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BRCA遺伝子変異の再発乳がんに大きな選択肢が トリプルネガティブ乳がんにリムパーザに続き新たな治療薬が承認予定

監修●向井博文 国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2019年9月
更新:2019年9月

  

「トリプルネガティブ治療の大きな流れは、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が中心になるでしょう」と語る向井博文さん

2018年1月に再発卵巣がんの維持療法に保険適用された分子標的薬リムパーザ(一般名オラパリブ)が、同年7月、「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性、HER2陰性の再発乳がん」に適応拡大された。これは治療法の限られているトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の患者には、とりわけ大きな朗報だったと言える。一方、遺伝性である可能性が高いこのタイプの再発患者に、どのタイミングで遺伝子検査を行うかなど、医療現場には新たな課題も。

国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんに、承認約1年のリムパーザとともに、免疫チェックポイント阻害薬の新たな可能性についても伺った。

細胞の修復機能を阻害することで、がん細胞を死滅させる

「遺伝性の乳がんは、乳がん患者全体の7~10%くらいとされていて、その半分くらいがBRCA遺伝子(BRCA1、BRCA2)に変異のある遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)とされています。

BRCA1は17番染色体に、BRCA2は13番染色体にある遺伝子です。それらは長い塩基配列で構成されていますが、例えば、本来ならアデニンという塩基があるべきところがグアニンに替わるというようなことが起きた結果、遺伝子が機能しなくなることがあります。これが遺伝子変異です。ヒトは約40兆個の細胞から成るとされますが、その1つひとつの細胞でこの変異が起きているということです」と、国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは語る。

「これはとんでもないことです。DNA配列は紫外線や食べ物などさまざまな要因に影響を受け、しょっちゅう傷つけられますが、それを修復する作用も持っています。それがうまく機能しなければ細胞はがん化しやすくなります。BRCA遺伝子はまさにその修復機能をもつ遺伝子であり、この遺伝子に異常がある場合は通常の何倍も、女性なら乳がん、卵巣がん、男性なら前立腺がんになりやすいのです」

さらに、BRCA遺伝子に変異のある乳がんでは、若年で乳がんを発症する、両方の乳房にがんを発症する、片方の乳房に複数回乳がんを発症する、乳がんと卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)の両方を発症するなどの特徴があることがわかっている。そのうえ、発症するのはトリプルネガティブ乳がんが多いので、効果のある治療が限られてしまう。

新たな薬剤が最も待ち望まれていたところに登場し、2018年7月から使えるようになったのがリムパーザ(一般名オラパリブ)だ。リムパーザはPARP阻害薬の1つ。PARPもまた遺伝子の修復に関与しているタンパク質。では、PARP阻害薬がなぜBRCA遺伝子に変異のある乳がんに効果があるのだろうか(図1)。

「PARPもDNAを修復する働きをしますから、BRCAに変異があり修復する力がない場合は、PARPが行います。しかし、PARPの働きも阻害されるといよいよ修復できなくなるため、細胞は死んでしまいます。PARP阻害薬を投与されると正常細胞も影響を受けます。しかし、正常細胞はBRCAが正常に作用するため細胞死には至りません」

効く人にはよく効き、副作用はかなり軽い

リムパーザは現在、乳がんの領域では「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」に対して保険が適用されている。その根拠となったのは、多施設共同国際第Ⅲ相試験のOlympiAD(オリンピアード)試験。BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があり、HER2が陰性で、アントラサイクリン系抗がん薬およびタキサン系抗がん薬による治療歴を持つ、手術不能または再発乳がん患者302例を対象に、リムパーザの有効性と安全性を、医師が選択した化学療法【ゼローダ(一般名カペシタビン)、ハラヴェン(同エリブリン)またはナベルビン(同ビノレルビン)のいずれかを選択】と比較したものだ(リムパーザ群205例、化学療法群97例)。

主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、化学療法群4.2カ月に対し、リムパーザ群は7.0カ月と統計学的に有意な延長を示した。副作用(有害事象)は205例中177例、86.3%に見られたものの、主な副作用は悪心(50.2%)、貧血(32.2%)、疲労(22.4%)などで、重篤な副作用は確認されなかった。

では、承認から約1年、実際に治療に使われるようになり、新たにわかったことはあるだろうか。

「正直、ほぼ論文通りですね。効果に関しては『効く人もいれば効かない人もいる』という答えにならざるを得ませんが、効く人にはとてもよく効きます。1日2回の経口薬であり、副作用が表れたらたら中止すればいいわけですから、抗がん薬に比べてマネジメントもしやすい。副作用そのものも抗がん薬より少ない。そんなに注意が必要ない、つまり、良い薬なんです。患者さんにとっては大きな選択肢であり、この薬が世の中に登場して使えるようになったことはとてもいいことだと思います」

さらに、今後の使い方にも期待が持てるという。

「リムパーザは現状では単剤で用いますが、その後に抗がん薬も使用することも可能なので、闘う武器が1つ増えるわけです。また、PARP阻害薬はほかにも多数開発されていて、中にはより効果が強いと思われるものもあります。一方、副作用も強くなる可能性がありますから、研究結果を見てからの判断ですね」(図2)

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