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がん体験記、患者の声
厚労省研究班のがん患者調査が充実した内容
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
診断の名医と治療の名医と
個々の体験記とは別ですが、静岡がんセンターの頁に掲載している素晴らしい調査をまず紹介します。これは、厚生労働省の研究班によるアンケート調査で、外来を受診しているがん患者など、7000人を超える患者さんから詳細な情報を得ています。
内容は、●単純な性・年齢に始まって、●何のがんか(臓器の種類)、●転移の有無と場所、治療の種類(手術、薬物療法、放射線治療)、●現在の日常生活状況(「以前とまったく同様に活動できる」から「身の回りのこともできず、常に人の助けが必要で、1日中横になっている」までの6段階)、●悩んだ事柄(身体的苦痛、精神面、社会面、経済面、●今後の生き方・生きる意味など)、そうした悩みを相談したかどうか、相談した相手は誰か、相談の結果(悩みが軽減したか否か、相手によっても異なる)、●そうした悩みを和らげる手段へのサジェスチョン(医療者との関係や心のケアなどの他、同病者との交流・患者会、宗教など)を訊いています。
アンケートを読む際の注意として、調査した側からいくつかの注意点が指摘されています。
対象が外来受診者である故に、「がんにかかる人の数を示すのではなくて、現在、社会で暮らすがん体験者の数に類似したパターンである」
この指摘は、簡単に言えばこういうことです。たとえば、本調査では乳がん患者が一番多くて25パーセント近くいますが、それは乳がんの発生率がそれほど高いことを示すものではありません。むしろ、乳がん患者は発見後も治療がうまくいき、比較的元気な状態を維持できるので、調査対象になる例が多いからで、「発生数は多くても、死亡率の高い病気の患者は調査対象になる例が少ないから、この調査では少なく出る」とも解釈できます。
似たようなことが年齢に関しても言えそうです。データでは40代が15パーセント、50代26パーセント、60代30パーセントと最高値に達した後、70代で18パーセントに、80代で1.6パーセントと急減します。この点も、80代になるとがんが減るのではなくて外来診療を熱心に受けなくなったり、あるいはアンケートに熱心に答えなくなるという要素も無視できないのではないかとも推測できます。
このアンケートでは、転移がどこにあるかに関しても質問していますが、これについても「この調査が正確な情報であるためには『告知』が基礎として必要だが、転移については一部に告知のなされていない可能性がある」という記述があります。
このように、いろいろと興味深いデータではありますが、パーセントのような数値や比率を検討する際は、前記のような要因を考慮するのが必要でしょう。それにしても素晴らしい調査と分析で、アンケートに答えて下さった患者さんを含めて、当事者の方々に感謝と敬意を獻げます。
がん体験記サイトのリンク集
一般的な「がん体験記」としては、個別的な「体験記」や「闘病記」はいろいろとあり、それぞれ興味を惹かれますが、その中でやや幅の広い情報を示すものとして、「モモの日記帳」という個人サイトを紹介します。
肺がんの患者さんの闘病記ですが、このサイト内の「リンク集」で、他の体験記の頁がいくつかリンクされています。その他に各種のホームページ、食道発声法の問題、患者さんからの病院紹介、雑誌の紹介、インターネットの使い方の紹介、「末期肺ガンと診断されて、自分の方法で治すことに挑戦して成功したお話」などその他もろもろです。
内容は多彩で、明るい雰囲気と記事の性格から、気楽に読めるものになっています。しかし、書いている当人は大真面目で真剣ですから、この言い方は失礼かもしれません。
個人の体験記2つ
最後に個人の体験記を2つ紹介します。1つは中本雅子さんのもので、本誌にも「ヒーリング・コラム」にて文章を発表されており、ご存知の方がいらっしゃるかも知れません。「ごあいさつ」という頁ではじまり、美しい構成で文章も楽しい読み物です。ご自分の乳がんの体験から、ホームページを開設しメルマガを配布するにいたる経過を発表され、他にもいろいろに語っていらっしゃいます。
「がん体験」は1つの大事件ですが、この文章ではそれを深刻にしてしまわず勉強の機会・世界を広げる機会ととらえていらっしゃる、と推測します。先端的な学者や研究者が、大病をきっかけにまったく別の道や広い世の中に出て行く例がありますが、中本さんもそれに近いと私は勝手に推測しました。
もう1つは、「私のがん体験記」という田中哲男さんの頁で、「神奈川県川崎市に住む52歳の男性です云々」という宣言と、2葉の写真を拝見した時点では、正直なところちょっと怖気づきました。しかし、「勇を振るって」拝見してみると約40KB(原稿用紙で50枚弱)にも及ぶ内容の豊かな食道がん体験記です。「なぜ、HPを作ったのか」からはじまって、「がん発見から手術まで」、「大手術」、「4.5カ月もの入院生活」など14のテーマに分かれて読み応えがあり、ものによっては明快な回答をつけています。
たとえば「いくらお金がかかったのか」では、合計で180万円という数字を挙げ、細かい内訳を解説しています。治療については、「抗がん剤は始めてはみたが気に入らないので途中で中止した」と述べ、「痛みは全くありませんでした」が「胃カメラを飲む内視鏡検査は、苦しくとてもイヤ」と率直な思いを書いています。また、「何とか世の人の役に立ちたい」とホスピス病棟のボランティアとして活動し、看護師の仕事の大変さを理解して「尊敬するひと=看護婦さんになりました」と宣言し、「お見舞いは、何も語らず、ただそこにいてくれることが一番うれしかった」と明快に表現しています。
最後に「がん患者の方に」として「決して、あきらめないで下さい」と繰り返しています。 わかりにくい箇所もありますが、文章に迫力があり、考えることを一生懸命に表明しようとしている意志が伝わります。
体験記は、これまでにもいろいろと拝見してきましたが、今回は静岡がんセンターの報告書がデータとして面白く、それに最後の田中さんの文章にも圧倒されました。