ALK融合遺伝子を調べる精度の高い3つの診断法が確立
肺がんの新しい遺伝子検査。どうやって調べるの?
2012年5月、肺がん治療に新たな分子標的薬が加わった。それが、ALK融合遺伝子を持つ人のみに効くザーコリという薬剤だ。では一体、ALK融合遺伝子があるかどうか、どうやって調べるのだろうか? 患者さんへの負担はないのだろうか?
新たな融合遺伝子を発見
2007年、融合遺伝子E ML4-ALKの報告は、がん医療界を揺るがす大事件だった。肺がんを引き起こす異常な遺伝子の1つを特定、その活動をブロックすれば、がん細胞がほとんど消えるというのだ。融合遺伝子とは2種類の遺伝子が途中でちぎれ、互いにつながったもの。血液がんや肉腫ではよく知られていたが、固形がんでは一部のがん(甲状腺がんなど)でしか見つかっていなかった。自治医科大学教授の間野博行さん(東京大学大学院医学系研究科特任教授を兼任)が肺がんで初めて見つけた融合遺伝子、それがEML4-ALKだった(図1)。EML4-ALKのハイフンの前後はもともと別の遺伝子。ALKがちぎれて別の遺伝子とくっついたものをA LK融合遺伝子と呼ぶ。リンパ腫や肉腫では相手の遺伝子により20種類くらいのALK融合遺伝子が知られているが、肺がんの場合、ALKがくっつく相手はほとんどがEML 4だ。ALKは細胞の増殖をつかさどる酵素(チロシンキナーゼ*)の一種。正常のALKはスイッチがオフになっているが、融合遺伝子となることでスイッチがオンとなったままになる。その結果、正常細胞が、がん化してしまう。逆に、ALKのスイッチを切ることができれば、がん細胞を死滅させることができる。EML4-ALKの発見を受け、米国の製薬会社がすぐに臨床試験を実施、4年という異例のスピードで承認され、米国で発売されたのがALK阻害剤である分子標的薬ザーコリ(*)だった。日本でも今年5月から使えるようになった。ザーコリが使われるのは、がん細胞の中にALK融合遺伝子がある患者さんに限られる。ALK融合遺伝子陽性の患者さんへの効果は劇的だが、陰性の患者さんには全く効かないからだ。
*チロシンキナーゼ=タンパク質を構成するアミノ酸の1つであるチロシンにリン酸を付加する機能を持つ酵素
*ザーコリ=一般名クリゾチニブ
3つのALK診断法
では、EML4-ALK陽性かどうか、どうやって見分けるのだろうか。
「EML4-ALK遺伝子の診断法は大きく3つあります。『FISH法』、『免疫染色法』、『RT-PCR法』と呼ばれるものです。米国でがん治療薬の審査や承認を行うFDA(米国食品医薬品局)は、まずFISH法を承認しましたが、日本では免疫染色法も盛んに行われています」
と語るのは、3つの診断法を世界に先駆けて開発した、がん研究会がん研究所分子標的病理プロジェクトのプロジェクトリーダーであり、病理診断医である竹内賢吾さんだ。
それぞれの方法について、ごく簡単にまとめてみよう。
FISH法とは、ALK遺伝子が途中で切れているかどうかを調べる方法。
「EML4-ALK融合遺伝子は、ALK遺伝子が途中で切れ、EML4遺伝子のほうに飛んでくっついたもの。つまり、ALK遺伝子が切れていれば、ALK融合遺伝子があることがわかります」
具体的には、ALK遺伝子の前半と後半を違う蛍光色(たとえば赤と緑)に染める。顕微鏡で観察すると、正常のALK遺伝子では色が混ざり黄色い蛍光として見える。しかし、ALKが切れて両端が離れたところにあると色が混ざらないので赤と緑が確認できる。つまり、ALK融合遺伝子が存在していることになるわけだ(図2)。
RT-PCR法は、遺伝子のmRNA(DNAの遺伝情報のコピー)に対する方法。EML4-ALK融合遺伝子のコピーはEML4-ALK融合遺伝子を持っているがんにしか存在しないため、コピーの有無を確認するという方法だ。
免疫染色法はタンパク質を染める方法。遺伝子がmRN Aを経て「翻訳」されるとタンパクがつくられる。つまり、ALKタンパクにくっつく抗体をがん組織にかける。その抗体を色素で染める。染まればALK融合タンパクがあるということになる(写真3)。
つまり、「がん組織の遺伝子を染め出す方法がFISH法。遺伝子からつくられるmRNAを検出する方法がR T-PCR法。そして、mR NAからつくられるタンパク質を認識するのが免疫染色法」になる。
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