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キイトルーダ登場前の時代との比較データから確認 進行性尿路上皮がんの予後が大幅に延長!

監修●田口 慧 東京大学医学部泌尿器科学教室講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年5月
更新:2023年5月

  

「現在治療中の進行性尿路上皮がん患者さんは、キイトルーダはもちろん、バベンチオやパドセブといった新規薬剤の治療を受けることができます。これから数年後のデータでは、生存期間がさらに延長していることが期待されます」と語る田口さん

進行性尿路上皮がんの治療は、2017年にキイトルーダが使用できるようになって大きく変わりました。キイトルーダがなかった〝旧時代〟と、キイトルーダが使えるようになった〝新時代〟の治療成績を比較した研究によって、新時代の患者さんの生存期間が延長していること、とくにキイトルーダを使用した人の生存期間が延長していることが明らかになりました。大規模多施設の実臨床データを分析した東京大学医学部泌尿器科学教室講師の田口慧さんに伺いました。

30年ぶりに進歩した進行性尿路上皮がんの治療

まず尿路上皮がんについ簡単に説明しておきましょう。尿路とは、腎臓で作られた尿が、排泄されるために通る通路のことです。腎臓で作られた尿が集められる腎盂(じんう)、その尿を膀胱まで運ぶ尿管、尿をいったんためておく膀胱、そこから出た尿が排泄されるまでに通る尿道。これらを総称して尿路といいます。

尿路上皮がんは、尿路を裏打ちしている尿路上皮の粘膜から発生するがんの総称です。腎盂の粘膜から発生すれば腎盂がん、尿管の粘膜から発生すれば尿管がん、膀胱の粘膜から発生すれば膀胱がん、尿道の粘膜から発生すれば尿道がんと呼ばれます。東京大学医学部泌尿器科学教室講師の田口慧さんによれば、最も多いのは膀胱がんで、尿路上皮がんの9割以上を占めていると言います。

「尿路上皮がんは喫煙者に多いのですが、それは発がん性をもつ代謝産物が尿中に出てくるためです。腎盂、尿管、尿道は尿が流れて行くだけですが、膀胱は尿を溜めておくので、粘膜が発がん物質に曝露される時間が長くなります。そのため、膀胱でとくにがんが発生しやすいのだと考えられます」(田口さん)

尿路上皮がんが他の臓器に転移したり、腹壁や骨盤壁まで達したりしている場合に、進行性尿路上皮がん(aUC:Advanced Urothelial Carcinoma)と診断されます。進行性尿路上皮がんに対して行われる治療は主に薬物療法になります。

1次治療として行われるのはプラチナ製剤を含む併用化学療法で、MVAC療法(メトトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン併用療法)、GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン併用療法)、4週サイクルのMVAC療法を、治療効果を高めるために2週サイクルで行うddMVAC療法などがあります。

「プラチナ製剤をベースとする併用化学療法が行われるようになったのは1980年代です。多くの場合、治療を開始した当初は効くのですが、いずれ効かなくなります。すると、もはや有効な2次治療の選択肢がない、という時代でした。それが30年ほど続いたのです。その頃の進行性尿路上皮がんの生存期間中央値は11~15カ月。1年ほどで亡くなっていく人が多かったのです。こうした時代が続いた後、進行性尿路上皮がんの治療は、免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)の登場により新たな時代を迎えました。本邦では2017年12月から、キイトルーダが保険診療で使えるようになりました」(田口さん)

1次治療が効かなくなった後、2次治療にキイトルーダを使用できるようになったことで、進行性尿路上皮がんの治療戦略は大きく変化することになりました。

キイトルーダの登場で生存期間が大幅に延長

キイトルーダの登場で、進行性尿路上皮がん患者さんの生存期間が明らかに延びました。多くの研究によって、キイトルーダによる2次治療を開始してからの生命予後が1年程度であることが明らかになっています。こうした状況を背景に、田口さんらによって大規模な多施設後ろ向き研究が行われました。

「キイトルーダが使えるようになって約5年が経過したので、キイトルーダがなかった時代の進行性尿路上皮がん患者さんの予後と、最近の患者さんの予後を比較する研究を行ないました。進行性尿路上皮がんと診断がついて、1次治療を開始する時点からの予後を比較する研究です」(田口さん)

対象となったのは、計10施設で治療を受けた進行性尿路上皮がん患者さん531人です。最近の5年間(2016年~2020年)の新時代が331人、キイトルーダ登場以前(2003年~2011年)の旧時代が200人です。新時代は7施設の患者さん、旧時代は5施設の患者さんが含まれています。重複する施設もあるため、全体では10施設の患者さんのデータが集められました。

新時代と旧時代のデータを比較したわけですが、単純に全体を比較するのではなく、傾向スコアマッチング法(PSM:Propensity Score Matching)という方法を使って比較しました。患者さんの背景をなるべく揃え、バイアスを減らして比較する方法です。

「前向きの試験であれば、患者さんの背景が揃うように無作為に2群に割り付けて比較することができます。しかし、今回のように旧時代と新時代を比較するというような場合には、どうしても患者さんの背景に差が生じてしまいます。患者さんの年齢、性別、合併症などの他、尿路上皮がんですから、膀胱がんなのか腎盂がんや尿路がんなのかといった原発巣の内訳なども重要です。そうした患者さんの背景をなるべく揃えた2群を作って比較するのが、傾向スコアマッチングという方法です。なるべくバイアスを減らし、信頼できる結果を導き出すための方法と言っていいでしょう」(田口さん)

対象者は新時代が331人、旧時代が200人でしたが、傾向スコアマッチング法によって、新時代から169人、旧時代からも169人が抽出されました。こうしてできた新時代群と旧時代群は、患者背景がほぼ揃った2群となっています。これらを比較した結果は、図1に示した通りです。

「がん特異生存率(CSS:Cancer-Specific Survival)は尿路上皮がんで死亡した人をカウントした生存率で、全生存(OS:Overall Survival)はすべての死因による死亡をカウントした生存率です。進行性尿路上皮がんの場合、そのがんで亡くなる方がほとんどなので、両者に大きな差は出ないことが多いです」(田口さん)

CSSの中央値は、旧時代が12カ月なのに対し、新時代は21カ月でした。9カ月延長していることになります。OSの中央値は、旧時代が12カ月、新時代が19カ月で、7カ月延長していました。

「2017年にキイトルーダを使うようになってから、みるみる予後が改善していくのを目の当たりにしてきたので、この結果はそれほど意外ではありませんでした」(田口さん)

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