手術までの道のりをサポートする膵がんの最新化学療法
抗がん剤の併用療法で手術も可能に!進行膵がんの新手のGS療法
「進行していても、手術まで
もっていける可能性もある」と話す
吉富秀幸さん
症状がなく、検査でも見つけにくいため、発見されたときは進行し、手術ができなくなっていることが多い膵がん。
しかし、手術ができなくても、薬剤を組み合わせるなど、その治療法は確実に進歩しています。
予後の悪いがんの代表
初期症状がなく、検査で発見することも難しいため、見つかったときにはすでに進行し、手術ができない状態で発見されることが多い膵がん。
千葉大学医学部付属病院肝胆膵外科助教の吉富秀幸さんは膵がんについてこう説明します。
「膵臓という臓器自体がおなかの中の1番背中側にあって検査で見つけにくく、痛みなどの症状もなかなか出ないので早期発見が難しい。しかも、膵臓のまわりには大事な太い血管が何本も走っていて、進行してしまうと、これらの血管にもがんが広がり、手術ができなくなるケースも少なくありません。だから、予後の悪いがんの代表として膵がんは知られています」(図1)
膵がんの完治をめざすなら手術で腫瘍を摘出するしかありません。
しかし、手術可能な段階で見つかるのは全体の4割程度に過ぎず、また、早期発見して手術をしたとしても、必ずしも成績がよくないのが現状だそうです。
「同じ1期、2期の早期のがんであっても、他のがん種と比べ、膵がんは予後が悪いです。たとえば胃がんなら1期の段階で手術すれば5年生存率は約90%と高い数値ですが、膵がん全体ではせいぜい60~70%くらい。膵がんの中で最も多い4期では5年生存率は10%以下です。
そこで、外科治療のみにこだわるのではなく、外科治療と抗がん剤による化学療法や放射線治療を組み合わせて、それらのコンビネーションによって治療成績を上げようという試みがなされていて、徐々に功を奏しつつあるところです」
と吉富さんは語ります。
標準治療薬はジェムザール
一昔前までは、手術が不可能な進行膵がん(手術後に再発した場合も含む)の標準治療は5-FU(*)という抗がん剤を使った化学療法でした。しかし、日本では2001年以降、ジェムザール(*)が承認されて使われ始め、5-FUに代わって現在はこちらが第1選択薬として使われるようになっています。
がん細胞が分裂するとき、DNAが複製されますが、ジェムザールはDNAの中に入り込んで複製されるのを阻害し、その結果としてがん細胞の増殖を抑える働きがあります。ジェムザールはがん細胞など増殖が活発な細胞に働きかけるので、正常細胞への副作用は比較的少ないといわれています。
ジェムザールの副作用で多いのは白血球(とくに好中球)や血小板の減少。ほかに、だるさや疲労感を訴えることもあります。
「ジェムザールが一躍脚光を浴びたのは97年に発表されたジェムザールと5-FUの比較試験の結果です。5-FUで治療した場合の全生存期間中央値が4.4カ月だったのに対して、ジェムザールで治療したら5.7カ月でした(図2)。たった1.3カ月の違いでしたが、当時の私たちとすればびっくりするデータでした。さらにもう1つ、疼痛などの症状緩和効果が5-FUでは5%ぐらいの人でしかなかったのが、ジェムザールでは24%にも達しました。ほかに体重が増えたなどの項目でも割合が高く、患者さんのQOL(生活の質)を向上させるという点でも効果が高いとの評価が得られました」
*5-FU=一般名フルオロウラシル
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
血液毒性の少ないTS-1
その後、"日本発の抗がん剤"として登場したのがTS-1(*)。ジェムザールは点滴で投与しますが、TS-1は飲み薬なので自宅で服用できるという利点もあります。
このTS-1という薬は、5-FUをベースに、5-FUの効果が体内で長く持続するようにしたものです。副作用も5-FUより出にくくなるよう工夫もされています。白血球(好中球)数の低下など血液毒性はジェムザールより軽いですが、一方、悪心や食欲不振、下痢などの消化器症状はTS-1のほうが出やすいようです。
TS-1は日本では06年に膵がんに対する治療薬として承認され、現在、ジェムザールを第1選択の薬、TS-1を第2選択の薬として使うところが多いようです。
そして、最近になって注目されるようになったのがジェムザールとTS-1を併用する方法です。
「実は、ジェムザールをほかの薬と併用したらどうかというのは、それこそ山のように試みられているのですが、ジェムザール単独よりも効果が大きいといえる薬は限られたものしかありませんでした」
と吉富さんが語る通り、多少の上乗せ効果が認められたのは、分子標的薬のタルセバ(*)と併用した場合と、ゼローダ(*)と併用した場合ぐらいだったといいます。
では、TS-1とジェムザールを併用したらどうか?
これを調べるため、GEST試験という第3相の臨床試験が日本と台湾との共同で行われ、その結果が昨年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表され、注目を集めました。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*タルセバ=一般名エルロチニブ
*ゼローダ=一般名カペシタビン
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