患者のためのがんの薬辞典
ヴォトリエント(一般名:パゾパニブ)
悪性軟部腫瘍の治療に新たに加わった期待の分子標的薬
悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)に対する新たな薬剤が、2012年の9月に厚生労働省から承認されました。分子標的薬のヴォトリエントです。国内に3000人という希少ながんですが、国際的な多施設共同臨床試験が行われ、米国では2012年4月に、欧州では8月に、化学療法の治療歴のある進行性悪性軟部腫瘍の患者さんに対して認可されました。
手術ができない場合の治療に期待の新薬
悪性軟部腫瘍は筋肉や血管、脂肪などの軟らかい組織(軟部組織*)にできる悪性腫瘍で、その種類は、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、滑膜肉腫など、50種類以上があります。
この病気の患者さんは現在、国内に約3000人います。毎年新たに約2000人が罹患しますが、乳がんや肺がんなどに比べ希少ながんです。およそ半数が再発し、治癒することが難しいがんに位置づけられます。
治療は、手術でがんを取り除くことが基本です。手術ができない場合などに、放射線治療や抗がん薬治療が行われます。これまで、抗がん薬治療ではアドリアシン*とイホマイド*による治療が行われていましたが、今回新たに分子標的薬ヴォトリエントが加わりました。
ヴォトリエントは悪性軟部腫瘍全般に対して使われますが、脂肪肉腫や子どもに多く発生する横紋筋肉腫など、一部には有効性と安全性のデータがないものもあります。また、ほかの抗がん薬治療を受けていない段階でのヴォトリエントの使用に関しても、有効性と安全性のデータがないため、ヴォトリエントは原則としてアドリアシンとイホマイドの治療が終わった後に使われる薬剤となります。
臨床試験では、治療後にがんの進行が見られた転移のある悪性軟部腫瘍の患者さんについて、ヴォトリエントを投与した群とプラセボ(薬効のない偽薬)群を比較しました。その結果、無増悪生存期間(がんが進行しない期間)は、ヴォトリエント群のほうが、プラセボ群より3カ月間長くなりました。つまり、がんの進行を3カ月間遅らせることができたのです(図1)。
*軟部組織=臓器(肺や肝臓など)、骨、皮膚を除いた筋肉、結合組織(腱)、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経などをさす
*アドリアシン=一般名ドキソルビシン
*イホマイド=一般名イホスファミド
がんの進行を遅らせる
ヴォトリエントは、2つの働きによってがんの進行を抑えます。
1つは、がん細胞の増殖を抑える働きです。ヴォトリエントががん細胞の増殖にかかわる特定のタンパク質に働きかけ、がん細胞を増殖させる信号が送られるのを遮断します。
もう1つは、がん細胞に栄養を送る血管が作られなくする働きです。がんは、新しい血管を作ってがん細胞が大きくなるための栄養を血液から得ようとします。ヴォトリエントはこの新しい血管が作られるのを抑えるのです。
服薬記録をつけて1日1回服用する
月/日 | 月/日 | 月/日 | ||
服用錠数 | ヴォトリエント | |||
血圧 | 最高血圧 | |||
最低血圧 | ||||
脈拍 | ||||
気になる症状 | 下痢(回数) | |||
吐き気や嘔吐 | ||||
食欲不振 | ||||
疲労感(日常生活に影響のある) | ||||
皮膚や髪の変化 | ||||
胸の痛みや動悸 | ||||
鼻血や出血 | ||||
そのほか |
従来の治療であるアドリアシンとイホマイドは注射剤であり、入院を要します。これに対しヴォトリエントは、経口剤(飲み薬)なので、外来通院で治療を受けることができます。
ヴォトリエントは1日1回、200mgの錠剤4錠を服用します。薬を飲む時間は、食事の1時間前までと食事の2時間後までの服用を避ける以外は、とくに制約はありません。ただし、患者さんの生活に合わせて、毎日の服用がだいたい同じような時間帯になるようにすることが大切です。そうすることで、ヴォトリエントの血中濃度が一定の範囲内を保ち、効果が持続するためです。
主な副作用には、高血圧、肝機能障害、下痢、疲労、毛髪の変色などがあります。
とくに注意が必要な副作用は高血圧と肝機能障害です。血圧に関しては、患者さん自身が毎日計って記録することが大切です。市販の血圧測定器などを使って測り、大きな変化があれば病院に連絡します。
肝機能に関しては、外来で受診した際に血液検査を受け、数値を確認します。
ヴォトリエントの治療を受ける人には通常、「服用する患者さんへ」と題した冊子が渡されます。この冊子についている「服薬記録」で服用状況、血圧、下痢、疲労感などをチェックするとよいでしょう。
副作用が出た場合などは、医師の指導のもと、服用量を減らしたり、服用をいったん中断したりします。
専門医のいる施設で処方を
悪性軟部腫瘍の治療は、主に整形外科、婦人科、泌尿器科で行われます。ただし、専門医は少なく、ヴォトリエントを処方できる医療施設も、全国のがんセンターや大学病院などに限られます。また、新しい薬剤であるため副作用が出たときの対処などを考えると、これまでに治験などを通して、ヴォトリエントを使用してきた実績のある施設で治療を受けるのが望ましいといえます。
ヴォトリエントは長期間服用する薬剤で、治療費は高額になるため、高額療養費制度の適用になります。手続きをすると自己負担限度額を超えた分が、公的医療保険組合から払い戻されます。
ヴォトリエントは他のがんへの効果が期待されています。現在、腎細胞がん、卵巣がんの治療と腎細胞がんの再発予防の臨床試験が行われています。
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