アブラキサンとはどのような薬か
妻(56歳)のことでご相談します。昨年、乳がんを再発しましたが、効果を示す薬剤はもうないと主治医に言われました。妻はアルコールに過敏な体質で、飲酒できなく、タキソール(一般名パクリタキセル)は投与できないとも言われました。アルコールを含まない抗がん剤としてアブラキサンという抗がん剤が開発中であることをインターネットで知りました。この抗がん剤はどのような薬剤なのでしょうか。妻にも使えるでしょうか。なお、妻の閉経年齢は56歳、既往症には子宮筋腫があり、乳がんの治療として、ゼローダ(一般名カペシタビン)を服用中です。
(東京都 男性 58歳)
A タキソールの安全性と有効性を改善させた薬だが、未承認
ひと言で言えば、アブラキサン(米国での商品名、パクリタキセル・アルブミン安定化小粒子製剤)はタキソールの安全性と有効性を改善した抗がん剤です。基本的な部分はタキソールとほぼ同じでどちらも点滴による静脈注射によって投与します。
タキソールとアブラキサンで大きく異なる点は溶媒です。溶媒とは、物質を溶かして溶液を作る際に使う液体のことです。
タキソールの元になっている物質はイチイの樹皮成分で、それを液状化するのに使われている溶媒は、クレモホール・EL(ポリオキシエチレンヒマシ油)です。
この溶媒には、「エチレン」という言葉が見られるように、アルコール成分も含まれています。
また、ぜん息様の呼吸困難や発疹などの重篤なアレルギー症状を起こすことが多く、過敏症の人にはタキソールの使用は制限されています。また、タキソールを使用する際は、アレルギー症状を抑える前処置が必ず行われます。
しかしアブラキサンには、アレルギー症状が起こる可能性の高い溶媒は使われておらず、前処置をする必要もありません。それに加え、奏効率もタキソールより高いというデータもあります。
また、タキソールの投与時間は3時間ほどと長いのですが、アブラキサンの投与時間は30分ほどです。
タキソールとアブラキサンの副作用は、過敏症など溶媒によって起こるもの以外はほぼ同じです。いずれも、脱毛や手のしびれなどが起こります。
ご相談者はアブラキサンを「開発中」とお書きですが、このように比較的使いやすく、高い効果も期待できるため、FDA(米国食品医薬品局)では、通常の化学療法が効かなくなった転移性乳がんなどに対する治療薬として承認しており、米国などではすでに使用されています。
日本では製薬会社が厚生労働省に承認申請を出していますが今は未承認です。そのため通常は使用できませんが、主治医などに相談し、個人輸入することで使用できる道が見つかるかもしれません。
また、アブラキサンとゼローダを併用すると、奏効率が高まるというデータもあります。ただし、併用すると、副作用もその分増しますから、リスクとベネフィットのバランスを考えて使用する必要があります。