治療の選択肢が広がり、生存期間の延長も
新薬が次々に登場!多発性骨髄腫は共存の時代に
多発性骨髄腫(MM)は高齢者に多く、40歳未満では稀な病気。国内では年間に10万人あたり2、3人が罹患するといわれている。サレド、ベルケイド、レブラミドなどの治療薬で治療法は大きく進み、さらなる新薬が相次いで登場。治療の選択肢が広がり、病気と共存する時代になりつつある。
異常なタンパク質を作り 骨病変などの症状を起こす
骨髄では造血幹細胞という細胞が分化することで、様々な種類の血液細胞が作られている。赤血球も白血球も血小板もこうして作られる。白血球には好中球やリンパ球などいくつかの種類があるが、リンパ球の中で最も分化した細胞として形質細胞がある。この形質細胞ががん化し、増殖してくる病気が多発性骨髄腫である。
がん化した形質細胞が増えると、どのようなことが起こるのだろうか。東京女子医科大学血液内科学講師の今井陽一さんは、次のように説明する。
「形質細胞は抗体を作る働きをしています。細菌やウイルスなどの異物に合わせた抗体を作り、体を守る働きをしているのです。この形質細胞ががん化して多発性骨髄腫の細胞になると、モノクローナル抗体というたった1種類の異常なタンパク質だけを作るようになります。そのため細菌やウイルスに対する免疫の機能は低下します。また、多発性骨髄腫では、高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨の病変といった症状が現れてくることもあります(図1)」
この多発性骨髄腫に対して、かつてはMP療法という化学療法が行われていた。抗がん薬の*アルケランと、ステロイド薬の*プレドニンを併用する治療である。しかし、この治療を行っても、患者の長期生存は得られなかった。血液がんの中には、白血病のように抗がん薬がよく効く病気もあるが、多発性骨髄腫には抗がん薬があまり効果的ではなかったのだ。
「抗がん薬は、細胞分裂やDNAの合成に働きかけて細胞を殺す薬です。白血病細胞は細胞が未熟なため、細胞分裂やDNAの合成が盛んなので、抗がん薬がよく効きます。一方、多発性骨髄腫の腫瘍細胞は成熟した細胞なので、細胞分裂やDNA合成が盛んではありません。そのため、従来の抗がん薬では十分な効果が得られなかったのです」
そこで使われるようになったのが、*サレドや*ベルケイドなど、従来の抗がん薬と異なる働きを持つ薬だった。サレドと同系統の薬である*レブラミドも加えた3種類の薬が登場することで、多発性骨髄腫の治療は大きく進歩した。
*アルケラン=一般名メルファラン *プレドニン=一般名プレドニゾロン *サレド=一般名サリドマイド *ベルケイド=一般名ボルテゾミブ *レブラミド=一般名レナリドミド
2015年に2種類の新薬が登場した
多発性骨髄腫の治療では自家移植も行われている(図2)。
「寛解導入療法で腫瘍の量を減らし、自分の造血幹細胞を採取します。その後、大量化学療法を行い、採取した造血幹細胞を移植します。ただし、大量化学療法を行うため、一般的には65歳以下で、重篤な合併症がなく、心臓や肺の機能に異常がない人しか対象になりません」
自家移植を目指す場合には、寛解導入療法として、BD療法(ベルケイド+*デキサメタゾン)などの併用療法が行われることが多いという。
年齢や合併症などの理由で自家移植を目指せない場合は、薬による治療を続けていくことになる。
「治療していく上で大切なのは、最初の治療で腫瘍の量をできるだけ減らしておくことです。それが、よい状態をなるべく長く維持するのに役立ちます。自家移植を目指せない場合、最初によく使われているのが、3剤併用のVMP療法(ベルケイド+アルケラン+プレドニン)です。その後、それでも進行するようになったらベルケイド、サレド、レブラミドを含む併用療法を行うのが、日本で行われているこれまでの標準的な治療法です」
このように確立していた多発性骨髄腫の治療だが、2015年3月に*ポマリスト、7月に*ファリーダックという新しい薬が承認され、多発性骨髄腫の治療は新しい時代を迎えることになった。またこの2種類以外にも、*carfilzomib(カーフィルゾミブ)、*ixazomib(イクサゾミブ)の臨床試験が進み、承認が近いとも言われている。さらに、現在(2015年12月時点)は再発難治の多発性骨髄腫にしか使えないレブラミドが、初発の段階で使えるようになる可能性もある。
新しい治療薬はどのような薬で、それによって多発性骨髄腫の治療はどのように変わっていくのだろうか。
*デキサメタゾン=副腎皮質ホルモン製剤(デカドロンなど) *ポマリスト=一般名ポマリドミド *ファリーダック=一般名パノビノスタット *carfilzomib(カーフィルゾミブ)=商品名Kyprolis(カイプロリス) *ixazomib(イクサゾミブ)=商品名Ninlaro(ニンラロ)
サレド、レブラミドを進化させたポマリスト
ポマリストは、サレドやレブラミドと同じように免疫調節薬に分類されている。
「サレドの進化版がレブラミドで、レブラミドの進化版がポマリストと言えます。より薬効が高い薬と考えていいでしょう」
この薬の効果を証明したのは、「ポマリスト+低用量デキサメタゾン群」と「高用量デキサメタゾン群」を比較した臨床試験だった。対象となったのは、再発あるいは難治性の多発性骨髄腫である。
結果は、ポマリスト併用群で全生存期間(OS)が延長するというものだった。全生存期間中央値が、「ポマリスト+低用量デキサメタゾン群」では12.7カ月、「高用量デキサメタゾン群」では8.1カ月だったのだ。この臨床試験データが、ポマリストが承認される根拠となった。
「3週投与、1週休薬を1サイクルとして繰り返すのですが、2サイクル行ったところで腫瘍が半分になっていない人でも、高用量デキサメタゾン群より生存期間を延ばす効果が認められました。腫瘍がある程度減少すれば、この薬を使う価値はあるということです。また、レブラミドが効かなくなった人でも、ベルケイドもレブラミドも効かなかった人でも、効果が期待できます。他に治療手段がない患者さんにとって、期待が持てる治療法だと言えます」
薬効が高いだけに、副作用には十分注意する必要がある。白血球や血小板が低下する副作用があり、必要に応じて薬の量を減らしたり、休薬したりすることも大切だという。
「この薬には、〝ベルケイドとレブラミドの治療歴がある人に使用できる〟というしばりがあります。そのため、全身状態(PS)が悪い状態で使用するケースが多くなるので、副作用については十分に注意する必要があります」
ベルケイドとの併用で効果を発揮するファリーダック
ファリーダックは、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害薬と呼ばれている。この薬はHDACという酵素の働きを阻害し、様々な作用をもたらすと考えられている。
「多発性骨髄腫の腫瘍細胞は、モノクローナル抗体をたくさん作るなど、タンパク質の合成が盛んです。ベルケイドを使うと、異常なタンパク質がたくさんできてしまい、腫瘍細胞内に蓄積します。これは細胞にとってストレスとなるため、腫瘍細胞は溜まった異常なタンパク質を分解するシステムをもっていて、その分解にHDACという酵素が関わっているのです。
ファリーダックはHDACの働きをブロックするため、細胞内に異常なタンパク質が溜まってしまい、そのストレスで腫瘍細胞が死ぬと説明されています。ベルケイドと併用することで、効果が発揮される薬なのです」
臨床試験でもベルケイドとの併用で有効性が証明されている。「ファリーダック+ベルケイド+デキサメタゾン群」と「プラセボ+ベルケイド+デキサメタゾン群」を比較した試験で、ファリーダックを併用することで無増悪生存期間(PFS)が延長することがわかったのだ。無増悪生存期間中央値は、ファリーダック併用群が12.0カ月、対照群が8.1カ月だった(表3)。
この臨床試験における3剤の投与スケジュールは、やや複雑である。1~8サイクルでは、ファリーダックは週に3回、ベルケイドは週に2回、デキサメタゾンは週4回投与する。これを2週続け、次の1週休む。この3週で1サイクルとなる。
9~12サイクルでは、ファリーダックは週に3回、ベルケイドは週に1回、デキサメタゾンは週に2回投与する。これを2週続け、1週休む。3週で1サイクルとなるのは同じである(図4)。
「休薬期間が必要なのは副作用があるからです。血小板が減少するので、休薬期間を挟みながら続けていくスケジュールになっています。休薬していても、血小板減少には十分な注意が必要です」
また、使用した人の7割ほどに下痢が起きるという。その他、食欲不振、疲れやすいといった副作用が現れることもある。
「今後は、どういう患者さんにファリーダックを用いるとよいのか、検討していく必要があります。レブラミドには皮疹や血栓という副作用があるため、レブラミドを使えない患者さんがいます。その場合、ベルケイドを中心にした治療が行われますが、そこに組み合わせることで高い治療効果が期待できます」
また、ベルケイドで十分な治療効果が得られなかった患者でも、ファリーダックを併用することで、効果が得られるようになる可能性があるという。
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