肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 2

術前より環境が厳しい職場へ、転勤を命じられた

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2009年9月
更新:2014年3月

  

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。

渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


がんの手術後に職場復帰したら、会社から術前より仕事量、環境が厳しい職場に「転勤」を伴う異動を命じられました。独身ですが体力、精神的ストレスを考えると無謀な人事。留任希望を出したいが、もう若くないため、どうしたらよいでしょうか。

(40代、女性)

配転無効の裁判を起こす前に地方労働局・相談コーナーで相談を

がんの手術後に今までよりもハードな職場に異動を命じられた、というのは労働契約法に定める会社側の安全配慮義務違反ですし、あなたにとっては明らかに「不利益配転」ですよね。

「不利益配転」が法的に有効か無効かを判断する基準は、ほぼ次のとおりです。

(1) 会社側にとって、そうする業務上の必要性があったかどうか

(2)人選は、合理的であったか(あなた以外にその部署に就く人がいなかったのか、他にも候補者がいたのではないか)

(3) 不当な動機、目的は無かったか(解雇に持っていくための意図ではなかったか)

(4) 当事者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものではないか (遠隔地への転勤とか、これまでの知識・技能が全く生かせない部署への異動であるとか)

(5) 労使慣行(例えば予め当事者に内示をして同意を得た上で配転命令を発令する慣行とか)に反したやり方で、発令したものではないか

これらの基準を全部クリアしていれば配転命令は有効ですが、そうでなければ権利の濫用として無効になります。

あなたの場合、「転勤を伴う配転」ですから、会社にとってどうしても術後間もないあなたに、そこへ赴任してもらわなければ、業務に支障をきたすくらいの必要性がなければ、その配転は無効であると言ってよいでしょう。

さて、もしも、「配転無効」の裁判を起こすなら、かなり勝気で戦っていけそうな気はします。でも、そうした場合、あなたの経済的負担、精神的負担はかな り大きなものになりそうですし、結論が出るまでに時間もかかりますので、あまり「お勧め」ではありません。それよりも、もう少し穏やかなやり方のほうがい いように思います。

まずは、最寄りの地方労働局の総合労働相談コーナーに出向いて相談してみたらどうでしょう。担当者はあなたの話を聞き、あなたに対しても、また、会社に 対しても必要な助言や指導をしてくれます。不当配転だと判断されれば、その配転の撤回を会社側に提案してくれるでしょう。

うまくすれば、それで原職に戻ることができます。また、それだけでは解決しない場合はあなたからあっせんの申し立てをしてください。そうすれば、やはり 労働局において個別労働関係紛争事件として、あっせん調整委員会を開き、2、3カ月で結論を出してくれます。これは裁判ほど面倒ではなく、早くて安い解決 法です。しかも、会社に対するあたりも柔らかく、今後も穏やかに働き続けられるのではないかと思います。「若くないこと」をあまり引け目に思わないでくだ さい。「仕事の借りは仕事で返しますから!」と上司に直談判してみるのもいいのではないでしょうか。

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