新たな戦略登場で、大腸がんは諦めなくてもよい時代に
大腸がん治療ガイドライン2014年版をひも解く
選択肢が増えました」と話す
渡邉聡明さん
新しく改訂された、大腸がんの治療ガイドライン2014年版が今年1月に刊行された。前回の2010年版と異なり、新たな治療戦略が登場、大腸がんの治療選択肢は大きく増えている。どこがどのように変わったのか、作成に携わった専門家にその内容を聞いた。
治療の選択肢がさらに増える
大腸がんの標準的な治療方針を示す『大腸癌治療ガイドライン』の2014年版が刊行されている。2010年版が出て以来、3年半ぶりの改訂となる。
現在、大腸がんに対しては、標準治療としてどのような治療が行われるのだろうか。その全体像を紹介していきながら、ガイドライン作成委員会委員長を務めた東京大学医学部腫瘍外科・血管外科教授の渡邉聡明さんに、新たなガイドラインのポイントとなる部分を解説してもらうことにした。
「大腸がんの治療については、従来の治療法に加えて、新しい治療が行われるようになっています。それによって、新たな治療戦略も登場してきました。患者さんにとって、治療の選択肢がさらに増えたというのが、最大の変更点でしょう」
ガイドラインでは、推奨度とエビデンスレベル(科学的根拠のレベル)の表し方も新しくなった。2014年版で採用されているのは、推奨度を2段階、エビデンスレベルを4段階に分類し、それを組み合わせて表示する方法である。推奨度は、次の2段階に分ける。
・推奨度1 ……「実施する」あるいは「実施しない」ことを推奨する。
・推奨度2 ……「実施する」あるいは「実施しない」ことを提案する。
エビデンスレベルは、A(高い)、B(中程度)、C(低い)、D(非常に低い)の4段階に分けられている。また、大腸がんの治療について理解するためには、大腸がんのステージについて理解しておくことが必要になる。ごく簡単に説明すると次のようになる。
・ステージ0 ……がんが粘膜にとどまっている。
・ステージⅠ ……がんが粘膜下層または固有筋層にとどまっている。
・ステージⅡ ……がんが固有筋層を越えて広がっている。
・ステージⅢ ……リンパ節転移がある。
・ステージⅣ ……他の臓器や腹膜への転移がある。
2㎝以上のがんでも 内視鏡治療が可能に
まずステージ0~ステージⅢの治療について紹介しよう。このステージの大腸がんに対しては、内視鏡治療と手術(外科的切除)という治療が考えられる。内視鏡治療の対象となるのは、ステージ0の「粘膜内がん」と、ステージⅠのうち「粘膜下層への軽度浸潤がん」である(図1)。
これらの大腸がんで、なおかつ内視鏡で一括摘除が可能ながんならば、内視鏡治療が標準治療となっている。内視鏡治療は、肛門から大腸に内視鏡を入れ、腸の内側(腸管)から治療する方法である。次のような3種類の治療法がある。
・ポリペクトミー ……腫瘍の茎にスネアというループ状のワイヤをかけ、高周波電流で焼き切る。
・EMR(内視鏡的粘膜切除術)……粘膜下層に液体を注入してがんを持ち上げ、ポリペクトミーの方法で焼き切る。
・ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)……がんの周囲や粘膜下層に液体を注入してがんを持ち上げ、専用ナイフで切除する。
「2010年版のガイドラインでは、ポリペクトミーとEMRだけが記載されていて、対象となるのは2㎝未満のがんとなっていました。2014年版では、新たに保険適用されたESDが加わり、がんの大きさについても問わないことになっています」
なお、現時点では2~5㎝までの病変がESDの保険適用になっている。
腹腔鏡下手術の適応範囲が広がった
ステージ0~Ⅲで、内視鏡治療ができない場合には手術が行われ、がんの深達度やリンパ節転移の有無などによって、リンパ節郭清の範囲が決まる。手術には開腹手術と腹腔鏡下手術があり、近年は腹腔鏡下手術が広く行われるようになってきた。そうした現状に合わせて、ガイドラインも改訂された。
「腹腔鏡下手術が適応となるのは、結腸がんとRSがん(S状結腸がん)で、2010年版のガイドラインでは、ステージ0とⅠの場合となっていましたが、2014年版では、ステージに関わる記述がなくなりました。ただし、ステージⅡ、Ⅲに対しては、リンパ節郭清が難しいので、手術チームの習熟度を十分に考慮するようにとなっています」
大腸がんの中でも、直腸がんに対する腹腔鏡下手術は、結腸がんやS状結腸がんとは別に考えなくてはならない。「直腸がんに対しては、腹腔鏡下手術の有効性と安全性が十分に確立されているとは言えません。そこで、きちんとデザインされた臨床試験として行われることが望ましいとなっています」
この他、2014年版では、直腸がんに関して、括約筋間直腸切除術(ISR)という新たな術式の記載も加わった。肛門に近い下部直腸がんが対象で、肛門を締める2つの括約筋のうち、内肛門括約筋だけを切除するもの。この手術によって、肛門近くにできたがんでも、肛門機能の温存がある程度可能になってきたのだ。
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