売されています。肺がんや食道がん、頭頸部がん、睾丸腫瘍など、様々な種類のがんに対してその効果が確認されており、現在抗がん剤として最も広く使われている薬剤の1つと言えます。
シスプラチンは「白金製剤(プラチナ製剤)」に分類される薬剤です。これは、名前の通り金属の白金を含んだ薬で、がん細胞のDNAと結合することでDNAの複製をさまたげ、分裂、増殖を抑えて死滅させるという作用を持っています。同じ系統の薬剤としては、他にパラプラチン(一般名カルボプラチン)、アクプラ(一般名ネダプラチン)などがあります。
非常に強い副作用を持ち、中でも腎障害が深刻
シスプラチンは、高い腫瘍縮小効果を持つものの、激しい副作用があることが特徴です。最も深刻なものはその強い腎毒性による、腎不全などの腎臓機能の障害で、投与上の大きな問題点とされています。尿の量が減少したときに腎臓障害が現れやすいことから、点滴によって水分を摂ったり、利尿剤を使用して、尿の量を多くし、腎毒性を軽減するなどの対策が必要になります。
また、多くの患者に見られる悪心・嘔吐や食欲不振などの消化器症状に関しては、他の抗がん剤と比べてもかなり強く現れます。このような症状に対しては、主に制吐剤を併用することによって対応します。
腎臓障害の他、骨髄抑制などの重篤な副作用が起こることもあり、投与にあたっては、各機能の検査を何度も行いながら、状態を十分に観察することが不可欠です。
このような副作用を軽減することを目的に後に開発された白金製剤が前述のカルボプラチンです。患者の腎臓機能が低下しているときや、シスプラチンの副作用に耐えられないときなどにも投与できる場合があり、シスプラチンの代替として使われることもあります。
急性腎不全(0.1%未満) 汎血球減少(0.1%未満)等の骨髄抑制 ショック、アナフィラキシー様症状(0.1%未満) 聴力低下・難聴(1.4%)、耳鳴(1.7%) うっ血乳頭(0.1%未満)、球後視神経炎(0.1%未満)、皮質盲(0.1%未満) 脳梗塞(0.1%未満)、一過性脳虚血発作(0.1%未満) 溶血性尿毒症症候群(0.1%未満) 心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全、不整脈(すべて0.1%未満) 溶血性貧血(0.1%未満) 間質性肺炎(0.1%未満) 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(0.1%未満) 劇症肝炎(0.1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、黄疸(0.1%未満) 消化管出血、消化性潰瘍、消化管穿孔(すべて0.1%未満) 急性膵炎(0.1%未満) 高血糖(0.1%未満)、糖尿病の悪化(0.1%未満) 横紋筋融解症(0.1%未満) |
(添付文書より)
他の抗がん剤との併用療法
現在の抗がん剤治療全体に言えることですが、単独で用いるよりも、他の抗がん剤と併用して使用されることが一般的になっています。シスプラチンを用いた多剤併用療法の中から、代表的なものを紹介します。
■肺がん…非小細胞肺がんにおいては、90年代に入ってから使われるようになった新規抗がん剤 (イリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル)のいずれか1つにシスプラチンを加える2剤併用療法が、初回の抗がん剤治療の標準選択となっています。小細胞肺がんでは、シスプラチン+イリノテカンもしくはエトポシドが標準薬です。
■睾丸腫瘍…初回抗がん剤治療として、現在ではシスプラチン、ベプシド(一般名エトポシド)、ブレオ(一般名ブレオマイシン)の3剤併用(BEP療法)か、もしくはシスプラチン、ベプシドの2剤併用(EP療法)が第1選択となっています。
■卵巣がん…主に手術を行った後に、シスプラチン+エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)を用いたCP療法が行われていますが、現在ではTJ療法(タキソール+カルボプラチン)が標準的に行われる傾向にあります。
■食道がん…抗がん剤治療は、シスプラチン+5-FUの組み合わせを中心に行われています。これに放射線治療を併用した化学放射線治療は、最近、治療成績が手術とほぼ変わらないとの報告が出されてきたこともあり、手術よりもこちらを選ぶケースが増えています。
■頭頸部がん…食道がんと同じく、シスプラチン+5-FUとの組み合わせで、術前化学療法、または放射線との併用で用いられます。
■悪性リンパ腫…キロサイド(一般名シタラビン)の併用による*DHAPまたは*ESHAP療法が行われます。
* カンプト・トポテシン(一般名イリノテカン)、ナベルビン(ビノレルビン)、ジェムザール(ゲムシタビン)、タキソール(パクリタキセル)、タキソテール(ドセタキセル)
*DHAP療法=デカドロン(一般名デキサメタゾン)、シスプラチン、キロサイドの3剤併用療法
*ESHAP療法=エトポシド、メドロール(一般名メチルプレドニゾロン)、シスプラチン、キロサイドの4剤併用療法
最近の動き用途はさらに広がる
現在も国内での適応範囲は広がってきており、昨年2月には悪性骨腫瘍、子宮体がん、9月には再発・難治性悪性リンパ腫、小児悪性固形腫瘍(横紋筋肉腫、神経芽腫、肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍、髄芽腫等) に対する適応が新たに追加承認されています。
また、今後の可能性として、多数の臨床研究が国内外で進行中です。昨年5月ののASCO(米国臨床腫瘍学会)では、シスプラチンを含んだ併用療法の臨床試験の結果がいくつか報告されており、中には標準とされている既存の治療より優れた成績を示したデータも発表されています。
引き続きがんの化学療法の中で、重要な位置に置かれている薬ですが、前述の通り、その副作用の大きさから使用が制限されるケースがあります。そのような副作用を軽減するための研究も進んでおり、新しい動きとしては、極めて小さな分子や原子を加工するナノテクノロジーという技術をシスプラチンに用いた副作用の少ない新しい薬剤の臨床試験が始まるなど、今後の動向に注目されます。
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