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免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法が登場 肝細胞がんの最新動向と薬物療法最前線

監修●奥坂拓志 国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年10月
更新:2024年10月

  

「かつては考えられないことでしたが、薬物療法でがんが大幅に減ったところで、肝動脈塞栓療法を行うことにより、がんがすべて消えた状態になるケースも現れています」と語る奥坂さん

肝炎治療薬の普及などでB型C型肝炎が減少し、肝細胞がんは減少傾向にありますが、脂肪肝など背景の違った肝細胞がんを発症するケースが増えています。進行がんの薬物療法では、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用である「テセントリク+アバスチン併用療法」に続き、2023年には免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用である「イミフィンジ+イジュド併用療法」が登場してきました。どちらも第1選択の治療で、2つの治療をどのように使い分けるかについては、エビデンスがないのが現状です。

肝細胞がんの新しい傾向は?

肝細胞がん(HCC)は肝臓の細胞から発生するがんですが、多くは慢性肝疾患のある肝臓にできます。かつては肝炎ウイルス(B型、C型)に感染している人が慢性肝炎を発症し、肝硬変へと進行する中で、肝細胞がんを発生するケースが9割以上を占めていました。とくに多かったのが、C型肝炎ウイルスの感染者からの発生でした。

しかし、近年になって新しい薬剤(直接型抗ウイルス薬)が普及したことでC型肝炎は根治(こんち)できるようになり、今では健診などで見つかる程度で感染者が大きく減少しています。それに伴い、肝細胞がんも減少傾向にあります。

ただ、B型C型肝炎から肝細胞がんになる人は減少していますが、他の慢性肝疾患から肝細胞がんになる人が増えていることが明らかになっています(図1)。

こうした傾向について、国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科長の奥坂拓志さんは、次のように述べています。

「ウイルス性肝炎を背景に発生する肝細胞がんが減少しているのは、ウイルス性肝炎に対する治療薬の進歩によるものです。それにより肝細胞がんは減っていますが、アルコール性肝障害や非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)など、ウイルス性肝炎以外の疾患による肝細胞がんが増えてしまい、そこへの対策が必要となっています」(図2)

肝細胞がんの患者さんが、初回治療としてどのような治療を受けたかを、「ウイルス性肝炎罹患歴あり」の患者さんと、「ウイルス性肝炎罹患歴なし」の患者さんで比較した調査があります。それによると、初回治療で薬物療法を受けた患者さんは、ウイルス性肝炎罹患歴ありではわずか3%でしたが、ウイルス性肝炎罹患歴なしの患者さんでは24%もいることがわかりました(図3)。

こうした違いは、どうして生じるのでしょうか。

「がん自体に違いがあるわけではありません。B型やC型の肝炎からがんになった人は、がんができる前から健康診断などで引っかかり、医療機関で定期的に肝臓のチェックを受けている人が多いのです。そのため早い段階でがんが見つかりやすく、手術やラジオ波焼灼療法(RFA)などが可能なので、初回治療において薬物療法しか選択肢のない人が少ないのでしょう。その点、ウイルス性肝炎に罹患していない人は、定期的なチェックを受けていないことが多く、肝細胞がんが発見された段階で、すでに進行がんになっていることが多いのだと考えられます。そのため、初回治療から薬物療法の対象になる人が多いのだと思います」

肝臓は〝沈黙の臓器〟と呼ばれることがあるくらい、障害されていても自覚症状が現れません。肝細胞がんの発症を防ぐためにも、早い段階で発見するためにも、健康診断などの肝臓の検査値(ALT、AST)を軽視せず、少しでも数値が高い場合は医療機関を受診することが推奨されています。

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD):肥満やインスリン抵抗性を基盤として発生する脂肪肝のうち、アルコール性肝障害を除外したもの。日本でも肥満人口の増加に伴いNAFLDは近年増加

進歩が続く肝細胞がんの薬物療法

肝細胞がんの治療は、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術(TAE)、薬物療法が「4大治療」と呼ばれています。

手術……がんとその周囲の肝臓の組織を切除する治療。対象となるのは、がんが肝臓にとどまっていて、3個以下の場合。
ラジオ波焼灼術……体の外から肝臓内のがんに特殊な針を刺し、そこに通電することでラジオ波を発生させ、局所的に高温にすることでがんを死滅させる。対象となるのは、がんが肝臓にとどまっていて、3個以内、3㎝以内の場合。
肝動脈塞栓術……鼠径部などの動脈から挿入したカテーテルを肝動脈まで入れ、塞栓物質を注入して、がんに血液を送っている血管を塞ぎ、がんの増殖を抑える。カテーテルから抗がん薬を注入し、さらに塞栓物質を入れる「肝動脈化学塞栓術」(TACE)もある。

かつてはこれらの治療が「3大治療」とされていましたが、2009年に分子標的薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)による治療が行われるようになってから、薬物療法を加えて「4大治療」と呼ばれるようになっています。薬物療法は、手術できない進行がんが対象となります。

肝細胞がんに対する薬物療法は、次のような変遷をたどってきました。

「ネクサバールに続いて承認されたのが、分子標的薬のレンビマ(一般名レンバチニブ)でした。ネクサバールが登場したことで、開発が活性化し、類似の分子標的薬が次々と承認されました。そして、2020年になると、 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のテセントリク(一般名アテゾリズマブ)と、分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)との併用療法(IMbrave150試験)が承認され、肝細胞がんの薬物療法が新しい時代を迎えました」(図4)

テセントリク+アバスチン併用療法は、ネクサバール単剤療法との比較試験が行われ、全生存期間と無増悪生存期間を有意に延長することが明らかになっています。そして、この併用療法が肝細胞がんに対する薬物療法の第1選択薬となってきました。

その後、2023年になって、免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法が承認されました。抗PD-L1抗体のイミフィンジ(一般名デュルバルマブ)+抗CTLA-4抗体のイジュド(一般名トレメリムマブ)の併用療法が承認されたのです。

この併用療法に関しては、「HIMALAYA試験」という国際第Ⅲ相試験が行われています。イミフィンジ単剤群、イミフィンジ+イジュド併用群(イジュドを初回単回投与、その後イミフィンジのみ投与)、ネクサバール単剤群の3群を比較する試験です。

この臨床試験において、イミフィンジ+イジュド併用群の全生存期間(OS)中央値は16.4カ月で、ネクサバール単剤群の13.8カ月に対し、有意に延長していました。また、イミフィンジ単剤療法は、ネクサバール単剤療法に対して非劣性を証明していました。

「この免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が承認されて以降、進行肝細胞がんの薬物療法では、テセントリク+アバスチン併用療法も、イミフィンジ+イジュド併用療法も、どちらも第1選択という状況になっています」(図5)

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