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新しいサブタイプ分類が開く治療の可能性

トリプルネガティブ乳がんに、PARP阻害薬、PD-1阻害薬などの新薬も登場

監修●向井博文 国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2015年4月
更新:2015年7月

  

「トリプルネガティブ乳がんでは、思いがけない治療法が効くこともあるので、希望を持って治療を続けていただきたい」と語る
向井博文さん

ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)受容体、HER2タンパク受容体がいずれも陰性のトリプルネガティブ乳がん。これまで治療法の少ない、予後不良の乳がんと考えられてきた。しかし、トリプルネガティブ乳がんは、非常に多種多様なものが雑多に集ったものの総称であり、近年、最新の分子生物学的手法を用いてサブタイプに分類し、そのサブタイプごとに有効な治療法を探し出そうという動きが高まっている。最新の研究内容を専門医に伺った。

予後が悪いと一括りにされてきたが

トリプルネガティブ乳がんは、がんの増殖に関わる2つの因子、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)受容体とHER2タンパク受容体のどちらも持たない乳がんだ(図1)。

細胞内に女性ホルモンの受容体を持つ乳がんは、女性ホルモンを取り入れて増殖する性質がある。また、細胞表面にHER2タンパク受容体を持つ乳がんは、増殖が盛んなことが知られている。

そこで、ホルモン受容体を持つ乳がんにはホルモン薬を投与し、ホルモン薬が受容体に結合させて女性ホルモンががん細胞に取り込まれないようにする(ホルモン療法)。HER2タンパク受容体をもつ乳がんには、HER2タンパクを狙い撃ちすることでがん細胞を死滅させる抗HER2薬が使われる。

このように、がんのタイプ(サブタイプ)を見極めて行うのが今日の乳がん標準治療の基本となっているが、どちらの因子も持たないトリプルネガティブでは、これらの治療法は期待できない。

全乳がんのうち15~20% を占め(表2)、これまで治療法の少ない、予後のよくない乳がんと考えられてきた。

トリプルネガティブ乳がんには、ホルモン療法や抗HER2薬が効かないと考えられているため、初期治療は手術と術前または術後の抗がん薬治療が基本となる。

抗がん薬治療ではドキソルビシン、エピルビシンなどのアンスラサイクリン系と、パクリタキセル、ドセタキセルなどのタキサン系を単剤で順次使うことが多く、副作用や患者さんの状態により、シクロホスファミドやフルオロウラシルなどを併用することもある。

とはいえ、トリプルネガティブ乳がんに対する新しい治療はなかなか確立されず、ここ数年、標準治療が変わることはなかった(表3)。

図1 トリプルネガティブ乳がんとは?

表2 トリプルネガティブ乳がんの割合

日本乳癌学会抄録(2008年)より改変
表3 トリプルネガティブ乳がんの特徴

ドキソルビシン=商品名アドリアシン エピルビシン=商品名ファルモルビシン、塩酸エピルビシンなど パクリタキセル=商品名タキソール ドセタキセル=商品名タキソテール シクロホスファミド=商品名エンドキサン
フルオロウラシル=商品名5-FUなど トラスツズマブ=商品名ハーセプチン ラパチニブ=商品名タイケルブ

新たなサブタイプの分類が始まった

しかし、国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは次のように語る。

「一言でトリプルネガティブ乳がんと言っても、実は非常に多種多様なものが雑多に集まったものなのです。例えば、トリプルネガティブ乳がんの患者さんに抗がん薬治療は50%程度効くとされていますが、実際には抜群に効く人から全く効かない人まで混在していて、平均してこの数字になっていると言えます。

そこで、トリプルネガティブ乳がんの中にはどのような成り立ちのがんがあるのか、最新の分子生物学的手法でサブタイプに分類し、そのサブタイプごとに有効な治療法を探そうという動きが、各国の様々なグループで始まっています」

向井さんによると、分類法には様々なものがあり、6~7群に分類されていることが多い。中でも、「非常に特徴的で、かつ新規薬剤に結びつきそうなもの」として、次の3つが挙げられると言う。それぞれの新サブタイプの特徴と、今後の治療の可能性について伺った(表4)。

表4 トリプルネガティブ乳がんの新しいサブタイプ分類と治療研究戦略

(Lehmann BD, et al. J Clin Invest. 2011),(J. Cortes, ESMO2014)

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