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がんの化学療法 具体的な治療法の解説は少ない
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
がんの化学療法と細胞移植
キーワードとして「がんの化学療法」と「抗がん剤」を“AND”ではなくて“OR”でつなぎ、検索してみた結果、500ほどのサイトが検出されました。上位40ほどを眺めましたが、学会発表や論文などの特殊なものと広告の色彩の強いものとが多くて、一般的に使える情報は10くらいでした。
いろいろなサイトに抗がん剤の分類が書いてあり、内容もほぼ共通しています。
上位に出た島根県立中央病院血液免疫科部長吾郷浩厚さんの「がんの化学療法と細胞移植」は、内容が少しほかと異なり、しかもわかりやすい説明です。
症例中心の講義で、35歳の方に転移性肺がんが見つかったが原発巣が不明で、化学療法を採用し、その際に「(自家)造血幹細胞移植」を併用したと説明しています。この方法は、骨髄をあらかじめ採取保存して抗がん剤にさらされるのを防ぎながら薬を使い、がんをある程度コントロールして抗がん剤が必要なくなった時点で骨髄を体内に戻すやり方です。
文章は短くて、図表は効果を示すCT写真2枚と白血球数の経過と「造血幹細胞移植」の模式図でわかりやすいものでした。この患者さんはがんが一応消滅して数年元気にされている由で、これ以外にも20人ほどの患者を類似の方法で治療して好成績を得たと述べています。
次に検索されたのが、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の当該項目です。冒頭に「化学療法といった場合はがんの化学療法を指さす」という指摘があり、私のように古い世代の医師には新鮮に感じられました。感染性疾患に抗生物質を使うのは「感染症の化学療法」となっています。
「最新医学」という雑誌の増刊で、15ほどのテーマに関する解説の要約が画面で読めます。本来は雑誌の紹介ですが、要約は短いもので150字、長いものでは400字もあり、文章部分だけで合計5000字近くもあり、しかも個々の要約は要領よく書いてあり、元来医師向けの雑誌ですが、一般の方々にも十分に読めるでしょう。テーマはほとんどが個別の種類のがんで、脳・消化管・肺などの他に婦人科・泌尿器科・皮膚科などに広がりおよび、最後に胸水と心嚢水をテーマにしています。
大規模な解説2つ
大きな解説が2つ見つかりました。1つは「がんの化学療法とあなた」(http://www.asahi-net.or.jp/~tw3s-kmr/gan.htm)というタイトルで、アメリカがん研究所(NCI:National Cancer Institute)の出版物の翻訳で、1000行以上という大量の情報です。個々のがんや薬物の作用だけでなくて、がんによる症状や副作用をどうコントロールするかも説明して、患者を励ますトーンで書かれています。翻訳も上手でやわらかい表現を使っています。
これと似たもので、国立がん研究センターの「がんの薬物療法」があります。あまり上位に検出されなかったのは意外ですが、いつものとおり充実したがっちりした情報で、文量も前に挙げたNCIの解説にほぼ匹敵します。
教科書的、網羅的で眺めるだけでも大変でしたが、1つ気になったのが「無断転載禁」と書いてある点で、NCIのほうが「コピーも複製も自由」となっているのと対照的と感じました。そう思ってみる故かも知れませんが、NCIのほうは患者に向かって書いているのに対して国立がん研究センターのものはよく言えば科学的ですが、突き放した印象も受けます。
ここまではどの記事も一般的な解説に留まり、「相談したい医師や研究者の名前」は登場しません。具体的な担当医の名前を探したら、愛知県立がんセンターの血液・細胞療法部と薬物療法部の協力のものがみつかりました。ここは2人のチーフをはじめスタッフ全員の名前が出ており、その役割も簡単に紹介しています。
国会での論戦
こういう検索ではめずらしい例として、国会の論戦の記録がみつかりました。2003年夏に行われた衆議院議員仙谷由人さん(徳島1区、民主)の質問と小泉純一郎首相の答弁です。質問は「がん治療の改善」と題して、「世界標準治療薬の承認」とその保険適応、「抗がん剤適正使用ガイドライン」の公表を急ぐこと、化学療法(抗がん剤治療)の専門医師の養成の問題、省庁横断的ながん克服推進機関を設置すべき問題など5点をテーマとしています。
これに対する政府答弁は、「世界標準の治療薬」という考え方は確立されたものではないこと、保険診療は製造者からの申請があってはじめて可能となるので、保険診療と保険外診療を併用して保険外診療分の費用を患者に負担させるのは、医療の安全性からも患者負担の増大防止の観点からも認めないこと、ガイドラインは作成が済んで間もなく公表されること、専門医に関しては毎年100人を養成して数年で1000人を超える予定であること、特別ながん克服推進機関の設置は現時点では考慮していないこと、などを内容として回答しています。
当然すれ違いはみられ、答弁はお座なりではないとしても冷静すぎる印象も受けますが、不真面目ではありません。
すべての検索で最上位にきたのが、「災害に備えて―がんの化学療法を受けている人のために」(http://www.coe-cnas.jp/carepkg_cncr/B03-1_kagak_dstr_all.html)というサイトでした。兵庫県立大学看護学研究科が作成した13頁ほどのパンフレットで、がんの化学療法を受けている人たちが災害の際に困りそうな問題を具体的に10数項目挙げて解説しています。
内容は具体的で、患者の立場にたって書かれています。一部は「化学療法」の問題を超えて、たとえば災害時の人工肛門(ストーマ)のケアとか災害時の下痢・便秘の問題なども扱っていることはむしろ歓迎されるでしょう。
今回の検索結果は、一般的な学習には十分でしたが、たしかに「それで実際の治療は?」というと疑問です。具体的な解決策を示していたサイトは、島根の吾郷さんと愛知県立がんセンターのものだけです。特定の治療には、別のアプローチで検索する必要がありそうです。