従来の検診と組み合わせ効率的な治療方針を立てる
将来の危険性を予測する試みの子宮頸がんの新しい診断
がん研有明病院顧問の
荷見勝彦さん
子宮頸がん検診で、前がん病変である「子宮頸部異形成」と診断されると、一部を除き、経過観察を行うのが一般的です。
こうしたなか、将来への危険性を予測しようと試みた「子宮頸部前がん病変のHPV-DNA診断」が注目を浴びています。
厳重なフォローアップが必要な患者さんとそうでない患者さんの分類に役立つなどに期待されています。
HPVの型を用いて将来への危険性を予測する
「子宮頸部前がん病変のHPV–DNA診断」(以下HPV–DNA診断)とは、子宮頸がんのうち、扁平上皮がん(*注1)と密接な関係があるヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)の型を調べる検査です。通常の子宮がんの検診で行われている細胞診と同じ検体を使って、細胞中のHPVのDNA(遺伝子)を検出し、型を判定します。この型によって将来の危険性を予測しようとする検査法で、子宮がんの検診で、「子宮頸部異形成」の「軽度」「中等度」と診断された人を対象としています。
現在、先進医療としてHPV–DNA診断を実施している医療施設は、がん研有明病院、神奈川県立がんセンター、徳島大学病院の3カ所。がん研有明病院では癌研病院時代の2001年3月1日、当時の高度先進医療としてHPV–DNA診断を実施することが承認され、同年から2004年まで計287件、年平均71.8件が行われています(表1)。
年 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
実施件数 | 68 | 77 | 58 | 84 | 287 |
さて、HPV–DNA診断の内容に入る前に、HPVと子宮頸部異形成とは何かについて少し説明しましょう。
1970年代後半、子宮頸がんの組織からHPVのDNAが検出されたことから研究が進み、子宮がんの原因は、HPVの感染であることがわかってきました。HPVは人間の皮膚や粘膜に乳頭腫(イボ)をつくるウイルスです。人間で言えば人種に相当する型があり、現在では100種類以上のHPVの型が確認されています。
このHPVの型によって、引き起こされる病気に違いがあります。子宮頸がんの場合、16型、18型などが見つかる割合が高くなっています。また、6型や11型はコンジローマと呼ばれ、外陰部や腟、子宮頸部の良性のイボから見つかることが多く、子宮頸がんから見つかることはきわめて稀とされています。
そこで、子宮頸がん組織から検出されるHPVの割合から、危険性が分類されています(表2)。最も危険性が高いのは16型と18型、次いで31型、32型、33型、52型、58型となります。このうち52型と58型は日本の子宮頸がんでは多く見られますが、欧米では少なくなっています。また、18型は子宮頸がんでも腺がんに多く、扁平上皮がんではほとんど検出されません。
高危険型 | 16型 | 18型(腺がん) | |||
---|---|---|---|---|---|
中危険型 | 31型 | 32型 | 33型 | 52型 | 58型 |
低危険型 | その他の型 |
子宮頸部上皮内部病変の組織分類
軽度 : 異型細胞が上皮の下層1/3にとどまる
中等度 : 異型細胞が上皮の下層2/3にとどまる
高度 : 異型細胞が上皮の表層1/3に及ぶ
ところで、子宮頸がんの発症については、(1)正常上皮から直接発生、(2)正常上皮から子宮頸部異形成という段階を経て発生、という2つの様式があると考えられています(*注2)。この2番目の説にある子宮頸部異形成とは前がん病変で、細胞や組織の異常の程度から軽度、中等度、高度に分けられます(右表参照)。
高度異形成の細胞はがん化する可能性があることや、すでに早期のがんが隠れている可能性があるので、外科的な治療を行うことが多いのですが、軽度および中等度異形成の場合、治療はせずに経過観察を行うのが一般的です。
なぜなら、異形成のすべてががんになるわけではないからです。軽度・中等度異形成の場合、がんになるのはせいぜい5パーセントであり、残りのほとんどは治療しなくても自然に消失し、治ってしまいます。そのため、すぐに治療する必要はなく、経過観察すべきと考えられているのです。異形成が進行したり、がん化したときに、治療すればよいことになります。
「子宮頸部異形成とHPVの関係を調べると、異形成の組織からも高い割合でHPVが検出されています。さらに、私たちの研究で、異形成組織から見つかるHPVの型によって、がんへの進行や増悪する危険性が異なることもわかってきました。
そこで、病変中のHPVの型を調べることで、将来への危険性を予測できないか、試みているのがこの検査です」と、同病院の顧問・荷見勝彦さんは語ります。
*注1 子宮頸がんは、大きく扁平上皮がんと腺がんに分けられます。かつて扁平上皮がんが大部分を占めていましたが、近年、腺がんが増加傾向にあります。本稿では主に扁平上皮がんを取り扱っているため、とくに断りがなく「子宮頸がん」とした場合は扁平上皮がんを指すことにします
*注2 腺がんの場合も、腺異形成という状態が前がん病変ではないかと疑われていますが、詳しいことはわかっていません
同じカテゴリーの最新記事
- 有効な分子標的治療を逸しないために! 切除不能進行・再発胃がんに「バイオマーカー検査の手引き」登場
- 正確な診断には遺伝子パネル検査が必須! 遺伝子情報による分類・診断で大きく変わった脳腫瘍
- 高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!
- がんゲノム医療をじょうずに受けるために 知っておきたいがん遺伝子パネル検査のこと
- AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す
- 「尾道方式」でアプローチ! 病診連携と超音波内視鏡を駆使して膵がん早期発見をめざす横浜
- 重要な認定遺伝カウンセラーの役割 がんゲノム医療がますます重要に
- 大腸のAI内視鏡画像診断が進化中! 大腸がん診断がより確実に
- 「遺伝子パネル検査」をいつ行うかも重要 NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに2剤目ヴァイトラックビ
- 血液検査で「前がん状態」のチェックが可能に⁉ ――KK-LC-1ワクチン開発も視野に