腹膜播種。抗がん剤治療以外に、いい治療法は?

回答者:佐藤 温
昭和大学付属豊洲病院 内科助教授
発行:2007年5月
更新:2019年7月

  

父(59歳)が大腸がんを再発しました。3年前に手術を受け、治ったと思っていたのですが、腸閉塞を2回起こし、開腹手術を受けたら腹膜への転移が見つかりました。腸の通過障害を除くバイパス手術は行ったものの、腹膜播種はそのままでお腹を閉じました。現在、食事は少し食べられる程度で、中心静脈への点滴によって栄養を補給しています。「抗がん剤治療という方法もあるが、敗血症を招いて死期を早めかねない」と主治医から告げられましたが、よい治療法を教えてください。

(福岡県 女性 31歳)

A 臨床研究としての化学療法、緩和療法の2つがある

現在、大腸がんや胃がんなどの腹膜播種は、消化器がんの診断・治療のなかでもっとも大きな問題を抱えています。それは、がんが米粒を播いたように腹膜へ転移しているため、早期の段階でCTやMRIなどの画像検査で発見しにくいことがあげられます。がんの凝り(結節)ができたり腹水がたまったりすれば診断をつけやすいのですが、その時点ではかなり進行し、手のつけようのない末期の段階であることが少なくありません。

実際はお腹に小さな穴をあけ、腹腔鏡を挿入して観察するのがもっとも確実な方法といえます。しかし、ほとんどが全身麻酔をかけ、患者さんの肉体的負担も大きいためにできないのが実状です。その結果、腹膜播種による腸閉塞を起こし、開腹手術をしたらそれと判明したというお父さんのようなケースが多いのです。

腸閉塞を招いた腹膜播種には次の2つの治療法しかありません。1つは臨床研究(実験的治療)の一環として化学療法を試み、可能な限り生存期間の延長をはかるという方法です。もともとお父さんのように全身状態が悪化した患者さんに化学療法を行うと、抗がん剤の副作用が出やすいのは周知の事実。腹膜播種や中心栄養静脈などで敗血症なども起こしやすくなっているため、かえって死期を早めることも少なくありません。加えて、全身状態の悪い患者さんは、医師の集中管理下で治療を行うため、その自由や家族とのひと時がある程度妨げられてしまいます。

もう1つは、がんそのものに対する治療は行わず、患者さんの症状の緩和と生活の質を維持する緩和療法に徹する方法です。今のところ腹膜播種を治癒させることはできない現実のなかで、残された日々をできるだけよい状態で過ごし、自らの人生をまっとうしてもらうことが目標となります。

患者さんご本人と家族、そして医師と十分に相談し、ご本人にとってもっともよいと思われる方法を選択することが大切です。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!