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研究が進む分子標的薬、タルセバの最新データに注目!

遺伝子変異を調べることから始まる肺がんの最新治療

監修●高橋和久 順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2012年11月
更新:2015年10月

  
「最近は、高齢者の肺がんの増加が顕著」と語る高橋さん 「最近は、高齢者の肺がんの増加が顕著」と語る高橋さん

肺がんの治療は、がん細胞の遺伝子変異を調べ、その特徴に応じた治療を行う時代になっている。日本人の肺がんに最も多いのは、EGFR遺伝子変異で、肺がんの約3割に見られるという。分子標的薬はどう使われ、今後どうなっていくのか。とりわけタルセバの最新データが注目を集めている。

肺腺がんの研究がとくに進んでいる

■図1 進行非小細胞肺がんの標準的治療
■図1 進行非小細胞肺がんの標準的治療

順天堂大学医学部呼吸器内科

がんは、がん細胞の種類によっていくつかのタイプに分けられる。まず「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」に分けられ、非小細胞肺がんが「扁平上皮がん」「腺がん」「大細胞がん」に分類されている。この中で、近年増えているのが腺がんだ。

順天堂大学大学院教授の高橋和久さんによれば、これは喫煙率が低下したことと関係があるという。

「小細胞がんや扁平上皮がんは、主に喫煙を原因として起こります。喫煙率が低下したことで、これらが減り、相対的に喫煙があまり関与しない腺がんが増えているのです」

かつて日本人の肺がんでは、扁平上皮がんが最も多かったが、現在は腺がんが最も多く、肺がん全体の50~60%を占めている。扁平上皮がんは25~30%、大細胞がんは数%、小細胞がんは10~15%である。

「こうした傾向があるため、治療薬の開発は腺がんを中心に進められてきました」

肺がんの根治療法は手術だが、手術できないほど進行した場合や、手術後に再発した場合には、抗がん剤による化学療法や分子標的薬による治療が行われる。

化学療法では、プラチナ系抗がん剤ともう1剤を組み合わせた2剤併用が基本。最近は、これに血管新生阻害剤のアバスチンを加えた3剤併用もよく行われている(図1)。加えて、EGFR遺伝子変異などを特異的にターゲットとする分子標的薬を患者さんの状況に応じて使い分けることとなる。

肺がんの診療ガイドラインによれば、非小細胞肺がんと診断され、扁平上皮がんでない場合には、まず「EGFR遺伝子変異検査」を受けることになっている。この検査の結果が陽性か陰性かによって、治療が大きく変わってくるのだ。

「最近は、がん細胞が持つ遺伝子情報を調べ、その結果に合わせて分子標的薬が使われるようになっています。EGFR遺伝子変異検査は、そのために行う検査です」

アバスチン=一般名ベバシズマブ

肺がん全体の3割がEGFR遺伝子変異

■図2国内腺がん患者の遺伝子変異比率(2012年)
■図2国内腺がん患者の遺伝子変異比率(2012年)

腺がん細胞の中でEGFR遺伝子変異のあるものは53%に及ぶ

現在、日本で肺がんの治療に使用できる分子標的薬イレッサ、タルセバ、アバスチン、ザーコリの4種類のうち、イレッサとタルセバは、EGFR遺伝子変異検査の結果が陽性だと、よく効くことがわかっている。

「従来の抗がん剤は、たとえば敵(がん細胞)が侵入した街全体に爆弾をばらまくような攻撃で、敵も味方も破壊してしまいます。それに対し、分子標的薬は、目印の旗を識別して、敵のいる建物にだけ爆弾を落とします。EGFR遺伝子変異は、目印となる旗のようなものなのです」

治療開始前にまずEGFR遺伝子変異検査が行われるのは、この遺伝子変異を持つがんが多いからだ。日本人の肺腺がんには、円グラフに示すような割合で遺伝子の異常があることがわかっている(図2)。

腺がんは肺がんの50~60%を占めているが、その腺がんの53%にEGFR遺伝子変異が見られる。つまり肺がん全体の3割ほどになる。このタイプのがんには、イレッサやタルセバがよく効く。

ALK融合遺伝子検査陽性のがんには、ザーコリが有効であることがわかっている。

「肺がんの治療は、腺がんや扁平上皮がんといった組織型の違いに加え、遺伝子情報を見ることで、適切な治療法を選択する時代になってきました。個別化治療の幕開けと言っていいでしょう」

ここでは、EGFR遺伝子変異が陽性の肺がんについて、その治療法を解説する。

イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ ザーコリ=一般名クリゾチニブ

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