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アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を上手く使った術前・術後治療がカギ
治療に希望が。トリプルネガティブ乳がん最新情報

監修:大野真司 九州がんセンター乳腺科部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年3月
更新:2013年4月

  
大野真司さん
将来的にはトリプルネガティブ
でも、タイプに応じた治療法が
開発されるかもしれないと話す
大野真司さん

ホルモン療法も抗HER2療法も効かず、治療が難しいとされてきたトリプルネガティブ乳がん。
しかし、最近の研究によれば、次第に効く抗がん剤も明らかになりつつあり、3人に1人はがんが消失するまでになるという。

治療が限られている乳がん

[トリプルネガティブ乳がんの割合]
トリプルネガティブ乳がんの割合

トリプルネガティブと呼ばれる乳がんがある。がん細胞を調べた結果、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンの受容体がなく、HER2というタンパク質の受容体がない場合、このタイプに分類される。3つの因子がネガティブ(陰性)なので、トリプルネガティブというわけだ。乳がん全体の10~15%を占めているという。

トリプルネガティブについて、九州がんセンター乳腺科部長の大野真司さんは、次のように説明する。

「受容体が3つともない乳がんをまとめて、トリプルネガティブと呼んでいます。実はトリプルネガティブ乳がんといっても、1つではないのです。いろいろな種類の乳がんが含まれている可能性があり、遺伝子的に6タイプに分類できるといわれています。将来的には、それぞれのタイプごとに治療法が開発されるかもしれませんが、現時点ではトリプルネガティブとして治療が行われます。ホルモン療法と抗HER2療法が効かないのが、この乳がんの特徴です」

このようにトリプルネガティブ乳がんは、ホルモン療法もハーセプチン()やタイケルブ()などの抗HER2療法も効果がないため、薬物治療は抗がん剤治療が中心になる。

[トリプルネガティブ乳がんとは?]
トリプルネガティブ乳がんとは?
[トリプルネガティブ乳がんの特徴]

  • 全乳がんの10~15%を占める
  • ホルモン受容体陰性、HER2陰性である
  • 手術後2~3年での比較的早期の再発が多い
  • ホルモン療法や抗HER2療法の効果がない
  • 化学療法に対する感受性が高く、治療効果を期待できる
  • 術前後治療としてアンスラサイクリン系やタキサン系抗がん剤が使用される
  • 術前化学療法の効果(病理学的完全奏効)と予後が相関する


ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
タイケルブ=一般名ラパチニブ

術前・術後治療で再発が半減

まず、初期治療について解説してもらった。

「手術だけで治療を終わりにした場合、小さな転移があると、そこから再発が起こります。ただし、がんが1㎝未満なら、トリプルネガティブでも9割以上は再発しないので、治療は手術だけで終わり。がんが1㎝以上だと、再発することが少なくないので、術前あるいは術後の抗がん剤治療を行います」

術前でも術後でも治療効果に差はない。トリプルネガティブでも、それは変わらないという。抗がん剤は、アンスラサイクリン系と呼ばれる抗がん剤か、タキサン系と呼ばれる抗がん剤が比較的よく効く。

「トリプルネガティブには抗がん剤しかないため、できることなら両方使いたいので、アンスラサイクリン系とタキサン系を順次投与するのが一般的です」

この治療により、手術だけで治療を終わりにした場合に比べ、再発を半分程度に減らす効果があるという。

術前・術後に行う薬剤は?

[トリプルネガティブ乳がんに使われる主な化学療法の組み合わせ]
トリプルネガティブ乳がんに使われる主な化学療法の組み合わせ
 
[FEC療法からドセタキセルの投与方法、スケジュール]
FEC療法からドセタキセルの投与方法、スケジュール

患者さんのための診療ガイドライン2009(日本乳癌学会編)

[気をつけたい副作用]

薬剤名 骨髄抑制 嘔気 脱毛 その他
フルオロウラシル 下痢・口内炎・小脳失調・
心筋虚血
エピルビシン 心毒性
シクロホスファミド 出血性膀胱炎・抗利尿ホルモン
不適合分泌症候群・肺線維症
ドセタキセル 浮腫・発疹・アレルギー
反応
患者さんのための診療ガイドライン2009(日本乳癌学会編)

具体的には、アドリアシン()やファルモルビシン()といったアンスラサイクリン系()を含むFEC療法(3週1サイクル)を4サイクル、タキサン系()はタキソテール()の単剤療法(3週1サイクル)を4サイクル行うことが多い。FEC療法は、5-FU()、ファルモルビシン、エンドキサン()の併用療 法である。

アンスラサイクリン系を含む治療には、FEC療法から5-FUを除いたEC療法や、アドリアシンとエンドキサン併用するAC療法もある。

「どれがいいのか結論は出ていませんが、EC療法より、5-FUを加えたほうがいいだろうということで、FEC療法を行っています。ただ、5-FUの副作用である肝機能障害や全身倦怠感などが強い場合には、EC療法に変えることもあります。AC療法はアドリアシンに心毒性という副作用があり、高血圧、狭心症、不整脈などがある患者さんには使いにくいです」

タキサン系にはタキソールもあり、効果も副作用も差はないが、タキソテールが使われることが多い。

理由は2つある。1つはタキソテールが3週毎の投与なのに対し、タキソールは毎週投与(3週毎だと効果が劣る)という点。利便性の点でタキソテールが選ばれるわけだ。

もう1つ、運悪く再発したときのことを考えても、タキソテールが勧められる。再発後の治療については後で述べるが、分子標的薬のアバスチン()は、タキソールとの併用でしか使えない。つまり、先にタキソールを使った場合、再発したときにアバスチンとの併用が難しくなってしまうのだ。そこまで考えると、効果が同じなら、術前・術後治療には、タキソテールを選ぶのが合理的なのだという。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン
ファルモルビシン=一般名エピルビシン
アンスラサイクリン系抗がん剤=アドリアシン、ファルモルビシンなど
タキサン系抗がん剤=タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)など
5-FU=一般名フルオロウラシル
エンドキサン=一般名シクロホスファミド
アバスチン=一般名ベバシズマブ


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