モルヒネを使わずに痛みを取り除く方法は?

回答者:岩瀬 哲
キャンサーネットジャパン 科学ディレクター
発行:2004年5月
更新:2013年12月

  

父(78歳)のことでご相談します。前立腺がんから骨転移があって、腰と脚に痛みを訴えるようになりました。腰の痛みは、放射線照射でいったん治まりましたが、最近また背中が痛いと言い始めています。主治医からは、モルヒネを使う提案を受けています。私にはモルヒネは最後の手段というイメージがあって、できれば使いたくありません。モルヒネを使わずに痛みを抑える方法はないでしょうか。

(兵庫県 男性 42歳)

A がんそのものの治療による痛み緩和と、鎮痛剤を使用する2つの方法がある

がんの痛みを緩和する治療には、大きく分けて2つあります。

まず1つは、がんそのものの治療をして、痛みを取り除く方法です。たとえば、放射線治療や抗がん剤治療を行って痛みがなくなれば、それに越したことはありません。とくに、骨の痛みには放射線がよく効きます。ただし、何度も同じところに当てることはできないので、詳細については、主治医か放射線科医に相談してみるとよいでしょう。

もう1つの治療法は、鎮痛剤を使用する方法です。これは、がんに対する治療だけでは効果が現れないときや、がんの治療ができないときに行います。

鎮痛剤の投与方法は、WHO(世界保健機関)によって、3段階に分けられています。

第1段階は、非オピオイド系鎮痛消炎剤のロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム)やボルタレン(一般名ジクロフェナクナトリウム)などを投与します。これで痛みが緩和しない場合は第2段階に進み、弱いオピオイドを使用します。この弱オピオイドにはリン酸コデインなどの薬がありますが、作用時間が短いなどの欠点があるため、日本ではしばしば省略されます。そのため実際には、第1段階の鎮痛剤があまり効かない場合は、第3段階の強いオピオイドに移行することが多くあります。

モルヒネ(商品名MSコンチンやカディアンなど)はこの第3段階に属します。モルヒネは痛み止めとして使用する限り、安全で、非常に効果の高い薬です。骨転移があるとのことですが、モルヒネは骨の痛みにも非常によく効きます。また、乳がんの骨転移にはビスフォスフォネート製剤(アレディアなど)がよく効きますが、前立腺がんには効きにくいといわれています。

それから、モルヒネは決して「最後の手段」などではないことを強調しておきたいと思います。モルヒネに対しては、ほかに「余命を短くする」「錯乱状態になる」「麻薬中毒になる」といったイメージを持っている人が多くいますが、いずれも適正に使用している限り問題なく、まったくの誤解といえます。

ただし、副作用はあります。副作用には便秘や吐き気、嘔吐などがありますが、これらもほとんどの場合、コントロールできます。

注意すべきは、モルヒネの効かない痛みも一部にはあることです。1つはしびれや刺すような痛みである神経因性の疼痛で、この場合は鎮痛補助薬をモルヒネと併用します。もう1つは心因性の疼痛で、この場合は精神科医や心療内科医と相談して、モルヒネとともに向精神薬を鎮痛補助薬として併用することを考えます。

WHO方式の疼痛コントロールを行うと、90パーセント以上のがんの痛みを緩和できるといわれます。この中にはもちろんモルヒネも含まれています。主治医がWHO方式にきちんとのっとった提案をしている場合、モルヒネをいたずらに恐れる必要はないのです。

オピオイド=「合成麻薬」のこと。非オピオイドは合成麻薬以外の消炎鎮痛剤を指す

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