皮膚がんと日光
日焼けが皮膚がんを招くのは確実か?

文:諏訪邦夫(帝京大学幡ヶ谷キャンパス)
発行:2010年10月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

今年は梅雨明けと同時に猛暑となり、強い日差しが照りつけました。そこで、皮膚がんと日光・紫外線の関係を思いついて調査してみました。日光、あるいは紫外線が皮膚に悪いことは、一般的にも知られていますが、調査の結果でもこの点が強調されていました。

イボやタコと思ったら実は皮膚がん?

この問題については、優れた記事が2つありました。1つ目は愛知県医師会が開催した講演会で、名古屋大学臨床教授でもある社会保険中京病院の臼井俊和さんのもの。

わかりやすい記事で、最初に、皮膚の病気は外から見えるので早期発見・早期治療しやすく、診療による副作用・合併症は少ないため、ぜひ早期に専門医の診療を受けるようにと述べています。

ついで、皮膚がんの代表的な原因として、日光(紫外線)・慢性刺激・瘢痕(キズ跡)・ある種のアザ・ヒ素といった化学物質などを挙げ、とくに、日光(紫外線)の影響は、高齢者では時間の経過とともに累積している可能性が高いとしています。

予防としては日焼けを防ぐのが重要。皮膚がんを防ぐために、若いころから紫外線対策をしておくことが大切で、サンスクリーン(日焼け止めクリーム)と長袖・帽子の使用を勧めています。「シミ、ホクロ、イボ、タコ、できものと思っているものの中にも時々、皮膚がんが混じっている」と述べ、とくに注意すべき点として「最近急に大きくなった・ジクジクとして出血するようになった・周囲に色がにじみ出してきた・痛みや痒みを感じるようになった・色の濃いところと薄いところが混ざってきた」といった変化に注意を促しています。

さらに、「自分で削ったり、ほじったりすること・軽石などでゴシゴシとこすること・線香などで焼いてしまうこと・安易にレーザーで焼くこと・吸い出しや自家療法ですますこと」などを、「自分でしてはいけないこと」として厳禁しています。

米国立がん研究所による皮膚がんの分類

優れた記事の2つ目は、米国立がん研究所の記事を日本の国際医学情報センターが翻訳紹介しているもの

分量は愛知県医師会の記事の4倍以上ありますが、内容の大筋はほぼ共通です。その中で少し専門的ですが、分類が明快なので紹介します。それによると、表皮は次の3種類の細胞から構成されています。

1. 有棘細胞:表皮の最上層を形成する薄く平坦な細胞。

2. 基底細胞:有棘細胞の下にみられる円形細胞。

3. メラノサイト:表皮より下部にみられる細胞で、皮膚に自然な色調を与える色素であるメラニンを生成する。皮膚が日光を浴びるとメラノサイトの生成が増加し、皮膚は褐色になる。

これら3種類の細胞からがんが発生すると述べています。この点を愛知県医師会の記事と関連付けると、以下のようになります。

(1)有棘細胞がん:有棘細胞から生じる。転移することもあるやや悪性のがん。切除後に抗がん剤などを使用することもある。

(2)基底細胞がん:基底細胞から生じる。発生の頻度が最も高く、転移はまれなので原則、切除後は抗がん剤を使用しない。

(3)メラノーマ:メラノサイトから生じる。最もたちの悪いがん。

日光角化症という特殊な前がん状態

がんに至る前の「前がん状態」が、皮膚にはいくつか知られていますが、頻度の高いものとして「日光角化症という特殊な前がん状態」があり、その症例に対する興味深い質疑応答の記事を紹介します。

93歳の祖父に関する質問で、「日光角化症と診断されて、これががんの1歩前と言われたがどうすべきか」という内容。久留米大学の橋本隆さんが回答を担当しています。

日光角化症は、老人性角化症とも呼ばれ、顕微鏡検査で有棘細胞がんが表皮内に限局している病変。一応、「がん」だが、極端に限局されているので、がんとしては扱わないようです。長期にわたる日光の曝露によって、表皮が悪性腫瘍化することで起こります。

したがって、日光の当たる顔面・頭部(脱毛部)・手背(手の甲)・前腕に生じやすく、また、職業的には屋外作業従事者に生じやすく、地域では日差しの強い南日本に発生頻度が高いとしています。幸い、有色人種では白色人種よりは発生頻度が低いと判明しているそうです。

単発も多発もあり、似た病変もあるので、皮膚の一部を切り取って、顕微鏡による検査を行います。これを「生検」といいます。通常は悪性化しませんが、「長期に放置すると悪性細胞が真皮内に侵入して増殖し、有棘細胞がんになることがある」と述べています。

治療は、病巣とその周辺2?5ミリを早期に全切除するのが有効で、こうした治療ですむところが、この病気が「がん」と見なされないゆえんと解釈できるでしょう。もっとも、何らかの理由で切除が不可能な場合、抗腫瘍剤軟膏の外用や液体窒素による冷凍療法なども行い、明確に有棘細胞がんに変化している場合は、がんとしてやや広範に治療すると述べています。

この患者さんの場合、年齢から見て、今後の成長の速度、悪性化の可能性などが気になる点ですが、それについては評価を加えていません。元来、数があまり多くない病気なので、評価するデータがないのかもしれません。そもそも、93歳という高齢者を対象とする医療では、どんな病気の場合でもデータが基本的に乏しいのです。

白人と日本人の差

米国立がん研究所の記事に、ほかにない記述があって興味深く感じたので、その部分を紹介します。それは皮膚がんのリスク因子として「色白、ブロンドまたは赤毛、白い肌、緑または青い瞳、そばかすの既往など」を挙げている部分。

「赤毛、緑または青い瞳」は日本人にはごく珍しいでしょうが、色白やそばかすは日本人でも珍しくはないので、考慮に値するかもしれません。もっとも、色白の方は日光に当たると赤く腫れてつらいとか、そばかすのある方も日光で増えるとかいったことは、先刻ご承知かもしれません。むしろ、こういう変化がなぜ皮膚がんの発生に関係するのか、遺伝子レベルで判明しているのか、といった点に興味を惹かれますが、それは学問的に過ぎるでしょう。

ともあれ、予想通り、皮膚に対する日光と紫外線の害は見つかりました。救いがあるとすれば、この害は蓄積性が大きく、ひと夏の紫外線で皮膚がんがすぐに生じるというものではなくて、1度は日焼けしても以後、気をつければ危険はかなり減らせる点です。そういえば、一部のプールでは、日焼け止めクリームやローションの使用を禁止していますが、水質を維持するためには仕方ないとしても、皮膚がんの予防の観点からは対応が難しいところです。

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