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トリプルネガティブ乳がん:新薬、治療内容の開発も盛んに行われている トリプルネガティブでも抗がん薬で半数に効果あり

監修●蓬原一茂 自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科(乳腺・甲状腺)助教
取材・文●文山満喜
発行:2013年3月
更新:2019年12月

  

「トリプルネガティブ乳がんにも打つ手はある」と話す
蓬原一茂さん

予後不良といわれているトリプルネガティブ乳がん。しかし最近では抗がん薬によく反応するタイプなども明らかになりつつあります。中でも、アンスラサイクリン系、タキサン系薬剤を中心とした抗がん薬治療で半数の人に効果があることが報告されています。

トリプルネガティブとは何か?

■図1 乳がんのタイプHER2受容体やホルモン受容体のように、治療の標的がわかっていないのがトリプルネガティブ乳がんに分類される *1のタイプは、さらに2つのタイプに分けられる

「トリプルネガティブ」という言葉は、一般的にはなじみの薄いものです。

これは、多くの乳がんの発症と増殖に関わる3つの受容体、すなわち、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモン受容体と、HER2というタンパク質の受容体とは関係しない乳がんのことです(図1)。

 

 

■図2 トリプルネガティブ乳がんの割合日本乳癌学会登録(2008年)より改変

トリプルネガティブ乳がんは現在、乳がん患者全体の10~15%ほどといわれています(図2)。

トリプルネガティブ乳がんの特徴は、薬物療法に関して苦戦を強いられており、そのため、他のタイプの乳がんより予後が悪い傾向があります(図3)。

 

 

 

■図3 トリプルネガティブ乳がんの特徴

●全乳がんの10~15%ほど
●ホルモン受容体陰性、HER2陰性
●ホルモン療法、抗HER2療法の効果がない
●手術後2~3年など、早期の再発が多い
●抗がん薬治療に対する感受性が高く、治療効果を期待できる
●術前・術後の補助化学療法として、アンスラサイクリン系抗がん薬・タキサン系抗がん薬が使われる

薬物療法では、がん細胞の増殖に関わる受容体を標的にすることでがんの増殖を抑制しています。

したがって、女性ホルモン受容体を持つタイプに適するホルモン療法や、HER2受容体を持つタイプに適するハーセプチンなどの抗HER2療法が使えないため、トリプルネガティブ乳がんの治療は他のタイプの乳がんと比べて非常に限定的な状態となっているのです(図4)。

■図4 トリプルネガティブ乳がんとは?

受容体=細胞表面で、細胞外の物質を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持つ構造のこと
トラスツズマブ=商品名ハーセプチン ラパチニブ=商品名タイケルブ

トリプルネガティブにもタイプがある

乳がんは、ホルモン受容体の有無、HER2受容体の有無の組み合わせで、4つのタイプ別に治療法を選択します。

トリプルネガティブ乳がんとはホルモン受容体なし、HER2受容体なしのタイプに分類される乳がんのことをいいます。

「図1のように治療標的がまだ見つかっていないがんをまとめているのがトリプルネガティブ乳がんです。だからトリプルネガティブタイプの中にも抗がん薬が効くタイプ、効きにくいタイプのがんがあります。そのため、治療薬の選択に難渋することが多いのです」と、自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科助教の蓬原一茂さんは言います。

治療の基本は手術と化学療法

初発治療の基本は、手術と化学療法(抗がん薬)です。

トリプルネガティブ乳がんは前述したようにホルモン療法や抗HER2療法が効かないタイプであるため、手術治療が可能な場合には、手術の補助療法として術前または術後に補助化学療法が用いられます。

自治医科大学附属さいたま医療センターでは、がんの大きさが1cm以下の場合、手術をすれば完治できそうな方にはまず手術で腫瘍を摘出し、術後に化学療法を行います。手術した結果、リンパ節にがんが転移していない患者さんには術後化学療法を行う必要がない場合もあるそうです。

がんの大きさが1~2cm前後の場合は化学療法を使用する必要がありますので、2通りの治療選択肢となります。1つは先にがんをとって術後に化学療法を行う方法です。もう1つは、手術前に抗がん薬を使用する治療(術前化学療法)です。

がんに対する術前化学療法の目的は、抗がん薬でがんを小さくして乳房温存手術の適応を広げることです。

通常、術後に必ず化学療法を受ける方ならば術前に行っても術後に行っても生存率に差がないことが明らかになっていますので、どちらを選択するかは患者さん個人の考え方や高い治療成績が得られる可能性などから決定していきます。

がんの大きさが2cm以上ある場合は、手術前に化学療法を行ってがんを縮小させてから乳房温存手術や乳房切除手術を実施します。

手術ができない場合や再発した場合は、化学療法が行われます。

「患者さんには、化学療法は術前、術後のどちらで行っても生存率に差はないので自分自身が納得できる治療法を選びましょう、というお話をしています」

 

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