甲状腺がん術後、断端陽性判明。アイソトープ治療はできないか

回答者:林 隆一
国立がん研究センター東病院 頭頸科医長
発行:2005年10月
更新:2013年11月

  

甲状腺がん(乳頭がん)が見つかり、甲状腺の全摘手術を受けました。目に見えるがんは取り切れたということでしたが、病理検査の結果、断端陽性(切除した断面にがん細胞が認められた状態)と診断されました。肺などへの転移はありませんが、がんが甲状腺の外まで広がっていて、病期は3期です。主治医から、今後は放射線治療(外照射)を行うと言われましたが、リスクも高いようです。そこで、アイソトープ治療という治療法もあると聞きました。この治療は受けられないでしょうか。

(山梨県 女性 47歳)

A 条件次第。外照射やホルモン療法と併せて検討

アイソトープ治療は放射線治療の1種で、主に甲状腺がん(乳頭がんと濾胞がん)の肺や骨などへの転移に対する治療として行われます。体の外から放射線を当てる外照射に対し、アイソトープ治療は体の中から放射線を当てるので、内照射と言われます。

仕組みなどについて、説明してみましょう。

甲状腺にある濾胞細胞は、血液中のヨードを原料にして甲状腺ホルモンを作っています。濾胞細胞は体内で唯一、ヨードを取り込む組織ですが、濾胞細胞から発生する甲状腺がんにもヨードを取り込む組織が残っています。

I131という放射性ヨード(カプセル)を内服すると、その放射性ヨードは甲状腺がんの転移病巣に取り込まれます。そして、放射性ヨードから放射線が照射され、がん細胞を破壊します。

甲状腺が残っていると、放射性ヨードは濾胞細胞のある甲状腺に取り込まれるので、アイソトープ治療を行うためには、甲状腺を全摘出していることが条件になります。この点は、ご相談者は甲状腺の全摘手術を受けられているので、問題はありません。

また、放射性ヨードを取り込みやすいがん細胞であるということも、アイソトープ治療が適応になる条件になります。がん細胞の分化度が低かったり、サイログロブリンという腫瘍マーカーの数値が低い場合は、放射性ヨードを取り込みにくいので、この場合は、アイソトープ治療は適さないことになります。

甲状腺乳頭がんは、年齢やがんの浸潤、転移により、高危険度群、低危険度群に分類されます。

ご相談者のようなケースは、年齢、甲状腺外への進展から、高危険度群と考えられ、放射線の外照射とアイソトープ治療を比較すると、通常、アイソトープ治療のほうが勧められます。

それは、1つには、甲状腺がんに対する外照射の治療成績はあまり出ていないのが現状だからです。また、副作用や遠隔転移の可能性を考慮すると、局所照射である外照射より、広範囲に治療できる内照射のほうが適していることになります。

また、外照射は原則として同じ場所には1回しかできないので、行う場合は慎重に検討したほうがいいでしょう。

アイソトープ治療を選択されたとしても、この治療は行っている医療機関が少ないのが現状です。この理由としては、放射線の隔離病棟が必要で、なおかつ線源の保管も容易ではないことなどが挙げられます。インターネットなどで、行っている医療機関をお調べになるとよいでしょう。

外照射とアイソトープ治療以外の治療法には、ホルモン療法があります。甲状腺ホルモンを内服することで、TSHというホルモンの分泌が抑えられます。

TSHには、がん細胞を増殖させる働きがあるので、TSHが少なくなると、がん細胞の増殖が抑制されることが期待できます。

ホルモン療法は、外照射やアイソトープ治療に比べると、体に対する負担が小さいという特長があります。 まずはホルモン療法を受けてみて、あまり効果がない場合はアイソトープ治療や外照射、あるいは経過観察の後、再発が確認された時点でまた手術を受けられるのも1つの方法です。

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