多発性骨髄腫
闘病記、サリドマイド使用ガイドラインなどを参考に

文:諏訪邦夫(帝京大学八王子キャンパス)
発行:2006年9月
更新:2013年4月

  

すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。

検索にかかった順序に

この病気をインターネットで調べると、比較的わかりやすい検索結果が並びました。検索サイト「Google」でこの病名で検索して最初に登場したのが「多発骨髄腫について」という記事で、この方の父上がこの病気で闘病中の由です。「おろおろするばかり、泣いてばかりの日々」と書いていらっしゃいますが、どうしてどうして。この病気の概念・病期・症状・治療などをしっかりと把握されて、ご自分の体験を語りながら病気の解説も見事で、医師の私が読んでも、内容の充実度に敬服します。

2番目が国立がん研究センターの頁です。さすがに詳細で文量も最初のものの数倍あり、なおかつ比較的親しみやすい文章で書いてあります。

多発性骨髄腫を調べようとすると、「形質細胞」という用語にすぐ遭遇します。白血球の一種のリンパ球のそのまた一種で、あまりなじみはありませんが、免疫抗体を産生する重要な細胞で、多発性骨髄腫はこの細胞の異常によって起こる病気です。

国立がん研究センターの解説は明快で、「多発性骨髄腫は文字通り多発なので、どこに発するかで症状が異なる」、「速度や性質の悪さなどもいろいろ」、「経過・治療・予後もいろいろ」などと「多彩性」を強調しています。とはいっても、もちろんそれらに共通する特徴はあって、それを丁寧に記述しています。

たとえば、骨の痛み、だるい(倦怠感)、めまい、動悸、頭痛、出血しやすくなる、食飲不振、体重減少、むくみ、身長が低くなる、などです。

サリドマイドの使用など

サリドマイドは1960年前後に、「つわりを抑える」薬物として使われて、胎児に四肢の奇形を発生させて禁止された薬物です。ところが、そのサリドマイドが多発性骨髄腫の治療薬としてある程度有効と判明して、外国では使われています。

日本ではまだ公式な使用は認められておらず、当然健康保険の適用もありません。しかし、外国から輸入して使用する方はいるので、その使用に関するガイドラインを厚生労働省が発表しています。

ガイドラインは、40頁以上におよぶ膨大なもので、内容は管理やインフォームド・コンセント・ガイドラインの見直しの可能性など詳細です(ページ下部よりPDFファイルをダウンロードできます)。

また、冒頭に「サリドマイド被害者からのメッセージ」として、「自分たちの苦しみは大きいが、この薬物で救われる人々に使われるのを否定しない」といった内容の文章が掲載されています。ガイドラインとしては異例のスタイルですが、薬物の歴史と性格からみて、妥当で正しい処置と感じます。

なお、サリドマイドはある種の多発性骨髄腫に有効なことがあるものの、「多発性骨髄腫の特効薬ではない」ことを念のために述べておきます。

各施設、企業による解説

4つ目が「病気の話・病気辞典・病気」の中の「多発性骨髄腫」の解説です。国立がん研究センターのものとくらべると簡単で要領のよい解説ですが、ボリュームとしては、若干少なめな印象を受けます。通常では、こういう簡単な解説が先に検索される場合が少なくないのですが、今回は最初の記事が一種の体験談でありながら病気の優れた解説も兼ねていたという特殊な状況です。

その次に、旭化成クラレメディカルの「多発性骨髄腫」の記事が検索されました。会社の記事はコマーシャル臭が強い場合も稀れではありませんが、この記事はふつうの病気の解説です。よく探したら、この会社は血漿交換療法などで透析関係の機材を製造販売しているようです。しかし、特別に我田引水の様子はなくて好感を抱きました。

次の国際医学情報センターの記事も一見平凡かと思いましたが、実はほかの記事にはないことがいくつか書いてあります。

1つは、サリドマイドの有効性に関して、「サリドマイドは固形腫瘍内における新しい血管の成長を抑える」とメカニズムを明確にしている点、2つ目は「モノクローナル抗体療法」を詳しく説明している点、3つ目は幹細胞移植のこともかなり詳しく説明している点です。

「幹細胞移植」の説明は、国立がん研究センターの解説にも載ってはいますが、多発性骨髄腫の項ではあまり取り上げていません。もっとも、この治療は多発性骨髄腫だけでなく、頻度の高い白血病などにも多用されるので、それを検索語として調べると膨大な情報が出てきます。

1つだけ注文を。国際医学情報センターの記事は、米国国立がん研究所の記事の翻訳なので、当然原文の質は高いのですが、記事の書き方で気になった点があります。翻訳文に「読ませる」意識が乏しくて読みにくい点、項目の立て方やパラグラフの切り方などが不自然な点です。せめて、原文にジャンプできるようにタグをつけて下さるとありがたいと感じます。

その他一般的なこと

次が「メルクマニュアル家庭版」です。ここにも、新しい点が3つほど見つかりました。1つは遺伝の問題で、この記事は「遺伝性の発生が知られている」と明言しています。

2つ目は、「正常な骨髄細胞では、形質細胞の占める割合は1パーセント未満ですが、多発性骨髄腫では、概して骨髄の大部分が悪性の形質細胞」との記述で、「骨髄細胞の中で形質細胞の占める比率」を明確に述べています。3つ目は、「多発性骨髄腫は最終的に死に至る病気で、終末期のケアについて主治医や家族・友人を交えて話し合っておくことが大切」と明確にしています。悪性腫瘍一般に言えることですが、多発性骨髄腫の場合も突然意思決定ができなくなる危険がある意味で、重要な心構えと感じます。

この病気をタイトルにした書籍があります。内容は見ていませんが、わずか120頁ほどですが、値段は5千円以上もします。医師向けにしてもひどく高価で驚きました。医師向けの図書は一般書より高価ですが、この本はさらに高価です。インターネットのない時代なら購入したかも知れず、インターネットのありがたみを痛感します。

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