肝っ玉弁護士 がんのトラブル解決します 46

父が末期がん、妹は行方不明。相続は?

解決人●渥美雅子
イラスト●小田切ヒサヒト
発行:2013年8月
更新:2014年3月

  

75歳の父が末期のがんと診断されました。相続が心配です。父には土地建物と少しの預貯金があります。母は他界し、子どもは私と妹です。ところが妹は、20年前に家出した後、まったく消息がわかりません。遺言書はありません。法定相続となった場合、私と妹との分与関係が心配です。妹が相続するはずの分はどうなってしまうのでしょうか?

(新潟県 主婦 50歳)


渥美雅子 あつみ まさこ
弁護士として家族問題、遺産相続などを専門に活躍。2003年「女性と仕事の未来館」館長を務める。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』など著書多数

手続きはたいへん。そのために……

相続が発生した時点で、相続人のひとりが行方不明の場合どうするか、典型的な法的対策としては2つあります。

ひとつは「不在者財産管理人制度」の活用です。これは行方不明になった人が何がしか財産を持っていたり、何かの権利を持っているとき、利害関係人が家庭裁判所に申し立てをしてその人の財産管理をする役目の人を選任してもらう制度です(民法第25条)。 お父様が亡くなった場合、土地建物と預貯金が遺産として残りそうであり、その遺産を相続するのはあなたと妹さん2人だけならば、あなたは妹さんと利害関係に立つことになります。ですから、あなたから家庭裁判所に「不在者財産管理人選任の申立」をして、だれか信頼のおける方に財産管理人になってもらい、その方と遺産分割の話し合いをし、あなたの取得分と妹さんの取得分を決めていくことになります。そして妹さんが取得した財産については、引き続きその方に管理してもらうことになります。これが「不在者財産管理制度」です。

もうひとつは「失踪宣告制度」です。失踪宣告とは、不在者の生死が7年以上明らかでない場合に利害関係人から家庭裁判所にその旨の申立をして、その人を法律上死亡したことにしてしまう制度です(民法第30条)。

無論その後生存していることが明らかになれば再び家庭裁判所に申立をして失踪宣告を取消してもらうことができます。

失踪宣告が出た場合には、妹さんは行方不明になってから7年経った時点で死亡した扱いになりますから、お父様が亡くなった時点では相続人はあなたひとりしかいないということになり、お父様の遺産はあなたが全部相続することになります。

そのあとで、もしも妹さんの生存が判明したら、前述のように失踪宣告は取消され、あなたは本来妹さんが相続する分の財産を妹さんに返さなければなりません。その場合、基本的には半分返さなければならないわけですが、民法では時の経過を考慮し「現に利益を受けている限度においてのみ」返還すればよいと定められています(民法32条2項)。

いずれにせよ、相続人の中に行方不明者がいるとかなり面倒な手続きを経なければ遺産分割ができません。 いかがでしょう。もしもお父様に意思能力があるならば今のうちに遺産はすべてあなたに相続させる旨の公正証書遺言を書いておいてもらうことはできませんか。それがあれば不在者財産管理手続きも失踪宣告手続きも一切不要ですが。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!