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患者のためのがんの薬事典

パラプラチン(一般名:カルボプラチン)
多剤併用療法に組み込まれ治療効果を改善

文:荒川直樹
発行:2004年7月
更新:2019年7月

  

パラプラチンは白金錯化合物と呼ばれる抗がん剤の一つです。
白金錯化合物はがん細胞に対して白金がDNA合成阻害作用を発揮し 抗がん剤の効果の現れにくい固形がんにも一定以上の有効性が認められています。
白金錯化合物として最初に登場したのはブリプラチンで その副作用を軽減する目的で新たに開発されたのがパラプラチンです。

睾丸腫瘍・悪性リンパ腫などで効果を発揮

パラプラチン(一般名カルボプラチン)は、白金錯化合物と呼ばれる抗がん剤の一種です。白金錯化合物は、貴金属である白金の原子を有機酸などが取り囲むような構造をしています。白金錯化合物をがん患者に静脈注射すると、血液中の白金ががん細胞に取り込まれ、がん細胞のDNAの合成を阻害することで抗がん作用を発揮すると考えられています。

白金錯化合物が抗がん剤として研究されたのは、1960年代にアメリカのローゼンバーグという研究者が白金電極を偶然がん細胞に接触させたのがきっかけでした。医薬品として最初に登場したのは、日本では1983年に発売されたブリプラチン(一般名シスプラチン)です。1971年に発売されたアドリアマイシンとともに、胃がんや肺がんなどの固形がんの化学療法の可能性を切り開いた薬剤となりました。

ただ、ブリプラチンは腫瘍を縮小させる効果は高い反面、吐き気・嘔吐、脱毛などの副作用が強く、腎臓障害、骨髄抑制などの重大な副作用も現れます。とくに腎臓障害は大きな問題で、そのためブリプラチンの投与の際は1日3~4リットルの大量の水分と利尿剤を与え、尿中への排泄を促進させることが必要でした。ハイドレーションと呼ばれるこの措置は患者の負担が高いほか、医師にとっても手間のかかる作業でした。

そこで、ブリプラチンの副作用を軽減した白金錯化合物の開発が進められ、その成果の一つとして1990年に同じ製薬会社から発売されたのがパラプラチンです。

欧米で研究が進むさまざまな併用療法

国内の臨床試験によると、パラプラチンでは、腎臓機能が低下しているなどブリプラチンの投与ができなかった患者にも投与できる場合があるほか、末梢神経障害や聴覚機能に対する影響などもシスプラチンよりも少ないことが分かりました。

パラプラチンのがんに対する効果ですが、国内臨床試験では、奏効率(寛解率)が高いものから順に挙げると、睾丸腫瘍で47.6パーセント、悪性リンパ腫で39.4パーセント、卵巣がんで38パーセント、肺小細胞がんで26.7パーセント、頭頸部のがんで20.9パーセントなどで、抗がん剤の効果の現れにくい固形がんにも有効性が認められています。これらの結果は、シスプラチンより優れていると考えられていますが統計学的には差が認められていません。

なお、がんの化学療法はいくつかの抗がん剤を組み合わせるのが一般的です。白金錯化合物はその抗腫瘍効果が高いことから、最近登場している抗がん剤との併用療法の研究も進められています。

たとえば、卵巣がんの化学療法では、手術の後に転移の可能性のごく少ないがんの場合を除きパラプラチンとタキサン系抗がん剤(タキソールやタキソテール)の併用療法を行うのが標準治療となっています。その効果も大規模な臨床試験で証明されており、2001年の米国臨床腫瘍学会では、卵巣がんと診断された患者1077名にタキソテール(一般名ドセタキセル)とパラプラチンの併用療法を行ったところ66パーセントの奏効率を示したと報告されています。また、最近では手術前にこの併用療法を行うことも研究として行われています。

また、2002年の米国臨床腫瘍学会では膵臓がんの治療薬であるジェムザール(一般名塩酸ゲムシタビン)とパラプラチンの併用療法についての報告がありました。それによると進行した肺がん(非小細胞がん)患者334名を対象にジェムザールとパラプラチンの併用療法を行ったところ、奏効率が30パーセントとジェムザールを単独で投与したときの12パーセントよりも向上したとされています。こうした併用療法の研究により、抗がん剤の有効性と安全性を高められる可能性があります。

奏効率=ある藥を使って、腫瘍の大きさが半分になった状態が4週間以上続く(奏効したとみなす)人の割合

副作用の軽減について医師とよく相談を

パラプラチンは、一般的には入院した上、点滴による静脈注射で30分以上かけてゆっくりと投与されます。投与量は、患者の体表面積1平方メートル当たり有効成分カルボプラチン300~400ミリグラムです。1回投与して4週間休薬。これを1クールとして病状を診ながら治療を繰り返していきます。

主な副作用は、投与中および投与後の吐き気や嘔吐で、患者の半数以上でみられます。そのほか食欲不振やだるさなどの全身症状、脱毛や発熱などがみられることもありますが、こうした副作用の治療薬もいくつかありますので、担当医に症状をよく伝えることが必要です。重い副作用としては、腎臓機能の低下と骨髄抑制による免疫機能の低下が起こることがあります。そのため投与後1週間は水分を十分にとるよう気をつけるほか臨床検査を受けて異常がないかを確認する必要があります。

こうした副作用があるものの、がん治療において白金錯化合物の重要性は高いといえます。そのため、副作用を軽減した新しい化合物の開発や、副作用軽減方法や併用療法の開発が進められています。

くすりのメモ

商品名:パラプラチン
一般名:カルボプラチン
発売元:ブリストル・マイヤーズ

どんながんに使われるのか:
現在健康保険が適用されているのは、頭頸部がん、肺がん、睾丸腫瘍、卵巣がん、子宮頸がん、悪性リンパ腫です。

使用法:
注射剤です。点滴による静脈注射を行います。使用量は、1日1回、成分であるカルボプラチンを体表面積1㎡あたり300~400mg投与し4週間は休薬。これを1クールとして、医師と相談しながら治療を繰り返します。

治療費はどれぐらい:
1回の投薬量300mgの薬価は約4万円です。健康保険を利用した場合、1カ月の薬剤費は約1万3000円の自己負担になります。

■パラプラチンの副作用
よく見られる(10%以上)副作用
・悪心、嘔吐、食欲不振、肝機能検査値の異常、脱毛、全身倦怠感
ときどき見られる(1~10%)副作用
・下痢、口内炎、腹痛、便秘、血尿、蛋白尿、発疹、しびれ、頭痛、発熱、むくみ
まれに見られる(1%未満)副作用
・口の渇き、おしっこが出にくい、皮膚のかゆみ、耳鳴りや聴力低下、視力異常、めまい、けいれん、神経過敏、脈拍の異常
・爪の変色などの皮膚異常など


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