大腸3D-CT検査 早期発見と治療精度に貢献
3次元で大腸内を見る 患者負担軽減と手術シミュレーションにも
大腸がんは早期に発見されれば治癒しやすいがんであるが、日本では罹患率、死亡率ともに増加傾向にある。数年前から注目されているのが、検査の苦痛を軽減し、得られたデータを外科手術のシミュレーションにも活用できる3次元の「仮想内視鏡検査(大腸3D-*CT検査=CT Colonography:CTC)」だ。
大腸がん検査での利用は欧米が先行
従来、がん発見のための*大腸内視鏡検査では肛門から管を挿入する必要があったが、CTCは、体の外からCT撮影するもの。「CTCのメリットはたくさんあります。検査時間が短いこと、受ける方の苦痛が少ないこと、CTデータが残るので再現性や検証性に優れていることなどです。従来の内視鏡検査や*注腸検査で得られるような画像も作れます」(図1)
CTCの日本における臨床試験の中心となり、医師らを対象にした研究会などを通じてこの検査法の普及に努める福島県立医科大学会津医療センター小腸・大腸・肛門科学講座教授の遠藤俊吾さんは、新しい検査法の利点から話し始めた。
3次元画像の医療現場への応用は2000年代に入って本格化した。大腸がん検査での利用は欧米が先行し、日本では2009年に遠藤さんらが多施設共同臨床試験(JANCT)を始め、そこで得られた精度検証の結果はすでに学会などで発表されている。この検査は保険適用されていて、日本でもこの検査を行っている施設が増えてきている。
*CT検査=X線により、身体の横断像や縦断像を見る検査
*大腸内視鏡検査=細長いチューブの先端にカメラを内蔵した内視鏡を、肛門から大腸に挿入し、大腸の中を調べる検査
*注腸検査=肛門から大腸の中にバリウムと空気を入れて、X線撮影をする検査
抵抗の少ない検査で 検診受診率アップへ
「日本の大腸がん検診の受診率は米国や韓国などと比較してもかなり低い。第一段階の便潜血の検査が25%ほどです。便潜血検査で精密検査が必要とされた人々のうち、実際に検査を受けるのは半分ほどです。それは次の検査段階である内視鏡検査は、痛いとかつらいというイメージが強いことが原因に挙げられています。検診を受けないので、発見されたときに病状が進んでいることが多い。
私は外科医で、腹腔鏡手術などで治療に貢献していると思っていましたが、実は死亡率は下がっていないことに気づき、早期発見につながるような新しい検査を導入するグループに入りました」
検査は全体で15分 撮影は数十秒
遠藤さんは便潜血が見つかり、2次検診に訪れた患者さんに、まずは内視鏡検査を提示する。患者さんが、内視鏡検査に抵抗があると答えたときに、CTCを紹介するという。
検査の流れを見てみよう。まず、検査の前に腸管をきれいにするための前処置が行われる。大腸内視鏡検査では2Lほどの多量の下剤を飲んで大腸をきれいにしてから検査を行う方法が一般的だが、CTCではその半量以下の下剤でも高い精度が得られることがわかった。
「前処置も患者さんには大きな負担となってしまいます。CTCでは、いかに下剤の量を減らすかという工夫もしています」その工夫はタギングと呼ばれ、造影剤を下剤とともに経口投与する。「便が多少大腸内に残っていても検査できるようにという発想で、便とポリープを区別するために造影剤を入れます。便には造影剤が混じりますが、ポリープには混じらないので区別ができるのです」
前処置のあとの実際の検査では、肛門から大腸内に炭酸ガスを入れてCT撮影を行う。1回の撮影時間は20秒程度で、原則として2つの体勢で撮影する。「検査全体でも15分程度で終わります。何より、苦痛が少ない方法です。炭酸ガスをお尻から入れて膨らませるだけで、管などの挿入はありません。炭酸ガスは自動注入機で入れます。空気を手動で入れる場合は、急にお腹が膨らんで痛いこともありますが、自動注入の場合は、少しずつ入れて圧が一定になったら止めるので痛みはほとんどありません」
検査が終わった後も、負担が少ないという。大腸内にバリウムを注入しないのでバリウムの排泄を気にする必要はなく、炭酸ガスの体内での吸収は空気の100倍以上速いため、腹部膨満感も短時間でなくなるという。
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