サンアントニオ乳がんシンポジウム2012最新報告:新薬、ホルモン療法の最新知見も トリプルネガティブ乳がんにも標的治療実現の兆しが!!
35回目を迎えたサンアントニオ乳がんシンポジウム。新たな情報が待ち望まれているトリプルネガティブ乳がんなど、重要な研究成果が多く報告された。
新たな技術で遺伝子を解析
乳がん治療では、細胞を殺す薬剤による治療に加えて、がんを引き起こしている主な原因を明らかにして、それを止める、標的治療が行われている。乳がんの発生と増殖に関わる女性ホルモンの受容体を標的とするのがホルモン療法であり、がん遺伝子のHER2を標的とするのが抗HER2療法である。
トリプルネガティブ乳がんは、ホルモンの受容体、HER2のいずれにも関係なく発生する乳がんで、これまで何を標的に治療すればいいのかがわかっていなかった。
乳がんでは術前化学療法によって腫瘍が消失した乳がん患者さんは予後が良いが、腫瘍が残っている(残存病変がある)患者さんは、予後が良くないことが知られている。
ヴァンダービルト-イングラムがんセンターのジャスティン・バルコさんらは、トリプルネガティブ乳がんの患者さんの残存病変について、従来の解析方法に加えて、次世代シークエンサー(多くの遺伝子について、低コストで速く解析できる新たな技術)を用いて、術後療法の標的になる遺伝子の異常を見つけることに成功した。
90%の患者さんに治療の標的になりうる遺伝子変異が
今回の研究対象となったトリプルネガティブ乳がん患者さん114名の年齢は24歳から78歳(中央値48歳)で、90%がステージⅢ、3分の2の患者さんにリンパ節転移があった。
このうち、次世代シークエンサーで結果が得られたのは81名。解析した182のがん遺伝子とがん抑制遺伝子のうち、もっとも変異の頻度が高かったのはがん抑制遺伝子のTP53で、90%の患者さんにみられた。次に多かったのはMCL1遺伝子(56%)、MYC遺伝子(33%)の増幅だった(図1)。
これらの変異を、がんの増殖や成長にかかわるどの経路に関係しているかによって分類したものが図2である。バルコさんは、「90%の患者さんが、いずれかの変異を少なくとも1つ持っていた。これは、90%の患者さんが、既存の薬剤や、開発中の薬剤を用いた術後療法によって効果を得られる可能性を示唆している。今後の臨床試験で評価すべきだと考えられる」と述べている。
「経路」って何?
「遺伝子」には、そのそれぞれの過程で、何を作るか、どっちの道に進むべきかといった指示が書き込まれています。この指示にしたがって情報(シグナル)が伝わっていく道を、「経路」と呼びます。現在、図2に示したような「経路」の異常が、がんの発生と増殖にかかわっていると考えられています。そして、そのそれぞれの経路の異常を標的とする治療薬の開発が進められています
予後不良例に有効な新薬か
バルコさんらは、遺伝子の変異と、無再発生存期間、全生存期間との関係についても解析した。
その結果、MYC遺伝子が増幅し、かつ高MEKスコア(RAF/MEK経路が活性化されている)の患者さんは予後が極めて悪く、多くが2年以内に再発していることがわかった(図3)。
実験室での細胞を用いた研究では、セルメチニブ、トラメチニブなどのMEK阻害薬は、MYC遺伝子が増幅している細胞において、増殖の能力を表すコロニー形成を、強く阻害したという(図4)。
バルコさんは、「今後、MYC遺伝子の増幅があるがんに対するMEK阻害薬の効果について、さらに研究を進めるべきだ」とした。
また、8人と症例数は少なかったが、JAK2という遺伝子が増幅している患者さんも、無再発生存期間、全生存期間が極めて短いことが明らかになった。
こうした患者さんでは、JAK阻害薬が有効である可能性があり、これについても、今後、臨床で検証されることが期待される。
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