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精巣がん
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すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
癌研有明病院と国立がん研究センターの解説
この病気に関する一般的な解説は、優秀なものが2つあります。 癌研有明病院のものと国立がん研究センターのものです。
まず、この2つの記事に眼を通して分かったことを簡単に書きます。今は「睾丸」という用語は使用せずに「精巣」と呼ぶことが多くなっています。「睾」の字は、この用語だけに使う難しい字で不便ですし「睾丸」は形体を表現する印象が強いのに対して、「精巣」は形体よりは役割をしっかり表現しているので妥当な変更で、女性の「卵巣」とも対応しています。
精巣がん(悪性精巣腫瘍)には、セミノーマとそれ以外のもの(非セミノーマ)があり、両者は放射線治療への反応が違うので鑑別が重要ですが、この点は手術標本で容易に可能なようです。頻度は低く、10万人にせいぜい2、3人程度で、10万人に1人と書いてある記事もあります。
他の病気と比較すると、まず手術できる段階なら絶対に手術する点が特徴ですが、この点は精巣が2つあって1つ除去しても機能的な障害はほとんど発生しない点も関係します。また、診断がついてから手術に進む手順が簡単明瞭で、時間的に短いのも特徴です。さらに、転移を起こしやすいけれど、病気としての性質は必ずしも悪くありません。
2つの大施設の解説はいずれも充実していて、概論・症状・診断・病期分類とそれによる治療の対応・治療の副作用などを詳しく説明しています。癌研の記事には、予後を自施設の成績とからめて書いてある点が国立がん研究センターの記事と違うでしょうか。
それから、もう1つ国立がん研究センターの記事は「精巣腫瘍」をキーワードとすればすぐにたどり着けますが、「精巣がん」と入れたのでは出てこない点に注意が必要です。一方、「睾丸」という用語を国立がん研究センターの記事は括弧に入れて残していますが、癌研のそれには一切登場しません。どうでも良いことかも知れませんが、執筆者の感覚の違いなのでしょう。
2つの施設以外に、検索で岸田健さんという方の解説がみつかりました。文量は、上の2つの施設の解説の数分の1と簡単ながら、とても要領のいい説明です。
精巣腫瘍関連リンク集
「精巣腫瘍関連リンク集、精巣腫瘍体験者の独り言」というタイトルの頁があります。これは充実して素晴らしい記事です。タイトルから、ご自身がこの病気の経験者のようです。
まず「精巣腫瘍の基本的知識」として、上に挙げた2つの施設の解説を紹介し、さらにアメリカの National Cancer Institute-Testicular Cancer Treatment(Patient Version)など、英語のサイトも含めて紹介しています。
日本放射線科専門医会の放射線腫瘍学を専門とするワーキンググループの「放射線治療計画ガイドライン・2004泌尿器:精巣腫瘍」を紹介して、これが、EBM(Evidence-based Medicine:「実証医療」)の手法に準じて作られているから目を通そう、と述べます。次に、難治性精巣腫瘍に対する救済療法を紹介し、また金沢大学医学部付属病院看護部が発表している精巣腫瘍患者の標準看護計画に触れます。
さらに、ここから「がん一般」の情報として、国立がん研究センター、癌研有明病院、National Cancer Institute (アメリカ)「メルクマニュアル第17版日本語版」、大阪府立成人病センター調査部の味木和喜子さんによる「がん統計の歩き方」などを紹介しています。
話はさらに進んで医師を対象とした医学文献データベースであるPubMed (英語)、がんの中心的雑誌である”Journal of Clinical Oncology”を紹介し、次に抗がん剤の特徴と副作用を詳しく説明しているサイト(これは日本語)をいくつか紹介、ついで医療情報の利用の仕方に関して「インターネット上の医療情報の利用の手引き」や「健康情報の読み方」を紹介しています。
最後に、「補完代替療法」というタイトルで、健康食品の安全性・有効性情報の使い方、フラワーエッセンスを使う方法、精神面の問題と闘病の仲間との連携などに触れています。
これまで、インターネットの頁をいろいろと眺めましたが、これほど多方面で徹底的な記事に触れたのは私はおそらく初めてです。”Terra”とだけ署名がある作者のバックグラウンドは不明ですが、驚嘆感心させられました。
精巣がん闘病記
精巣がん闘病記のサイトがあります。ここには、見出し的に「○○の精巣ガン体験記」とか「△△のホームページ」というような短い紹介記事がいくつか載っていて、そこから個々の詳細な体験記にジャンプできます。
精巣がんは若い人に多い病気なので、通常のがん体験記とはニュアンスが少し違います。それで、こんな記事がありました。
親は見舞いにくる際に食べ物を店で買ってくるが、それは病院の売店でも手に入る。しかし、恋人の親は手作りで炊き込み御飯やお稲荷さんを作ってくれて食べる気になった。だから「ご家族の方でお見舞いにほぼ毎日いかれる方がいらっしゃったら、ぜひ買ったものでなく作ってあげて下さい」と述べています。
その他、闘病の中での率直な気持ちが綴られています。嬉しかった温かいふれあい、職場とのあつれき、駅で他人よりゆっくり歩かざるをえなかったり、ぶつかることの怖さを述べた通勤のつらさの訴え(高齢者の私は日常行為でよく理解できます)など。
また、自宅にいても会社からいろいろと電話がかかって療養にならない、いっそのこと出勤したほうが楽かと思ったりもするという気持ち、それから摘出したものがものだけに肉体的だけでなく精神的にも落ち込む要素となるということなど、細かな記述があります。そうして最後に手術後に無事お子様ができたことを喜んでいらっしゃる表現など、すべて実に真実味に溢れた文章でした。
ところで、友人の次男は手術を受けて半年近く経過し、今は会社復帰して元気に勤務している由です。