患者のためのがんの薬事典
アービタックス(一般名:セツキシマブ)
頭頸部がんに使える初めての分子標的薬
大腸がんの治療薬アービタックスが、新たに頭頸部がんの治療に使えるようになりました。
頭頸部がんの治療薬として分子標的薬が認可されたのは、アービタックスが初めてです。
アービタックスは、再発・転移性の頭頸部がんに関して、従来の化学療法と比較し、30年ぶりに全生存期間の延長を証明した治療薬です。アービタックスが加わることで、頭頸部がんの治療は、新しい時代を迎えることになりました。
大腸がん治療で実績のある分子標的薬
アービタックス*は、大腸がんの治療ではすでに日本も含め92カ国で使用されており、KRAS野生型切除不能進行再発大腸がんにおいて、標準化学療法に対し生存期間延長を証明した唯一の分子標的薬として、有用性が認められています。
そのアービタックスが、2012年12月から頭頸部がんの治療にも使えるようになっています。欧米では、以前から頭頸部がんの標準治療に組み込まれていましたが、日本もそれに追いついたことになります。
アービタックスは、細胞の成長や増殖のシグナル伝達にかかわるEGFR(上皮成長因子受容体)を標的とする抗体薬です。がん細胞にあるEGFRに結合すると、EGFRの活性を抑え、そこから出るがんの増殖シグナルを抑制します。それによって治療効果を発揮するのです。
アービタックスが効果を発揮するのは、EGFRをもつがん細胞なのです。大腸がんも頭頸部がんも、その多くがEGFRをもっています。
*アービタックス=一般名セツキシマブ
海外の臨床試験で効果が証明された
頭頸部がんへのアービタックスの効果は、海外における2つの臨床試験で証明されています。1つは、局所進行(Ⅲ期、およびⅣ期であっても遠隔転移はない)頭頸部がんを対象とした「Bonner試験」。もう1つは、再発転移(遠隔転移があるか再発した)頭頸部がんが対象の「EXTREME試験」です。
これらの試験は、扁平上皮がんという組織型のがんが対象です。頭頸部がんは、主に口、鼻副鼻腔、のど(咽頭・喉頭)にできたがんを指し、その90~95%は扁平上皮がんといわれています。唾液腺がんや甲状腺がんには腺がんが多いのですが、頭頸部がん全体でみるとほとんどが扁平上皮がんです。
局所進行がんを対象としたBonner試験では、「放射線療法群」と、「放射線療法+アービタックス群」を比較しています。
その結果、局所制御期間(治療部位に再発や増悪が見られない期間)の中央値は、「放射線療法群」が14.9カ月、「放射線療法+アービタックス群」が24.4カ月。アービタックスを加えることで、9.5カ月延長しました。また、生存期間の中央値も、29.3カ月から49.0カ月へと延長したのです(図1)。
現在、局所進行頭頸部がんには、「放射線療法+シスプラチン」が広く行われており、効果は「放射線療法+アービタックス」と同等と考えられています。 シスプラチンは腎機能が低下していると使用できないなど、使える人が限られるため、アービタックスという選択肢が増えることには、大きな意味があります。
再発転移がんでは30年ぶりに生存を延長
再発転移がんを対象としたEXTREME試験では、「化学療法単独群」と「化学療法+アービタックス群」の比較が行われました。化学療法は、プラチナ系抗がん薬(シスプラチン*またはパラプラチン*)と5-FU*の併用療法です。
その結果、生存期間の中央値は、「化学療法単独群」が7.4カ月、「化学療法+アービタックス群」が10.1カ月で、2.7カ月の延長が見られました。また、無増悪生存期間の中央値は、3.3カ月と5.6カ月で、2.3カ月延長していました。
頭頸部がんの化学療法は、シスプラチンが登場してから30年間、生存期間をそれ以上延ばす治療は登場しませんでした。アービタックスの併用療法は、30年ぶりに生存期間を延ばした画期的な治療法なのです。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *パラプラチン=一般名カルボプラチン *5-FU=一般名フルオロウラシル
治療効果を高めQOLも維持
アービタックスは週に1回、点滴で投与します(図2)。放射線療法と併用する場合は、まずアービタックスを投与し、2週目から放射線療法を行います。アービタックスには放射線に対する増感作用があるため、アービタックスの治療を先行することで、放射線の効果が高まるからです。
再発転移がんに対しては、アービタックスを毎週、シスプラチン+5-FUを3週ごとに投与します。
アービタックスで問題になる副作用は皮膚障害です。ニキビ様の皮疹が現れるため、予防のための保湿や、症状が現れた後の適切な治療が必要になります。ただし、アービタックスを放射線療法や化学療法と併用しても、患者さんのQOL(生活の質)が低下しないことは、前述の臨床試験で確認されています。
KRAS遺伝子検査は頭頸部がんでは不要
大腸がんの治療でアービタックスを使用する場合、がん細胞のKRAS遺伝子に変異があるかどうかを調べますが、頭頸部がんではこの検査は行いません。検査を行うのは、KRAS遺伝子変異があるがんには、アービタックスの効果が期待できないことが明らかだからです。
日本人の場合、大腸がんでは約40%にKRAS遺伝子の変異がありますが、頭頸部がんの場合、変異がある症例はほとんどありません。そのため頭頸部がんでは、アービタックスによる治療の前に遺伝子検査は行わないのです。そこが大腸がんの治療と大きく異なる点です。
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