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肝っ玉弁護士 がんのトラブル解決します 44
親の治療費を払いたくない
解決人 渥美雅子
あつみ まさこ 弁護士として家族問題、遺産相続などを専門に活躍。2003年「女性と仕事の未来館」館長を務める。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』など著書多数
平凡な主婦です。田舎の施設に1人で住む父親の件で相談します。ひとりっ子の私は、地方の高校を出てから東京で暮らしており、感情のもつれもあって父とは音信不通状態です。このほど、施設から「胃がんと診断されたので、治療費や介護のことで話がしたい」と連絡がありました。高額に上るだろう父親の治療費や介護の費用を負担したくありません。法的に父親の治療費を私が支払う義務はありますか?
(38歳、主婦)
あなたの経済状態が考慮されます
民法には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定められています(民法877条)。あなたとお父様とは直系血族ですから、お父様が生活に困っておられるならあなたに扶養義務が発生します。ただし、それはあなた自身の生活を差し置いてでも扶養しなさいというほど強力なものではありません。
「老親に対する子の扶養義務は、生活扶助の義務としての性質を持ち、扶養義務者の社会的地位、収入等相応の生活をした上で余力を生じた限度で分担すれば足りる(昭和49年6月19日大阪高裁決定)」とされています。
ですからあなたが今無収入であり、家庭的にもほとんど余裕がない状態ならば、具体的な扶養義務は発生しません。
一方、お父様の方も施設に入ったものの諸費用を賄うに足りる資産・収入がないのでしょうね。そこで施設側ではお父様のために生活保護の申請をすべきかどうか迷っているのではないでしょうか。
生活保護法には「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、全てこの法律による保護に優先して行われるものとする」という定めがあります(生活保護法第4条)。
これを「保護の補足性」と呼んでいますが、つまり生活保護は最後のセーフティ・ネットであり、例えば年金や保険やその他の行政的扶助があれば、それらをまず受け、それでもなお生活ができない場合に初めて生活保護が受けられるというシステムになっているのです。そして、そのひとつに民法に定める親族の扶養義務もあるのです。施設側ではお父様に対して扶養義務のある人の資力、収入等を調査し、それが無いとわかった段階で、生活保護の申請をしようとしているのだと思います。
ですからどうぞ施設に出向いて、現在のあなたの経済的状態を説明して下さい。このことをお連れ合いに話す必要はありませんが、お連れ合いの収入も含めて余裕があるかないか勘案されますので、そのことを念頭に置いてあなた方家族の生活の実情をお話し下さい。
これまで父子間に感情的確執があって「何を今さら」という思いがあるやにお見受け致しますが、そうした恨み辛みを述べるよりも、現在の経済的状態、生活状態をありのままお話しになることが良いかと考えます。